31.痴漢への痛撃
ネレイドの様子がおかしい。最近、妙に鬱な顔をしている。
「どうした? ネレイド」
「……お仕事のことで、悩んでるの」
「きついのか?」
「ううん。そうじゃなくて」
「仕事仲間の関係が悪くなったとか?」
「ちがう」
「首になりそうなの?」
「アルバドには聞かせたくない」
「? 隠さなくてもいいよ?」
「はずかしいよう」
ネレイドは、そう言って仕事に出て行った。
ははあ、なんかあるな。
今日は半日仕事だし、午後に確かめに行くか。そう思って、俺は仕事場に漁村からずっと持ってきている銛を持っていった。
* * *
「おい、アルバド。何だその物騒なモノは?」
「おれの女に、なんかあったらしいんです。だから、念のために」
「そうか。今日は半日仕事だから、そのあとに見に行くわけだな。彼女の店の様子を」
「そういうことです」
風呂屋の主人は、俺が銛を持ち込んだことは咎めなかった。それどころか。
「もし、彼女がなんらかの辱めにあっているようなら。そんな事をしている奴をぶっ殺してこい」
風呂を掃除しながら、そんなことを言った。
* * *
風呂屋の開店作業を終えて。今日の仕事を終えた俺は、銛を片手にネレイドが働いている街の茶屋に向かった。
店先を見てみると。前髪を垂らして赤い肌をした魔人が、気障ったらしい仕草で三色団子を食っている。
「おい、茶が無くなったぞ。注ぎに来い!!」
「あーい、わかりましたよう」
お、ネレイドが店の中から出てきた。茶屋の接客用の着物を着ていて、接客用の声色を使って。でも、やっぱりかわいい。
「なあ。その気にならないのか? お前がいるから、俺はこの店に通ってるんだぞ?」
なんだ? 何言ってんだあの赤い奴。
「あたしには彼氏がいますよう」
「俺は、炎魔将の従兄弟の弟だぞ? この町では、何でもできる。その俺が、お前を気に入っている。都ほどとはいかんが、この町でできる贅沢三昧と華美享楽の限りをお前に味合わせてやれるぞ?」
「あたしには。彼氏の方が大切ですよう」
赤い奴は、ネレイドの腕を握った。そして、自分の胸の中に引きずり込もうとする。
「や!! いやですよう!!」
「そんな風に、値段を吊り上げるな!! お前も所詮は女。自分を高く買ってくれる男を品評しているんだろうが……」
「そんなんじゃないですよう!!」
「うるさいっ!!」
あ!
あの赤い奴! ネレイドの着物の襟から手を突っ込んで胸を触りやがった!!
* * *
「きさまー……」
「わりいな。その子、俺の女なんだ。触られてタダで済ますわけにはいかないかな」
俺が中距離からぶん投げた銛は、見事に赤い奴にぶっ刺さって。ネレイドは解放されて俺が来たことに気が付くと、こちらに足早に走り寄ってきた。
俺が銛についている紐を引っ張ると。銛は赤い奴の背中から抜けて、手元に戻ってきた。
「白い肌……? どこの地方の出だ!? 我ら炎の魔人に逆らってタダで済むとでも?」
赤い肌をした男魔人は、腰に差していた太刀を抜いた。
「貴種を傷つけた。それだけで万死に値するぞ貴様! 俺が手ずから処分してくれる!!」
俺は、銛を構えて。臨戦態勢。考えてみたら、人を。魔人とは言え人と戦うのは初めてかも。
でも。
俺は、ネレイドを守らなきゃならない。
いや。
俺は、ネレイドを守りたい。そう考えると。
昔に俺を縛っていた臆心は一切消え失せていた。
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