42.帝国大陸の現在
「ローニさん。また魔神が現れたって、本当かい?」
「ええ、ステッド君。君が初陣を踏んでから、七年間。この帝国大陸の現況は思わしくないわね。君も、もう十九歳。状況の理解はできるでしょう?」
「魔族の掃除が追い付かないどころか……。最近は、魔神がこっちの飛行空母や飛行戦艦にダイレクトアタックをかけてきて、撃沈してくることも多くなった……」
「魔神には、飛行戦艦の主砲攻撃でも、微々たるダメージしか与えられない。どうなるんだろう、あたしたち……」
「ローニさん……」
「怖いのよ、ステッド君。人類って、このままじゃ。滅んじゃうの?」
俺は。俺が背の高さを追い抜いたので、相対的に俺より小さくなったローニさんを抱きしめた。
「アシュメルの奴が、なんか変な研究していたな……。あの話は、どうなった?」
「アシュメル君の研究って……。生命機械工学の話?」
「そう、それだ。AIに人間の能力を組み込んで、完全自律機械兵器を創ろうって話だよ」
「アレはダメよ。結局は、コアに生身の人間を使わないと。成功しないってアシュメル君が言っていたじゃない」
「被検体がどうしても必要ってことか……」
俺は。あることをローニさんに頼んでみた。
「……ステッド君の子供? あたしが産むの?」
「頼む。他に、頼みたい人がいない」
「それって、あたしのこと好きだってこと?」
「ああ。ずっと昔から。昔は、憧れだったけど」
「……いいよ」
ローニさんは、意外と早い反応をくれた。
「いいの?」
「いいよ。ステッド君なら。ずっと見てきたもん。いっつも、危険な戦場でも。人類のために、命張って、体張って。最初は義手だけだったのに、今じゃ体の半分は機械になっちゃってる。それでも、臆さないでみんなのために、人類のためにって。戦い続けてくれてたもん。これに惚れなきゃ、女じゃないよ」
「ありがとう」
俺は、この時。ある覚悟を決めた。
* * *
「陛下。内密の話にございます」
宰相のニヒロ閣下の声が聞こえる。
「なんだ。ここは謁見の間。声が漏れ聞こえることはない。申して見せろ」
皇帝の声も聞こえる。
「件の生命機械工学による兵器創造のご許可を戴きたく存じます」
「『機神』の話か」
「左様にございます」
「アレは創れんぞ。人類に、そこまでの『心』は育めていないからな」
「その、『心』についてでございます」
「なんだ。まさか、あの『機神』の詳細を知ってなお。自らがコアになろうという心を持った人間を見つけたとでもいうのか」
「ありていに申せば。その通りにございます」
皇帝は、そこで大きな息を吐いた。
「どうせ、紛い物だろう。人間は、結局肉欲を捨てられぬ。機械の体になって、人類のために戦おうなどという奇特な者が現れるとは。到底思えぬよ」
俺は、その時。
礼を用いながらも、怯えることなく。
皇帝の目を見た。
* * *
「一年間。妊娠がわかってから一年間の間なら。待ってくれるって言われた」
「……ステッド君。本気だったのね。自分が、自分自身が生命機械兵器のコアになるって……」
「ああ。本気だ。じゃなきゃ、皇帝陛下に目通りなんかできる身分じゃない」
「いいの? 本当にいいの? そりゃ、あたしだって。人類が助かればって。思わなくないけど。機神になってしまったら、元には戻れないのよ?」
「命の使いどころ。ずっと探してた。それに、自分がなすべきことを為したと、ローニさんが、お父さんは立派だった、と。俺の子供に伝えてくれるんなら。ゴミの街から出てきたクソガキの結末としては大ハッピーエンドだろ? ははっ!!」
俺は、本気でそう思った。
機械の兵器の集合体を統率する高機能AIのひな型は既に帝国内にはあって。だけど、それを自律的に動かせる、『肉を持った心』をどうしても創り出せない。
それが、帝国が魔神に勝てない大きな壁と言うか、理由だったんだ。
あと、皇帝陛下に面謁したときに、ゴミの街の惨状は告げておいた。
宰相閣下が、
「善処する」
と言ったが、後がどうなるかは俺にはあまり関係の無いことだ。
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