第9話 とりあえず殺っとけ

給湯室、ナツメグは見た


黒いスマホの画面の中にコンバースのスニーカーを履いた足を見てしまった

背後、ふとした時

あるはずのないものと対峙したとき人は動くことを止める


中を軽く調べたのだが、ドアから一番遠い所に

簡易的にカーテンで仕切ったスペースがある

急病人のための物だろう。

今、そこに人がいることはあり得ない


バタバタ、、、とカーテンがはためき始める


はためくたび、一角だけ黒色で塗った闇が見え隠れする

顔が見えない


びちゃ、びちゃ、、、


粘っこい液の滴り落ちる音

聞きなじみのある音


生きているのがおかしい。

自分の手で切断したはずだろ


パーツになって、吸い込まれて


今ここに居るのは


生き返ったとでもいうのか


笑わせてくれる


「いいさ、何度でも殺してやるよ」

手持ちのナツメグがどこかに行ってしまったので

殺し方としては納得いかないが、なぶればいいだけの話だ


それも嫌いじゃない


手に特殊チタン合金の自撮り棒を構えて

ゆっくりと振り返り、カーテンを睨む


いない


居ないはずがない、ゆっくり時計回りに確認していく


シンク、冷蔵庫、壁、小さい棚、カレンダー平成32年


真後ろ視界に全体が収まる距離


アカネらしき者がいた


干からびた土気色の肌

髪の毛は水分を失いぱさぱさしている

骨と皮のやせこけた身

目はあるはずなのに見当たらない

口を微かに動かせば

溶けた歯がポロポロ抜け落ちる


ふらふらと中心点を失ったようにゆれつづける


好みじゃない。

これではなぶる気にもなれない

戸惑う理由もないので、殺すことにする


頭をフルスイングしておく。

威力としては、金属バットのフルスイングぐらいだろう


ぺきっと小枝の折れるような音がして、首が3回転半回る


倒れた時の、音の軽さに耳を疑った


あまりにも軽すぎる


つまらなさすぎる


「チッ、つまんね」


こうなったら用はない。

とっとと逃げるだけだ


ドアに手をかける。


ごぽっ、、


耳のそばで





事務室、アカネとその他三名


「、、、いいとこ、だったのに」

この不都合はどうしてくれようか


「叩けば治るのではないか?、、ふん!」

右手。斜め四十五度。ガツガツとチョップをくらわす

治る気配などない。じわじわと頭が痛くなってきた


「コンセント(?)とかの影響じゃないのか。早苗見て来いよ」

「、、わたし、埃っぽいとこ苦手なんだけど。

てか、コンセントなんてドコにあるのよ」

「知るか。一番働いてないのお前だろ、見つけるまでが仕事だっつーの」

「鬼、、、」

しぶしぶテレビから延びるコンセント(?)をたどってみたところ

「コンセント、ないわよ」

「あ?」

「だからっ!、、コンセント自体がないの」

「生えてないのか?」

「無いわよ!ないっつてんでしょーが!」

そうなると、テレビはそもそも動くはずなどないということになる


「おや、これは、もしかしてはめられたのか」

チョップがようやく止まる


ぶぉ、、ん

懸命なチョップのおかげで反応したのか、再び息を吹き返すテレビ


>you win_


*ナツメグ が 仲間になりたそうにこちらを見ている

>いーれーてー_

>あっそびーましょー


出てけ、帰れ。もう来るな


>仲間にしますか?_

>YES_

>はい_

拒否権はない。選んでもいないが勝手に進んでいく


>やった!、それじゃ、おうちに遊びに行くね

>いま、あるいてるよ_

>いま、近くまで来たよ_


優しい花畑から、街へ、住宅街へ移動していく


>あ、おんなのこだ、好みだったから殺すよ_

>手持ちがなくて、ふろ場で殺すしか」なかったんだ_


突然の展開に声を失う


>これは彼女からの贈り物


蓮の葉?コラージュというものを知っているだろうか

皮膚に画像を合成して、作り上げるもので

あれのように穴ぼこになると大変気持ち悪い。

今まさにそういうとこだ。


>今家の前にいるんだ_

>ドアを開けてくれないかな_

穴ぼこだらけになったナツメグの顔 ドアの のぞき穴から

開けますか」


____________________________YES

プッ。


「、、、ドアは」

「わたしの後ろが最後でしたが」

「ふむ。鍵をかけた覚えはないな」

「ああ、、まあ、期待はしていなかった」


ぎっ、、、ぎっ、、ぎーーー


<いーれーてー>

水の中にいるときに聞く声をしていた

水死体とはこのことを言うのだろう

見たことはないが

今見たところ

見た目からして、ストレートに気持ち悪い。


「、、帰れ!」

「そうだ!」

「きもいんだッての!このハスおとこ!!」

中指を立てる。立て慣れているようでビシッと決まる

「さあ、来るがいい!私が相手だ!!」

「「「アホか!」」」


<、、、>

ぱたん。

とドアを閉めてしまった

心なしか、泣いていたように見えた


「アカネクン、頼みたいことがあるんだ」

「嫌です。お断りします。何なら今すぐ死んでください」

どうせ、ロクなことじゃない

こちらは調子が悪く、すぐには動けそうにない

嫌な予感しかしない


「キミの尊き命(本日二度目)を使って時間を稼いでくれないか」

「つまりは死ねと?」

ふざけんな


「ああ、紙の束を縛るやつあったけど使えるかしら」

縛ろうってのかよ


「、、とりあえず事務椅子に縛っとくか」

乗り気かよ、止めろよ


「私が縛ろう。、、ふむ、どう縛ろうか」

「縛り方なんて一つしかないでしょ」

早苗が率先して

いそいそと紐でグルグル巻いていく。かなりの手際の良さが垣間見える

、、慣れてんじゃねーか


「さて、見たところこんなものか。、、私の知ってる縛り方より大分ゆるいが」

「気のせいじゃないでしょうか。ああ、それと

わたしのこと、恨まないでくださいね。これも、ですげーむ ですから。

他の二人のことは、恨むなり、殺すなり、好きにしてください」


「まぁ、ですげーむだし今更死んだっておかしくはないしな。」


「さようなら、たのしかったわ」

「、、ごめんな。ただ、お前のことは忘れない」

「というわけだ、成仏してくれ」


「くそが、、、てめぇらぁ、、」

悪態ついても無意味なのは分かる。しっかりと固定されてしまった


「さぁ、景気よく出血大サービスといこう!」

島鳥が事務椅子の背に立つ、おい待て何をする気だ

「さらばだ、アカネクン!」

と、同時に椅子を蹴っ飛ばし

ドアまでの直線距離を縛られたまま椅子コースターにされる


アタシ以外は反対のドアから逃げている


滑っていく瞬間から磯の香りが風に乗ってくる

ああ

嫌いな海の香りで、死ぬのか。


カレシとお揃いの死に方かぁー

いいかもしれない

、、、いや、よくない!

死んだら生き返れせれないじゃん!

ダメだ


「し・ん・で・た・ま・るかぁ~!」

うおぉぉー!!と椅子を ぎったん、がったん

止まれ、止まれ、止まれー!!


うまい事減速していく椅子。

なにも、ドアの前で止まらなくったていいじゃん、、


ぎぎぃ、、、

<あーそーぼー>

水膨れをおこした顔がアタシを見下ろしていた

「、、、あ」

ぼとり

ヘドロが顔面にかかる

ああああああっつッつっつさぁ!臭いッつ!


ちょっと、口に入ったかもしれない

腐乱とか酸味が口にひろがる中で

失神に一歩近づきかける

吐きそう

いや、吐いてたまるか


「これ以上、吐くものなんかない!!」


身をよじり、尻ポケットの中のナイフを左手で取り出したはいいものの

日頃の運動不足で肩と腕が思うように動かない

それでも、なんとかナイフで縄を切り

事務椅子とおさらばし


さて、反対のドアから逃げ、、、

がちゃん。

「あいつら、、、」

こういうときだけ、ちゃんとしてるってどういうことだよ


<あーそーぼー>


とにかく、アイツを出口から引きはがさないと 出られない


やってやろうじゃない


「遊んでやるから、こっちにこい!」


アタシが相手してやる


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