花火

もなこ

花火

手を繋いで近所のコンビニまで歩いた。ひとつ売れ残ったチキンと、ジュースは1本ずつ。無言で手を繋ぎ歩くと、家まではあっという間だ。チキンを半分ずつ食べて夜通し愛し合った後、東の空が明るくなってから抱き合って寝た。

夜、花火大会に行こうね。そう話したのも忘れ、目を覚ますと日が沈んでいた。辺りは暗くはないものの、夏の日の長さを考えると花火はもうすぐ上がるだろう。今年は花火を諦めるしかないか、と肩を落とした。何言ってんの、行くよ、と君。嘘でしょ、本気? と私。

目を丸くする間もなく、気づいた時には自転車の荷台に座っていた。すっかり真っ暗になった静かな道を、2人乗りの自転車が飛ばして行く。車のいない赤信号を通過し、昨日行ったコンビニの前を通り過ぎ、川に架かる橋の上も過ぎた。独特の生ぬるい風が、なんだか今は心地よい。大丈夫、間に合う、その声のコンマ数秒後。ドン、と進行方向の空から大きな音がした。目の前の背中で見えなかったが、なんの音かはすぐに分かった。それを合図に何発も花火が上がった。角を曲がり、真横に花火が見えるようになるとその美しさに目が輝いた。

夢中になっていると、まだ到着していないのに自転車が停まった。ここで見よう、ここなら2人で見れる。顔を前に向けると、サドルに座ったまま花火を眺める横顔があった。私も同じように花火に顔を向け、同じ景色を眺めた。

起きれなくてごめんね。そう言いかけて、やめた。

ありがとう。それだけ言うと、来年もここで見ようか、と幸せそうな笑顔が私を見ていた。

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花火 もなこ @ms903love

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