第28話 決闘の開始
「さて……貴族として学園に入ったけど、これから誰が「魔王」にされてしまうのかを見極めないといけないんだよな。常識的に考えて、『ノーブルⅤ』から捨てられる女子生徒ってことになるんだけど……」
ヘリックは学生として学園に通いながら、ノーブルVと呼ばれる男子生徒たちに注目する。ケルセウスは自室にこもって部屋からでてこなくなったが、他の四人はあいかわらず女子生徒たちと遊びまくっていた。
「対象が多すぎてわからない……」
女子生徒たちをとっかえひっかえ遊んでいるせいで、彼らにもて遊ばれた者は多くいる。そういう生徒はショックを受けてひきこもるか、開き直って自分も遊びまくるビッチになっており、「魔王」になるほどの行動力がある者は見当たらなかった。
「『魔王』になるには、単に振られたとかじゃなくて、何かもっと重大な恨みを買うようなことがあったとか……考えられるのは、よっぽどプライドを傷つけられたとかだけど……」
ヘリックは、ノーブルVたちの婚約者だと名乗った『ビューティV』と呼ばれる女子たちにも注目する。
「今のところ、『魔王』になるような兆候はないな」
彼女たちは上級貴族の子女であると同時に、それぞれの分野で目立つ存在であり、カースト上位の陽キャとして取り巻きに囲まれ楽しそうに学生生活を送っていた。
「まあ、まだイベントが起こってないということか。奴らに注意しておこう」
そう思っていると、アテナイとエウロスがやってきた。
「もう。なんなんのよ。ちょっと前まではドワーフ娘ってバカにしていたくせに!」
「ヘリック、助けてください」
二人は迷惑そうな顔をしながら彼の後ろに隠れる。
「二人とも、どうしたんだ?」
「なんか知らないけど、付き合ってくれって言われたの」
「断ったんですけど、しつこく迫って来ていて……」
二人がそうヘリックに訴えていると、大勢の男子生徒たちがやってきた。
「アテナイさん。僕と付き合ってください」
「エウロスさん。うちは広い領地があるので、一族の方々と一緒にこられても大丈夫ですよ。だから僕と婚約を……」
次々に花束やプレゼントを持ってきて、エウロスに貢ごうとする。
しかし、二人は真っ赤な顔で断った。
「残念だけど、私はヘリックの従者だから」
「困ります。私は父からヘリックに嫁ぐように言われていますので!」
「お、おいおい」
自分の背中から顔だけ出してそんなことを言われてしまい、ヘリックは困ってしまう。案の定、男子生徒たちから非難されてしまった。
「ヘリック、彼女たちを解放しろ!」
「そうだ。今時政略結婚なんて古いんだよ!」
「彼女は嫌がっているじゃないか!」
男子生徒たちは口々にヘリックを責めたてる。
「だから、政略結婚なんて彼女たちの親父が勝手にいっているだけで、俺は……」
「うるさい!こうなったら勝負しろ!」
頭に血が昇った男子生徒たちに、勝負を挑まれてしまう。
「おっ!決闘だ!」
「きゃー!女の子をめぐって決闘なんて素敵!」
「力づくで婚約を押し付ける、野蛮なヘリックなんて倒しちゃえ!」
それを見ていた男子と女子が騒ぎ出す。
その時、ニヤニヤした王太子アポロが進み出て、騒ぎ立てる生徒たちに向かって宣言した。
「決闘は貴族の誇りを守るためのもの。ヘリックよ。君が本当に貴族になる資格があると認めてもらいたいのなら、いさぎよく彼らの挑戦を受けたまえ」
「……わかった。いいだろう」
こうして、放課後にヘリックと男子生徒たちの決闘が行われることになるのだった。
放課後、魔法学園の中庭に設営されている闘技場に、ヘリックたちは連れてこられていた。
「まったく。貴族ってなんなんだよ。入学早々に決闘騒ぎとはな。蛮族なのか?」
ヘリッくの愚痴を、アテナイがまあまあと宥める。
「貴族はプライドが高いのよ。平民が自分たちの仲間になるなんて、受け入れがたいんじゃない?だから何かと口実を付けて、自分たちの力をひけらかしたいんじゃない?」
アテナイの言葉を聞いていたエウロスも、微妙な顔になる。
「私たちに男子生徒が迫ってきたのも、もしかして因縁をつけたかっただけでしょうか?」
「たぶんそうじゃない?私が入学したときは、地方下級貴族のドワーフ娘だって相手にされてなかったしね」
アテナイは以前の生徒たちの態度を根に持っているらしく、今更男子生徒たちに迫られても彼らを相手にするつもりはなかった。
「いや、お前たちが俺の従者なんだっていうから、奴らを刺激したんだろ。黙っていればよかったのに」
ヘリックにそう指摘されて、アテナイは決まる悪そうな顔になった。
「そ、それは、ヘリックとの関係を聞かれて、つい口をすべらせちゃったのよ」
「まあ、黙っていてもいずれバレるだろうから別にいいんだけど、実はモテでうれしいと思っているんじゃないか?」
ヘリックがそうからかうと、アテナイは嫌な顔をした。
「冗談でしょ。どうせ彼らは魔石が目当てなのよ。私と付き合えば、廉く大量に土の魔石を融通してもらえるからって親から言われているんじゃない?」
「私に迫っているのも、なんとかしてハーピー族を取り込みたいからでしょうね」
二人はそういって、闘技場の反対側で気勢をあげている男子生徒たちを冷たい目で見た。
「みんな!暴虐なヘリックにとらわれた二人を救い出すぞ!」
「おお!」
彼らは円陣を組み、杖を振り上げてテンションをあげている。
「そんなことはないと思うけどな。彼らはお前たち自身にも充分興味があると思うぞ」
ヘリックは男子生徒たちの熱気を感じ取ってそうもらす。
「そ、そうかな?」
「ああ。身分や種族とか家の事情とか抜きにしても、お前たちは美人だからな」
真面目な顔でヘリックに言われて、二人の顔は真っ赤に染まっていった。
「へ、ヘリックったら……」
「ふ、普段そっけないのに、突然そんなこと言うのは反則ですわ」
二人は照れてそっぽを向く。それをみた男子生徒たちは、ますますヒートアップした。
「見ろ。嫌がって顔をそむけているぞ!」
「かわいそうな囚われの姫たち。俺たち正義の騎士が、ヘリックを倒して婚約解消させてあげるからね!」
こうして、ヘリックと男子生徒たちの戦いが始まるのだった。
審判を申し出たアポロが口を開く。
「では、これから決闘をはじめるにあたり、ルールを説明する。貴族としての誇りをって、正々堂々と戦いたまえ。命を奪うのは禁止だが、それ以外なら何をやってもいいぞ。思い上がった平民に、貴族の力を思い知らせてやれ」
アポロはそういうと、貴族の男子生徒たちに笑いかける。
「わかりました!」
生徒たちは元気よく返事をして、剣や杖を構える。
「命を奪わなければいいんだよな」
「魔法がつかえない元平民なんて、俺の一撃で楽勝さ!」
全員が自らの勝利を確信して、意気揚々としていた。
「では、最初の挑戦者を……」
「必要ない。面倒だから全員でかかってこい」
ヘリックが淡々と告げると、生徒たちは怒りに震えた。
「なんだと!生意気な」
「お望みどおり、全員で戦ってやる!」
ヘリックの言葉に憤った生徒たちは一丸になってヘリックに襲い掛かるのだった。
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