五、共有と挑戦
共有 SIDE先崎秀平
夕日が、地平線に沈もうとしていた。
保健室から出た俺は、体育館と本校舎とを繋ぐ渡り廊下で、少し途方に暮れていた。というのも、俺の目標はどう足掻いても達成できないわけで、俺のこの戦いはいわゆる負け戦だったからである。
ぼやぼやする。
すぐ近くにあった自販機を見た。さっきここで琴子ちゃんに会って、NECTARおごってやったっけ。あの子元気出たかな。ちょっとでも前向きな気持ちになれたらいいな。
自分が馬鹿らしくなる。
心底どうでもいい気分になってからふらりと動き出し、俺はセミナーハウスの方へと歩き出した。目的はない。だが目標はある。
セミナーハウスの入り口は二階にあり、俺が今いる本校舎とは渡り廊下で繋がっている。俺は本校舎の中の階段を上って、その渡り廊下を目指した。一歩一歩が重たかった。だが俺はやり遂げた。
そうして本校舎とセミナーハウスの間にある、渡り廊下に繋がるちょっとしたドアを開けたところで、俺は驚く。そこにはあいつが立っていたからだ。
「麻生」
「先崎くん」
麻生花純が、渡り廊下で立ち尽くしていた。俺は訊ねた。
「お前どうしたんだよ」
「先崎くんこそ」
「俺は……まぁ、その、あれだ」
「あれって?」
「分かったんだ」
「分かった?」
麻生は少し首を傾げたが、やがてすぐに目を見開き、「分かったの?」と訊いてきた。俺は頷いた。
「多分な。誰が犯人か、くらいは」
「犯人が分かったの?」
「ああ」
だけどよ、と俺は続けた。
「トリックは分からねぇ」
すると俺の言葉を受けた麻生が、急に考え込むような顔になった。
少しの間の後、麻生が、ハッキリと、告げた。
「私はトリックが分かってる」
俺は驚いて麻生の方を見た。
「でも犯人が分からない」
笑った。俺は、気がついたら、笑っていた。
「そうか……そうか」
ヘラヘラしたまま続ける。
「ならひとつ、どうだ?」
俺の提案が分かったのだろう。麻生が恐る恐る頷く。俺は鼻からため息をつくと彼女に近づいた。
「じゃあ、いっちょ合体……」
「その言い方やめて」
「悪かったよ」
それから俺は、麻生に俺が気づいたことを話した。麻生は黙って聞いていると、やがてぽつんとつぶやいた。
「そっか……」
すごく沈んだ声だった。
「確かにそうだ。言われてみたらそうだ」
続いてそう、頷く。
「やっちゃったな……」
そんな風に後悔する麻生に向かって、俺は優しい声をかけてやった。
「気にすんなよ。あの場にいたら誰でもそうする」
「でも……」
「気にすんな」
「でも」
「もうやめだ」
麻生はひとつ、ため息をついた。
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