44.メンテナンス
『機神、帝都軍港に帰還。戦果は、MG=75アトミックファイアの撃破』
テレヴィジョンから流れるニュース。僕は、それを聞いて。何とも言えない気持ちになった。
僕が帝都に来てからの研究の集大成。今まで基礎技術は出来ていたものの、僕が完成の設計図を書いた事になる、巨大生体機械兵器、機神。
その機神が、初めて帝国が魔大陸の守護神である魔神の一体を撃破したというのに。
気分が浮かなかった。
帝都を見渡せる高層ビルの部屋から、外を見て。
「そうだ、メンテナンスを。しないと」
そうおもって、ローニさんの携帯端末に連絡を入れた。
* * *
「アシュメル君。ウチの息子、連れてきたけど……?」
「ローニさん。ステッド君はきっと。疲れている。息子さんの笑顔や笑い声を聞かせてやってほしい」
「……? ステッドに、この子の声を? 聞こえるの?」
「集音マイクの感度はいい」
「そう言うことじゃなくって……」
「アイセンサーも、充分な解像度を誇っているよ」
「そう言うことじゃないって!!」
ローニさんを連れて。軍港の機神のドックにやってきた僕は。機神のコアブロックの装甲を開いて、多重機械回路が張り巡らされたコアの前で。息子の声を聞かせてやってくれとローニさんに頼んだ。
「ステッド君の体は。完全に機械になってしまったけれど。『心』は依然として存在している。そうでなければ、高機能AI群を、自律意思で統率できない。体のメンテナンスは、技師たちがやっている。でも、『心』のメンテナンスは……」
「……わかってきた。あたしと息子にしかできない。そう言うことね」
「済まないと思っている。こんな非人道的な研究。すべきじゃなかった」
「君だって、人造人間でしょ? あと何年生きられるの?」
「もう、寿命の半分は使ってしまった」
「……そう」
ローニさんは。少し恨めしいような視線を僕に向けてきた。当たり前だ。そんなことは分かる。でも、人類を存続させるためには、他に手なんてない。禁忌の技術に手を出した以上。その創造物は、最大限に活用すべきだ。
「ステッド……。見える? この子、出産のときには、立ち会ってくれたよね?」
ローニさんが、両手で息子を抱えて。コアに近づく。
コア近くのマニュピレーターが動いて。
ローニさんとステッド君の息子を抱き取った。
「……コア付近の温度、僅かに上昇したわ……。ステッド、喜んでるのかな……」
僕の手伝いをずっとしてくれていたリーナが。コアの反応をデータ化して採取している。
* * *
「ねえ、アシュメル」
僕とリーナは、帝都のレストランで夕食を摂りながら。少し酒を飲んでいた。未成年なのにね。
「なんだい、リーナ」
「ステッド、かわいそう」
「……わかっている」
「私たち、ここまでして生き延びなければならないの? もう、頭がぐちゃぐちゃ……。ステッドのコアが、マニュピレーターで自分の子供を抱きあげたとき。私、泣きそうでずっと我慢してたんだから……」
「人間は……。己の幸せを守るために他者を犠牲にして何とも思わない。そんなこと、君には分からない?」
「……私だって。ステッドがアトミックファイアを撃破したって情報が入ったときは、安堵したけど……。でも、なんだかすごく。後ろめたさが凄くて……」
「それは、ステッドと深くかかわってきた僕たちだからだよ。市井の人々は、機神の誕生を心の底から喜んでいる。ステッドの名前は、英雄視され始めている」
「そんなの……。当たり前よ。いくら英雄視されたって、ステッドはもう。ローニさんの体を抱きしめることも、子供の笑顔を肉眼で見ることもできないんだから……」
「そうだ。その通りだよリーナ。人間は、己で戦うことを厭い。己の代わりに戦うものを英雄と言っておだてあげ。用が済めば捨てる。そんなことも、この八年余りで分かってきたよ……」
「私たちって、薄汚いのね……。心の底から」
リーナが、ロックのリキュールを一気に飲み干す。
まるで。
酔っていないとやっていられないというように。
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