第6話 旅立ち

 だが、一応重役として働いていた変なプライドが邪魔して上手く働けるかも自信がないのも確かだ。やはり暫く一人旅に出ようとは思っている。多少の蓄えもあるし十年は遊べるだろう。その後は年金暮らしとなるかも知れないが、とにかく今は孤独に耐えられないのだ。

 本当にこのままなら、その内にボケ老人になりそうで怖いのだ。


 仕事をして居る時はどれだけ充実していた事か、まったく仕事がないと、ただの初老の男でしかないのか? 友達? 考えてみれば殆どいない。なんてことだ! 一番大事なことじゃなかったのか。そんな俺だもの、妻に愛想つかされて当然か。ともかく自分がこれからどうするか決めなければならない。俺は翌日から旅行会社に行きパンフレットを揃え、それを元にインターネットで調べてみた。


 一応は旅行行程の資料を揃えた。後は行き当たりバッタリで行くしかない。

 数日後、俺は旅の準備を始めた。時期は初秋、まだ紅葉には早いが北海道か東北の山なら、そろそろ紅葉が見られるかもしれない。ただそれも海か山か街になるか行ってみないと分からない。大家には暫く留守にすると二ヵ月分の家賃を先払いし、洋酒を持って「留守中頼みます」と言ったら上機嫌で「気をつけていってらっしゃい」と云われた。

 どうやら大家だけは上手くやって行けそうな気がする。

 翌日の朝、東京駅の東北新幹線のホームに俺は立っていた。


つづく

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