共有 SIDE麻生花純

 のんちゃんと琴子の話が盛り上がっている中、私の中でもある考えが盛り上がっていた。

 これって、そうか。もしかして……もしかして! 

 私は立ち上がった。そんな私を二人がびっくりして見つめてきた。

「どうしたの」

「な、なに」

「ごめん」

 私は二人を見つめ返した。

「私、行かなきゃ!」

「い、行く?」

「どこへ?」

 自分のカバンをひったくるようにしてつかんだ私に、琴子が一言。

「帰る時気を付けてね!」

 多分、あんな事件があったから、心配してくれたのだと思う。

 私は振り向きざまに「ありがとう!」と告げると空き教室を飛び出た。目指すはセミナーハウスだった。


 本校舎からセミナーハウスに行くには、渡り廊下を渡る必要がある。

 私は全速力で渡り廊下に着くと、呼吸を整えながらそこを渡った。廊下の窓の向こう、地平線には、夕日が沈もうとしていた。弾む胸をなだめながら、ぼんやりと赤い光を見つめる。何だかすごく長い時間だった。たった二日しか経っていないのに、とても、本当に、長い時間の中をいた。

 ようやく落ち着いてきた胸をひと撫でし、よし、と覚悟を決めて前に進もうとした時、急に背後でドアが開いた。誰かが渡り廊下に入ってきたのだ。

 私が振り返ると、そこにはあの先崎秀平くんが立っていた。どうしようもないナンパ男。でも、胸に抱える何かが眩しい。

「麻生」

 先崎くんがそう声をかけてきたので、私は返した。

「先崎くん」

 すると彼が訊いてきた。

「お前どうしたんだよ」

「先崎くんこそ」

 それから少しの間押し問答した。

 先崎くんはナチュラルにセクハラかましてきたので今度はやんわりと口で諭した。そういえば彼には会う度に暴力を振るっていた気がする。申し訳ない……とは思わないな。自業自得だ。

 しかしその後の話で、私たちはお互いにないものを持っていることに気が付いた。先崎くんから提案してきた情報の共有はとても有意義なものだと思えた。だから私は、応じた。私が知っている全てのことを先崎くんに話した。

 今にして思えばこれはあまりいい手ではなかったのだけれど、続く先崎くんの情報が真実だったから、この際どうでもいい。でも本当は、もっと慎み深くならなければ『アメリカのシャーロック・ホームズ』にはなれない。

「よし……行くか」

 一通り話し終えた後、先崎くんはそうつぶやいた。重たくて決意のある響きだった。これから二人で警察に行く。話すことは事件についてだ。そして……二人で……。

 この事件を、終わらせるんだ。

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