第27話 入學
魔法学園
学園に戻ったアテナイは、貴族の男子生徒たちに取り囲まれていた。
「アテナイ嬢。君のお父上は準男爵に昇爵されたんだね。おめでとう」
「これで君も正式な貴族の仲間入りだ。あの……それで、土の魔石をこれからも廉く売ってほしいのだが……」
彼女を取り囲んでいるのは、主に地方の在地貴族の男子生徒たちである。彼らは以前彼女をドワーフとバカにしたことを忘れたように、彼女にすり寄っていた。
(まったく……手のひら返しが早いわね。まあ実家からなんとかして私と仲良くなれと命令されたんでしょうけど)
彼女は媚びへつらってくる男子生徒たちにうんざりしていた。
そんな彼らを、女子生徒たちは法衣貴族の子弟たちは冷たい目で見ていた。
「いやぁね。ドワーフなんかに取り入って」
男子生徒たちにちやほやされているアテナイを見て、エスメラルダが不快そうに鼻をならす。
「まったくだ。身分の低い田舎者らしいな。まあ、気にするな。あんなちびより、君のほうが100倍美しいよ」
王太子アポロをはじめとするイケメン男子生徒たちに慰められて、エスメラルダは機嫌を直すのだった。
「だけど、父上から彼女に関わるなって言われているんだよね。なんでなんだろうか」
アポロ王太子が首をかしげる。
「さあ?俺は親父から主共々躾けてやれって言われているけどな」
赤い髪のやんちゃそうな少年、アレスがそういってアテナイを睨みつける。
「アレスもかい?実は僕も父からそういわれているんだ。学がない彼らに貴族の作法を教育してやれってね」
青い髪のメガネ少年、セイレーンもそうつぶやく。
「僕もそんなこと言われたな。あのドワーフ娘はともかく、もう一人の羽娘をなんとか篭絡して味方につけろとかなんとか」
小柄な少年エロスがそういったとき、教室のドアが開いて教師と黒髪の美少女が入ってきた。
「この度、新たに騎士に叙爵されたボレアス騎士の長女、エウロスと申します。皆さまよろしくお願いします」
黒髪ポニーテールに巫女服のような民族衣装をまとった美少女は、そういって挨拶する。
「なんでドワーフに続いて、ハーピー族まで入学してくるのよ?」
彼女を見た貴族の息女たちは顔をしかめるが、子息たちか嬉しそうな顔になる。
「か、可愛い……」
「黒髪の天使だ……」
エウロスの美しさをみた男子生徒たちのテンションは、どんどん高まっていく。
(なるほど。羽娘って彼女のことだね)
そう思ったエロスは立ち上がり、彼女に握手をもとめて手を差し出してきた。
「よろしく。僕はエロス・ビーナスだよ。わからないことがあったら何でも聞いてね」
精一杯可愛くみえるような笑顔で笑いかけてくる。それに対してエウロスは、礼儀正しく一礼した。
「ええ、よろしくお願いします」
「さっそくだけど、今日の放課後に親睦を深めるためにデートでも……」
そう誘ってくるエロスに対して、エウロスはにっこりと笑って断ってきた。
「ごめんなさい。私はあるお方にお仕えしないといけないので、あなたのお誘いに乗ることはできないんです」
「え……?」
今まで女子をさそって断られたことがなかったエロスは、笑顔を浮かべたままで固まってしまった。
「ご紹介しますね。私のご主人様です」
エウロスがそういったとき、一人のたくましい少年が教室に入ってくるのだった。
「俺はヘリック男爵だ。よろしく」
教室に入ってきた少年は、ぶっきらぼうに挨拶する。彼をみた女子生徒たちから悲鳴があがった。
「あ、あいつは棍棒をもって女子寮に乱入してきた野蛮人!」
「どういうことなの?馬小屋の下男が入学してくるなんて!」
生徒たちが騒ぎ出したので、渋い顔をした教師が一括した。
「静かにしなさい。男爵様に無礼だぞ!」
「え?だ、男爵って?」
「そうだ。ヘリック卿は正式に帝国から男爵位を授爵されたお方だ。君たちも知っているだろう。土星城という空中ダンジョンを攻略した冒険者のことを。彼はその功績をもって、平民から男爵となったのだ」
教師の叱責を聞いた生徒たちは沈黙する。ここにいる生徒たちは上級貴族の出身とはいえ、あくまで貴族の子弟であって爵位をさすげられたわけではない。つまり、男爵位を持つヘリックは、現時点の生徒の中では王太子に次ぐ身分をもった存在なのだった。
「そ、そんな!認めないわ。ヘリックが男爵だなんて」
それを聞いたエスメラルダが金切り声をあげる。
「そうだ、そいつは元は馬小屋の下男だ。栄光ある貴族にふさわしくない」
それに触発されて、王太子をはじめとするノーブルVの面々が口々に叫んだ。
「でていけ!」
「教室が臭くなる」
「ここは野蛮人がくるところじゃないよ」
しかし、ヘリックはそう罵声を浴びせられても平然としていた。
「まったく。ピーピーとやかましいな」
ヘリックはそういうと、背中から棍棒を抜いた。
「静かにしろ!」
怒鳴ると同時に、教壇に棍棒をたたきつける。バーンという音と共に、頑丈な木の壇は木っ端みじんに破壊された。
「いっておくが、俺を男爵に任じたのは皇帝陛下だ」
皇帝の名前を出されて、生徒たちは何も言えなくなる。
「文句があるならかかってこい。実力で俺を追いだしてみろ」
そういって、生徒たちを睨みつける。騒いでいた生徒たちは、あまりの迫力に気おされて沈黙した。
そんな中、一人の女子生徒が立ち上がる。
「ヘリック。さすがにやりすぎよ。一応貴族なんだから、暴力をふるってはダメ」
そういって彼を諫めたのは、ドワーフの美少女、アテナイである。
「だけど……」
「だけどじゃない。ここは貴族としての勉強をするところで、戦いの場じゃないのよ。少しぐらい煩わしくても我慢しなさい」
そう諫められて、ヘリックはしぶしふ棍棒を収めた。
「あ、あの。アテナイさん。君は彼とはどんな関係なの?」
そう聞かれたアテナイは、クラスメイトたちにペコリと頭を下げた。
「みなさん。私の主人が乱暴をしてしまって、ごめんなさいね」
それを聞いた生徒たちの間に、ざわめきが沸き起こった。
「主人って……旦那様ってこと?」
「うっそー。いくら貴族が結婚が早いからって、私たちってまだ学生なのに……」
生徒たちから好奇の目で見られて、アテナイは慌てて。
「ち、違うわ。そういう意味じゃなくて、その、私は彼の従者なのよ」
「なんだ。そうだったのか……」
アテナイにいいよっていた男子生徒たちの間から、ほっとした雰囲気があがるが、それを新入生の一言がぶち壊した。
「ええ。ヘリック様の妻は私です」
「はぁぁぁ?」
再び男子生徒たちから声があがる。彼らの視線の先には、ニコニコと笑っているエウロスがいた。
「ちょっと!」
「ふふ。なんですか?アテナイさん」
焦った顔になるアテナイに聞きとがめられ、エウロスは余裕顔で笑いかける。
「嘘言わないで。私たち二人ともヘリックの従者でしょ!」
「うふふ。まあ今は確かにそうですけど、婚約者として認めてもらうように努力しますね」
エウロスは見せつけるように、ヘリックの腕をとって組む。
「ぐぬぬぬぬぬ……」
それをアテナイはうらやましそうに見ていた。
彼らのいちゃいちゃする様子を見せつけられ、男子生徒たちは歯ぎしりする。
「うらやましい……妬ましい……平民から男爵になったばかりか、あんなに可愛い婚約者が二人もいるなんて!」
彼らは嫉妬にまみれた視線をヘリックに送っていた。
「まだ学生なのに、皇帝陛下に男爵様として認められたですって……」
「しかも、すでに従者を二人も従えている。もしかして、実は結構裕福な家なのかも……将来すごく出世したりするかも……」
一部の女子生徒たちは、獲物を狙う肉食獣の目でヘリックを見つめる。
「ふ、ふん。たかが男爵じゃない。大したことないわよ」
そしてエスメラルダは、悔しそうにつぶやくのだった。
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