第3話 ツンデレ栄養士

カフェで落ち着いてから、涼子は私に真剣な表情で打ち明けた。


「実はさ、私がキンニクフエールっていう新薬を開発したんだ。その薬を君に飲ませたの。ごめんね。」


私は驚きのあまり言葉を失ったが、涼子は続けて説明してくれた。


「この薬はもともと筋肉量を増やすために開発したんだけど、動物実験でわかったんだ。食べる量が格段に増える副作用があることが。だから、君がこんなにお腹が空くわけだ。」


涼子は顔を伏せながら、私に詫びるような口調で話し続けた。


「でも、これからどうしようかって考えたんだ。君が研究所で暮らして、私たちが監視しながら薬の効果や副作用を調べるっていうのはどうかなって。そうすれば、君には栄養士が準備する食事を摂ってもらって、安心して生活できるし、私たちもデータが取れる。」


私は涼子の提案をじっくりと考えた。彼女が私のために考えてくれたことや、自分の体を使って科学のために貢献できることに魅力を感じていた。


「涼子、ありがとう。その提案、受け入れるよ。研究所で暮らして、薬の効果や副作用を調べるのに協力する。」


研究所に到着してから、涼子は私を栄養士のところへ連れて行ってくれることになった。栄養士の名前は翔太だった。私たちは翔太のオフィスに入ると、彼が書類を整理しているところに出くわした。


彼は見上げると、その瞬間私の目に飛び込んできたのは、彼の容姿端麗な顔だった。彼は私たちに気づくと、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷たい目線で私たちを見つめた。


「あんたたち、何しに来たの?」と翔太が言った。


涼子が答えた。「これが、新しい被験者の小百合だよ。彼女の食事を担当してもらうことになったんだ。」


翔太は私をじろじろと見ると、突然嘲笑のような笑みを浮かべた。「ふーん、こんな子が被験者か。まあ、いいけど。」


私は彼の態度にムッとしたが、涼子が慌ててフォローしてくれた。「小百合、翔太が最初はちょっとツンデレだけど、すぐ慣れるから大丈夫だよ。」


翔太が私に言った。「なにか必要があったら、このベルを押せよな。」


まだ研究所についたばかりだったが、私のお腹はまた空いてきた。仕方なくベルを鳴らし、翔太にお腹が空いたことを伝えた。


「え、もうお腹が空いたのか?まあ、いいけど。ちょっと待ってて。」と翔太は言いながら、キッチンへ向かった。


しばらくして、翔太が手作りのオムライスを持ってきた。彼が料理を作るなんて、ちょっと意外だったけれど、見た目も美味しそうだった。


私は食べてみると、その味はまさに絶品だった。「これ、すごく美味しいよ!ありがとう、翔太。」


翔太は少し照れながらも無愛想に言った。「別に、あんたのためじゃないからね。仕事だからやってるだけだから。」


私はその無愛想な対応にちょっとがっかりした。「そんなに無愛想に言わなくても…」と思いながら、それでもおいしいオムライスを食べ続けた。


次の日、私は朝から研究所での生活に慣れようと努力していた。キンニクフエールの副作用で一日の食事の回数は7回になることが判明していた。


1回目の朝食には翔太が作ってくれた美味しいパンケーキとフルーツを食べ、エネルギーをたくさん摂取した。翔太は相変わらず無愛想だったが、彼の料理の腕前は確かだった。


2回目の朝食には、ヨーグルトとミックスナッツを摂取。これは私が自分で用意したものだった。


その後、涼子が私の体調をチェックしに来た。キンニクフエールの副作用としての空腹感がどれくらい続くのか、彼女も気になっていたらしい。私は、昨日ほどではないものの、やはりお腹がすぐに空いてしまうことを伝えた。


3回目の昼食には翔太が作ったサンドイッチとサラダを食べ、午後は研究所の周りを散歩しながら新しい環境に慣れようと試みた。そんな中、翔太が時折様子を見に来てくれていた。


4回目の昼食では、手軽に食べられるおにぎりとお茶漬けを用意してもらい、しっかりとエネルギーを補給した。


5回目のおやつの時間には、フルーツゼリーやプリンなど、甘いものを摂取。翔太はちょっと驚いた顔をしていたが、渋々用意してくれた。


6回目の夕食には、翔太が和食のコース料理を作ってくれた。その美味しさに感動すると、翔太は少し照れくさそうにしていたが、やはり無愛想な態度は変わらなかった。


最後の7回目の夜食では、翔太が作ったおかゆやお味噌汁で、一日の締めくくりを迎えた。


私はこの日も満腹で寝ることになり、研究所での生活に少しずつ慣れていくことを感じた。しかし、キンニクフエールの副作用である空腹感がいつまで続くのか、私はまだ確信を持てずにいた。翔太の料理は確かに美味しいものの、このような食事の回数が続くと、彼に迷惑をかけてしまうのではないかと心配になってきた。それでも、私は涼子と共に研究の進捗を詳しく知りたいと思い、研究所での生活を続けることに決めた。


次の日、研究所では私のフィジカルテストが予定されていた。朝早くから研究所のスタッフたちが集まり、様々な機器を設置していた。涼子が私に詳しい説明をしてくれる。「このテストでは、キンニクフエールが君の筋力や持久力、反射神経などにどのような影響を与えているかを調べるわ。」


テストはまず筋力測定から始まった。腕立て伏せや腹筋、スクワットなど、いくつかの基本的なエクササイズを行い、その回数と速さを記録した。驚くことに、私は以前よりもはるかに多くの回数をこなすことができた。次に、持久力のテストが行われた。私はトレッドミルで走り、速度と距離が記録された。私の持久力もまた、以前とは比較にならないほど向上していた。


最後に、反射神経のテストが行われた。私はボールを投げられ、それをキャッチすることで反射神経を測定した。私は驚くべき速さでボールをキャッチし続け、スタッフたちも興味深げに結果を見守っていた。


テストが終わると、涼子は私の結果をまとめて分析した。「これらのデータから、キンニクフエールが君の体力や反射神経を著しく向上させていることがわかるわ。ただ、副作用である食欲増進も無視できない問題だから、これからの研究で副作用をどう抑えるかが重要になるわね。」


次の日も私は7回の食事を摂らなければならない状況だった。翔太は私の食事を計画的に提供することにし、以下のようなメニューが用意された。


1回目(朝食):

オムレツ、ベーコン、フルーツサラダ、ヨーグルト、トースト、オレンジジュース。栄養バランスが取れた朝食で、1日のエネルギーをチャージする。


2回目(上午の間食):

スムージー、ナッツ、ミニサンドイッチ。栄養価が高く、簡単に食べられるスナックを提供。


3回目(昼食):

鶏肉のグリル、野菜サラダ、玄米ご飯、味噌汁。タンパク質と野菜を中心にしたバランスの良い昼食。


4回目(下午の間食):

プロテインバー、フルーツ、ヨーグルト。簡単に食べられ、エネルギー補給ができるスナック。


5回目(夕食):

焼き魚、炒め野菜、ご飯、味噌汁、漬物。和食を中心に、バラエティ豊かな食材を提供。


6回目(夜の間食):

チーズ、クラッカー、カットフルーツ。軽いスナックで空腹感を満たす。


7回目(夜食):

豆腐と野菜のスープ、玄米おにぎり。消化しやすく、寝る前に食べても胃に負担がかからないメニュー。


翔太は私の食事を丹念に計画し、バランスの良い栄養素を提供してくれた。私は食事の度に感謝しつつ、これらの食事を通じて副作用を抑えるための研究も進めていくことになった。

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