第2話 過去の過ち

早苗と離婚してから半年が過ぎた。三十年も連れ添って来た仲だ。気にならないと言えば嘘になる。ただ早苗が別れると言い出すには余程の理由があったのだろう。他人事みたいに言ってはいるが、その責任はすべて自分にある事も知っている。企業戦士とかなんかと都合のいい事を言っているが、俺は早苗に対し耐え難い裏切り行為をしていたのだ。

 いわゆる不倫という奴だ。それは妻にとって容認出来ないことである。それは今から十七年前に遡る。その浮気相手に子供が出来たことだ。

 もちろん離婚騒動になったが、その相手の女性は子供が五歳の時に病で亡くなってしまったのだ。俺は誓った。もう生涯浮気はしないと、だが残された問題がある。子供をどうするかと云うことだ。まさか自分の家に引き取る事も出来ない。結局はその女性の親が引き取ることになった。そりゃあ大変だった。相手の親からはどう責任を取るのかと責め立てられた。だがその彼女は重い病に侵され死を覚悟していたらしく両親と俺宛に遺言が残されてあった。


『お父さんお母さん、私の身勝手を許してください。不倫であったけど私は後悔していません。洋輔さんと出会い子供が生まれた事は何より幸せでした。もし私が洋輔さんと別れても新たな人と結婚するつもりはありません。私に愛する事と愛される事を教えてくれた洋輔さんを決して攻めないで下さい。私達の大事な大輔の父は洋輔さんなのですから……』

 そのような事が延々と書かれてあったそうだ。

 俺宛てに手紙にも俺に

『貴方に出会いて幸せでした。ありがとうございました。でも最後のお願いがあります。大輔の行く末です。私の両親はなんと言うか分かりませんが貴方と私の子供です。どうか立派に成長するまで見守って下さい』

などと書かれてあった。

 俺は養育費を支払い、高校を卒業したら後の判断は大輔に委ねる事とし双方で取り決めた。

 相手の親も渋々ながら承諾してくれたが最初は一切、大輔とは接触しないで欲しいと言った。


 だが彼女の遺言が効いた。親子関係を絶たれら彼女がどんなに悲しむか、それが理由だった。俺は時折だが親の責任を努めた。遊園地にも数度連れて行き、時々プレゼントして父親の真似事をした。俺は家族を一度は裏切ったが、その後は妻と家族一筋に生きてきた。だが早苗は覚悟を決めていたのだろう。子供たちが一人前になったら離婚すると。それには俺は気づく事もなく今日に至ったのだ。

早苗との間に二人の子供がいる。大輔よりも十歳前後、年上の子供がいる。

 ただ当時は二人とも中学生で、そんな事情を理解出来なかったかも知れない。

 俺は物事が理解できる高校に進学した頃、二人の子供に過ちを説明して詫びた。

 嫌だと言っても高校生の二人は納得するしかなかっただろう。

 俺は長い時間を掛けて二人に非を詫び、今では理解の下に親子関係を保っている。

 しかし妻には長年に渡って溜まったうっぷんを爆発させたのだろう。

 だから俺は出て行った妻を黙って見送るしかなかったのだ。


つづく




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る