第13話 浅井洋輔、義母を見舞いに
「そうなのですか、結婚当初は何かと世話になった義母ですから知らん顔も出来ないかなぁ」
すると幸造が口を挟んだ。
「なぁに離婚したって互いに憎みあって別れた訳じゃないなら、世話になった人なら見舞いもいいんじゃない」
「まぁそうですね。暇を持て余しているし、お詫びを兼ねてお見舞いに行ってみますか」
「そうかい、なら明日一緒に行きましょう。光江お前病院知っているよな」
翌日、幸造夫妻と一緒に病院に向かった。
病院に向かう途中、久し振りに息子の孝之から電話が入った。
「おう孝之か元気でやっているか。珍しいな孝之が電話をくれるなんて」
「うん、急なんだけど俺達、結婚する事に決めたんだ」
「なんだって? 本当か。そうかそれは目出度い……しかし俺は彼女の顔も知らんぞ」
「近いうちに紹介するよ。いま引っ越したアパートに居るの?」
「いや今は旅先だよ。ちょっとした縁で知り合った人と、今から母さんのお袋さんが入院している病院に向かう途中なんだ。別に母さんの実家に行った訳ではなく、八戸の魚が旨いのを思い出して、そこで知り合った人の奥さんが母さんと知り合いらしく、つまりお前のお婆ちゃんが入院していると聞き、知らん顔も出来ないので見舞いに行く途中なのさ」
「ふーん父さん、母さんの故郷にいったんだ」
「いや偶然だよ。久し振りの旅行なので北海道でも行って見ようかと思ったが、昔食べた新鮮な魚を思い出して途中下車したのさ」
「ふーん。まぁ楽しんでおいでよ。また連絡する」
孝之は、よりを戻したくて母の実家を訪ねて行ったと思ったらしい。孝之の感じでは勿論、元のサヤに収まって欲しいと思っているらしい。その証拠に一緒に式に出られるか尋ねて来た。
俺は息子が結婚するって嬉しく思った。早く未来の嫁さんを見たいと。
結婚式は来年の春くらいと言っていた。あと半年先だ。忙しくなりそうだ。
俺は病院の側にある花屋と果物屋へ寄った。しかしなんて挨拶してよいやら年甲斐もなく緊張した。病室を訪ねると義母はベッドに一人横たわっていた。久し振りに会った義母は思ったより元気そうだった。
「こんにちは、おばあちゃん覚えていますか。早苗ちゃんと同級生だった光江ですよ」
義母は少し間を置いて思い出したらしく、良く来てくれたと喜んだ。そして俺に視線を合わせた。
「お義母さん、ご無沙汰しております。浅井洋輔です。今更顔を出せた身分じゃないですが」
「洋輔さんかい……いや悪いのはこちらです。早苗から一方的に言い出したそうじゃないですか。本当にこちらからお詫びに伺わなければならないと思っていたのですが、この体では何も出来なくて」
思いがけない言葉に俺は救われる思いだった。帰ってくれと門前払いを喰わされても仕方がないと思っていた。幸造と幸造の妻は気を利かせて病室を出た。
俺は義母に自分の甲斐性のなさを詫びた。義母は余程嬉しかったようで、娘とまた一緒になって欲しいと望んでいるようだ。家に帰って来たら説得するから待っていて欲しいと涙ながら訴えた。またひとつ東北人の情に俺の心は熱くなった。しかし俺の心は満たされた。
この年で友達も出来た。そして義母とも心のわだかまりが消えた。消えたと云えば早苗は一体どこに居るのだろう? 実家には三日程しか居なかったそうだ。その後は音沙汰なしとか。
つづく
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