第10話 八戸の街に繰り出した

 あとはまさに戦場の戦士ごとく仕事、仕事に明け暮れたものだ。俺が出世して金を稼げれば家族は裕福に暮らせる。それが最大の目標だったはずだ。確かに自分で言うのもなんだが、人並み以上に給料を貰い人並み以上の暮らしも出来た。勿論、自分自身にも恩恵はあった。同期で入社した連中よりも俺は早く重役になり満足感を得た。

 だが少なくても妻は出世や金よりも一家団欒を求めたのだろうか。俺の自己満足に過ぎないのか? 妻は何度か愚痴を言って泣いていたこともる。だが俺は裕福になる事が幸せであり、それが何故悪いと愚痴に耳を傾けようともしなかった。

 それがやがては妻の孤独を誘い、互いの幸福感が違うと覚ったのだろう。

 幸福の価値観はそれぞれ違うのは分かる。いや、やはり一番悪いのは妻の悩み受け入れなかった俺だ。まだ旅に出たばかりだが、一人になって少しその答えが解けて来たような気がする。


 当初は一気に函館まで行き札幌、小樽から富良野へ行こうと思っていたが、八戸周辺が近づくと、急に八戸に行って見たいと思った。予定を変更して今夜の宿は八戸と決めた。何年ぶりかだが縁のある町だ。縁があるのは当たり前、早苗の生まれ故郷だもの。色々と言い訳しても分かれた妻が忘れられないのか? それとも妻が導いたのか?

 本当は海の見える宿に泊まりたかったが、観光ガイドに載っているのは市内のビジネスホテルばかりだった。特に高級ホテルというものはなく、大きなビジネスホテルが沢山あった。

 嬉しいのは料金が驚く安く最低料金は素泊りなら三千円程度で、平均五千円で朝食付きが主流のようだ。パソコンも一泊八百円で貸してくれる。勿論夕食はないが、市内に出れば郷土料理にありつける。ホテルに入りシャワーを浴びてから市内に繰り出した。


 ホテルでくれた食事処のガイドブックをみて、小奇麗な店に入った。

 豊富な魚介類が沢山盛られた刺身やB級ご当地グルメ 料理で有名な(せんべい汁)を食べた。

 地方に行けば、やはり地酒に限る。現役の頃は必ず地方の地酒を楽しんだものだ。

 ここの地酒は男山、陸奥八仙、面白いのが(素敵)という地酒もある。取り敢えず陸奥八仙を飲んで見た。なかなかの味だ。酒の肴はイカの丸焼き、よい組み合わせだ。ここ半年のうっぷんを忘れそうだ。


つづく

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