第7話 女神ガイア

「世界の創造を終えた神々は、長い長い時を過ごしてきました。そのうちに、ある病に取り付かれたのです」

「病だって」

「ええ。「退屈」という病です」

ガイアの顔には、限りない苦悩が浮かんでいた。

「最初は神々は、世界中の生物を巻き込んで仲間内で争って退屈を紛らわせようとしました。人間の間でギガントマキアと呼ばれる戦いです」

ヘリックは黙って、ガイアの話を聞き入る。

「しかし、神々に死はありません。争いの決着は、「封印」という形でしかつけられなかったのです」

最終的にオリンポスの神々が勝利をおさめ、ティターンの神々は封印された。

しかし、敵がいなくなった神々はまたしても退屈を感じ始める。

そのため、次は人間に魂の一部を写し、その短い生涯で経験するさまざまな体験を感じることで退屈を解消させようとした。

「もちろん、神々だって苦しみや悲劇を体験したくはありません。そこで、契約した人間には自分の魂の一部とともに『魔法』という力を与え、人間の中でも優位な立場を得られるようにしたのです」

神々の思惑どおり、魔力を得た人間は貴族として社会の中で支配者になり、さまざまな快楽をむさぼることができるようになった。

そのしわ寄せはすべて支配される平民に行くことになるが、契約していない人間がどんなに苦しもうが神々にとっては知ったことではなかった。

「さして、平民たちの不満を逸らし、貴族たちに世界を支配する「正当性」を与えるため、時には不満や苦悩を抱えた人間に魔力を与えて『魔王』に仕立て上げ、世に騒乱を巻き起こして最終的には「勇者」に倒されるという茶番も行っています」

それを聞いて、ヘリックも憮然とした顔になる。

『わかりますか?魔法を得るということは、神々の駒になるということです。それでも力を手にしたいとおもいますか?』

ガイアの忠告を聞いても、ヘリックは引き下がらなかった。

「かまわない。どうせ今の平民のままでも、貴族たちの玩具として蹂躙されるだけだしな」

それを聞いて、ガイアも説得をあきらめた。

『わかりました。あなたとあなたの眷属に、「大地」の魔力を与えましょう』

ガイアの手から光が発せられ、ヘリックを照らしていく。彼の胸に、土星のマークが刻まれた。

『これであなたは、土魔法の『始祖』となりました。願わくば、無力な民のためにその力を使ってくれることを望みます』

そういうと、ガイアは次に崩壊した封神樹の残骸に向けて光を放つ。

すると、躯の中から金色に輝く妖精が現れた。

「あ、あれれ?蘇っちゃった」

「あなたを私の眷属として再生させました。わが僕『ノーム』よ。わが子ヘリックに仕えるのです」

ガイアがそう命令すると、ノームはしぶしぶヘリックの前に跪いた。

「仕方ないね……君に忠誠を誓うよ。マイマスター」

ノームが手を振ると。中心部を構成している『封神樹』の壁から枝が生えてきて、たくさんの黄金色に輝くリンゴが実った。

「これが『黄金のリンゴ』か……」

ヘリックがリンゴを食べると、今まで感じたことがないパワーが全身にいきわたり、細胞の一片に至るまでしみこんでいく。同時に胸に刻まれた土星のマークから、様々な魔術式が伝わってきた。

「エスメラルダ。待っていろよ。俺が必ず貴族たちからまもってやるからな。『反重力(アンチズシン)』」

黄金のリンゴをいくつかとると、反重力を使って宙に舞い、ヘリックはノームと共に土星城を後にした。



そのころ、魔法学園では……

「エスメラルダさん。今日は僕とデートしようよ」

小柄で女子のような繊細な顔をしている少年は、エロス・ビーナス

「おい。ぬけがけするんじゃねえ」

黒い髪のたくましい体をした男、アレス・マーズ。

「そうですよ。今日は僕と図書室で勉強するんです」

大学者の息子で学園一の優等生、セイレーン・マーキュリー。

ノーブルⅤと呼ばれているイケメンたちが、それぞれエスメラルダを取り合っていた。

「み、みんな……落ち着いて……困っちゃう」

エスメラルダは真っ赤になって困り顔をするが、その口元はニマニマと緩んでいる。村にいたころは見たこともないイケメンたちに囲まれて、ご満悦だった。

その時、パンパンと手が叩く音が響き、二人の美少年が現れる。

「君たち、エスメラルダが困っているじゃないか」

そう声をかけてきたのは、この国の王子、アポロ王太子だった。

「そうだよ。僕の従妹をあまりいじめないでくれ」

王子についてきたケルセウスも、そうたしなめる。

「だけどよう。こいつらが……」

不満そうに口をとがらせる彼らに、王子は提案する。

「彼女と仲良くなりたいのは、みんな一緒だよ。ここは一人ずつデートするというのはどうだい?」

「そうだな!」

三人は、アポロの提案に同意する。

「それじゃ、くじ引きで……」

その結果、一番を引いたのはセイレーンだった。

「エスメラルダさん。行きましょうか」

セイレーンは、紳士的に手を差し出してくる。

「え、ええ……」

ためらいながら手を取った彼女は、二人で図書室へと向かう。

その姿を、外の者たちは薄笑いを浮かべて見送っていた。



セイレーンに連れていかれたのは、図書室の地下だった。

「あ、あれ?こんなところに部屋があったんですか?」

「ええ。特別な勉強をするための部屋です」

セイレーンは自信たっぷりに扉を開き、中に招き入れる。部屋には大勢の男女がいて、ニヤニヤしながら本を読んでいた。

「すごい……この新作は抜ける」

「はぁはぁ……王女と小姓の禁断の愛……」

なぜか読んでいる生徒たちは、目を血走らせて息を荒くしている。

「みんな、なんの勉強をしているのかしら。楽しそう」

「ふふ。『子孫を作るための勉強ですよ」

セイレーンは適当な本を取ると、エスメラルダに渡す。

それを読みだしたエスメラルダは、次第に顔が真っ赤になっていった。

「えーーっと。いやん、くすぐったい。だめよもうすぐママが帰ってくるんだから、とりんだは言ったのだが、ぼぶはごういんに……え?」

本といえば聖書しかなかった村出身のエスメラルダには、思いもしなかったことが書かれている。

いつしか、エスメラルダはむさぼるように本を読みふけるのだった。


図書館から戻ってきたエスメラルダは、真っ赤な顔をしていた。

「さあ、次は俺だ」

赤色の髪をしたたくましい男、アレス・マーズは、まだボーっとしているエスメラルダの手を強引にとって、馬房へと向かう。

そこには、たくましい馬が用意されていた。

「おう。モッコリ号。今日もビンビンだな」

「ヒヒ―ン!」

たくましい馬は、いななくと前足をあげて棹立ちをする。

「きゃっ!」

巨大な股間が目に入り、エスメラルダは思わず目を覆った。

「さあ、乗馬デートとしゃれこもうぜ」

アレスは服を脱ぎ捨て、上半身裸になる。たくましい男の体臭がむせかえり、エスメラルダは頭がくらくらとした。

「よし、いくぜ」

気が付けば、アレスに抱きかかえる形で馬にのせられており、そのまま走り出す。エスメラルダは初めてのる馬の高さとスピードに、思わずアレスにしがみついた。

「怖い!」

「大丈夫だ。俺を信じろ」

アレスはエスメラルダをぎゅっと抱きしめる。男のたくましい筋肉と匂いを感じて、エスメラルダはこの上もない幸福感を得るのだった。


乗馬から戻ってきたエスメラルダの手を、女子のように顔をした小柄な少年、エロス・ビーナスが引っ張る。

「次は僕だよ。さあ、いこう」

今まで思いもしない体験を続けたことで、興奮のあまり頭がのぼせていた彼女は、その純真な笑顔をみて癒された。

「ええ、いきましょう」

そういって連れてこられたのは、学園のプールである。そこには大勢の白い薄着をきた生徒たちが、水遊びをしていた。

「そーれそれ」

「やーん」

多くの生徒たちが、男女関係なく水遊びを楽しんでいる。その姿は無邪気で、子供に返ったように遊んでいた。

「僕たちもいこう」

「ええ」

エロスに手を引かれ、エスメラルダも薄着に着替える。

そしてプールに入ると、追いかけっこや水かけなどをして楽しんだ。

「あはは。それそれ!」

「きゃっ!冷たい!」

夢中になって遊んでいると、次第に服が濡れて透けてくる。それを回りの男子たちは、ニヤニヤしながら見ていた。

彼らのねっとりとした視線を感じたエスメラルダは、着ている服が透けていることに気づく。

「どうしたの?」

そんなエスメラルダを見て、エロスは心配そうな顔になる。彼が来ている半パンも透けて股間がとんでもないことになっているが、気にした様子はなかった。

そんな彼を見ていると、恥ずかしがっている自分がおかしいのではないかと思えてくる。

「なんでもない。そらっ!」

いつしか羞恥心を忘れて、透けている服を着ていることもかかわらず水遊びに興じるのだった。

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