七、園芸部と化学部
園芸部 SIDE先崎秀平
そういうわけで、時宗院高校三重密室殺人事件は幕を下ろした。全ては恋心を勘違いした女の子が起こした、純愛の暴走だった。
結局「女子を守る」という野望を果たせなかった俺は、夏休みが終わってもなお少しの間ぼんやりと過ごした。具体的には一週間くらい。魂が抜けたみたいにぼーっとして、遠い彼方の雲を眺めたりした。
ある日、誰もいないアルコープでぼんやり座っていると銀の字が来た。
「お前がおとなしいと調子が狂うな」
そっと差し出してきたのは、キリンレモンのペットボトルだった。ちょっと飲むにしちゃ量が多いぜ。そう思いながらも、受け取る。銀の字が隣に座る。
「結局俺は、何も守れなかったな」
つぶやく。言葉にすると無力感がエグい。
「そんなことないんじゃないか」
銀の字が慰めの言葉を発した。しかし俺は銀の字に返す。
「いいや。俺は松下美希ちゃんの性癖も暴いちまったし、加佐見典代を追い詰めた。駄目だ俺は。駄目駄目だ」
「そう自己嫌悪するなよ」
銀の字がため息をついた。
「お前と麻生、評判だぞ。名前こそ出ていないが、新聞各紙が『高校生が謎を解く』って大騒ぎだ」
「たまたまだよ。運がよかったんだ俺ぁ」
しばらく二人で、ぼーっとする。
夏休みが終わって、定期試験も終わって、夏がまだ尾を引く秋の夕暮れ。気温は変わらねぇくせに、日照時間だけはきっかり短くなっていやがる。
「お前なんかを心配する奴だっているんだ」
銀の字がふらりと立ち上がる。
「今日はそのことを伝えに来た」
「へっ、何だよ。お前に心配されると何だか気持ちわりぃな」
「俺だけじゃないぞ」
唐突な言葉に俺はびっくりする。しかし銀の字は続ける。
「大切な相棒、もう一人増えたんじゃないのか?」
俺がボケっと銀の字を見ていると、奴はフ、って感じで笑ってからこう続けた。
「相手はホームズだからな……お前はワトソンというところか? それにしちゃ暴れん坊だし女たらしだな。新しい、ワトソンなんて脇役じゃない、別枠の存在か?」
すっと、銀の字が小さなビニール袋を手渡してくる。俺がそれを受け取ると、中には星形のクッキーが入っていた。
「お菓子作りは得意なんだそうだ。何でも『量とタイミングをしっかり守っていればちゃんとしたものができるから』らしい。お礼は本人に直接言えよ。かわいい相棒ができたな」
危うくキリンレモンのボトルを落とすところだった。俺はふと銀の字から目を離して、俺の真後ろ、背後を見た。
そこに一人、立っていた。
実験の途中だったのか、白衣を着て、眼鏡をかけて、恥ずかしそうにこっちを見ている、あの暴力……。
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