第4話 ご飯さえ炊けない洋輔
急に一人暮らしになって食事もままならない毎日だ。何しろ家事をしたことがない。洗濯だって今までは妻がやってくれた。クリーニングという手はあるが、まさか下着までは出せない。小さい洗濯機を買ったものの使い方さえ分からない。見かねた娘の香織が、洗濯機の使い方や食事を作るに来てくれる。香織が作ってくれなければコンビニの弁当か外食。呆れた香織が、ごはんの炊き方や簡単な料理方を教えてくたれ。その香織は俺の過去の過ちには一切触れなかった。良くできた娘だ。こんな立派な息子と娘を育ててくれた早苗に感謝しなくては……今更遅いが。
息子と娘はどう思っているのだろう。妻のありがたみを思いするが良いと思っているのか? 後ろめたい気持ちはあるが、親子関係が最低限は維持されているのが嬉しい。
長男の孝之は仕事の関係で静岡に住んでいる。孝之は今年で二十八歳になるがまだ独身である。娘の香織も二十六歳で独身だが、二人ともしっかりしていて特に心配も要らないが俺達の離婚に関してはとやかく言わなかったのが不思議であった。
もしかしたら妻の早苗から、離婚について子供達と話し合っていたのかも知れない。
つまり準備万端のうえでの離婚だったのだろうか。子供達は中立でどちらが良いとか悪いとかは言わない。もう大人だからだろうか? 立派に育った子供達は妻の育児と教育の賜物だろう。
しかし一日がこんなに長いとは思わなかった。会社勤めしている時は時間が足りないほど動き周っていたものだが、今では朝八時に起きてパンを焼いて目玉焼きを作って食べ、新聞を読むのが習慣となっている。目玉焼きの作り方だって娘から教わったものだ。次はご飯の炊き方を教えてくれるとか。仕事人間の俺には、家庭では何も出来ない幼児と同じような今の俺が情けない。妻とは離婚したが課題も残されている。子供達二人が結婚する時、母である妻はどうするのだろうか?
俺と言えば自分の非を認めながらも心の奥底では未練が残っているが、妻にすがりつく様な姿は見せたくなかった。これも重役として勤めたプライドなのだろうか? いやもう今は無職で初老の男、プライドを捨てろと、もう一人の自分が脳裏に働きかけている。
つづく
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