41.隣の町へと
「なんで、お前がいるんだよ。アルズ?」
「護衛人員だと。兄貴に言われた」
「ネレイドを守るのは、俺一人でいい」
「そのお前を守れと言われた」
エルズが出してくれた馬車で。隣町への移動中に、なぜか一緒に乗っているアルズ。ネレイドとの二人旅が台無しだ。もっとも、御者がいるからアルズがいなくても純粋な二人旅じゃないんだけど。
「じゃあ、隣の町まで行ったら。エルズのいる町に帰るんだな?」
「それは、俺が決めていいことになっている」
「? どういうことだよ?」
「じつは、俺はまだ認めてなくてなぁ」
「なにをだよ?」
「ネレイドのことだよ」
「俺の女だぞ?」
「だからよ。お前をぶっ殺せば、俺の物になるんじゃないかってな」
「ならないってば!! しつこいなぁ、アルズさんは!!」
ネレイドがむくれたように言う。しつこいな、アルズの奴は。あんだけエルズに色々言われて。まだあきらめてないのか。
「決闘だったら、いつでも受けるぞ。おれは、ネレイドを守るためだったら、どんな奴にでも勝てる自信が出てきたところだからな」
「……ちっ。闇討ちでもしてやろうかコイツ……」
「なんか言ったか?」
「なんでもねえよ!」
* * *
流石に、馬車での移動は速い。三夜を街道で明かして、その日の昼頃には。隣の町に着いていた。
「あっさりついちゃったね」
ネレイドが言う。きょとんとした表情がやっぱりかわいい。
「肉の匂いがするな……」
アルズが言う。
「ここは、牧畜の町ですからな」
ここまで馬車を御してくれた御者がそう言った。
「ああ、御者さん。ここまでありがとう。俺たち、この町で生きていく道を探します。もし、気に入らなかったら別の町にまた移ります」
「それはそれは。善き町に出会えることを祈っていますよ。では、おさらば」
御者は、馬車を返してエルズが治めている町の方に帰っていった。
「肉喰いてぇんだよ」
アルズが、腹をぐうと鳴らしながら言う。
「食えばいいじゃないか。そこらの店で、肉の串焼き売ってるぞ?」
「金ねぇんだよ」
「なんで金持ってないんだよ?」
「兄貴が、くれなかったんだよ」
「じゃあ、自分で稼げよ。そんな立派なガタイして、食い扶持稼げないとか言ったら笑われるぞ?」
「しょうがねぇ。そこの店の店主を脅して……」
「やめんか!!」
俺は、銛でアルズの尻を刺した。
「いって!! いてえな、アルバド!! 何すんだよ!!」
「そんな不品行をする奴とは一緒に居れない。一人になってやるんだったら勝手だけどな」
「……昔は良かったなぁ……。町で略奪しても、奪われる方が悪いってことになってたから」
「そりゃ、一面の真実だけどさ。略奪も度が過ぎてるんだよ、お前は」
「まあ、そうかもな。我儘になっちまったからな、俺は。産まれつき腕力がなまじ強かったから」
「あんまり向う見ずに暴れてると。ネレイドに手を出したときみたいになるぞ」
「……お前は、反則野郎だ。どこで魔神の肉なんざ喰いやがった。魔大陸の誰もが欲しがる魔神の肉を」
「帝国大陸のゴミの街でな。なんであんなところにあんな肉があったのかはわからないけど」
「そういや……。フレイヤの奴。出撃中だったな。帝国大陸に向かって」
「フレイヤ? 誰のことだ? それに、帝国大陸に出撃って?」
「俺とエルズの従兄弟の炎魔将だよ。帝国では、アトミックファイアとかいう呼ばれ方しているらしいけど」
「アトミックファイア? それって確か、魔神の……」
「そうだぜ。魔将っていうのは、魔神の力を持った者のことだ。つまり、帝国大陸で魔神って呼ばれている奴らは、こっちでは魔将って呼ばれてる。帝国大陸で魔族を増やしておこうと、魔の因子を撒きに行ってるんだよ」
「なんでそんなことを……!!」
「簡単な理由だ。俺たちが魔法を使うときのエサになる魔族が多いほど、魔人には有利だからだ。帝国大陸の軍隊が必死で魔族を掃除してるのって、俺たちが魔法を使ったら物理科学力じゃ対応しきれないことをわかってのことだぜ」
「アルズ? お前頭いいんだな。乱暴者だからてっきり……」
「頭が悪いと思っていたか。こう見えても、魔都では有名な学問一派の塾に通ってたぜ」
ふむ。アルズの奴。腕っぷしだけじゃなくて、頭も切れる。素行は悪いが。
「アルズ、ほれ。肉喰ってきていいぞ」
おれは、銅銭を一枚。アルズに渡した。
「お? なんでだかわからんが、貰っとく」
頭は切れても、情緒がないなこいつ。俺が、アルズのことを評価して。肉代を出したってことがわかってないらしい。
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