30.お金貯め貯め
「ニラ玉炒め定食」
「俺も」
「あんたら、いつもそれだね? 安いからかい?」
「安くて」
「美味しいから」
露店のおばさんが呆れているが、俺とネレイドは昼休みにそれぞれ仕事を抜けてきて、いつもの店でいつも食べている定食を頼んだ。
俺とネレイドは、次の町に移るために働いてお金を貯めていたんだけど。
この町のにぎやかな様子に、つい新しい着物を買ったり、たまに美味しいものを食べたりしてしまっていた。
ただ、働く方はきっちり働いていたので、それらを相殺してもお金は貯まりつつあったけど。
「ねえ、アルバド?」
「ん? どした、ネレイド」
「魔都って、すごく繁華らしいよ。ウチの店に来たお客さんが言ってたけど」
「まあ、都ってくらいだもんなぁ。魔帝……陛下も、住んでるんだろ」
「うん。でも、そこに住むには。お金がいっぱいいっぱい必要なんだって」
「帝国大陸の帝都も似たようなもんだって話は昔聞いたな」
「人間も魔人も。いっぱい集まるとお金遣いが荒くなるのかなぁ……」
「物価も変わってくるからなぁ……」
「ねえ、アルバド」
「ん?」
「あたしたち、子供出来たら。魔都に住めたらいいね」
「そうかぁ?」
「だって。美味しいものもいっぱいあるらしいし、良い着物着て、綺麗なお家に住んで。馬車に乗って。まあ、夢だけどさぁ」
「馬車だったら、時々走ってるよな、この町でも」
「うん。一回乗ってみたいんだ、あれ」
「……今の稼ぎじゃ、死ぬまで無理だな……」
「……ぱふう。そだね……」
「まあ、この町ではこの稼ぎでも。魔都に近づくにつれて賃金も上がるらしいから。適当にお金が貯まったら、次の町に行こう」
「うん!」
俺とネレイドは笑いあった。
「んじゃ、ご飯も食べたし、仕事に戻らないと」
「あたしも、戻らないと。でもその前に」
「うん」
俺とネレイドは周りの目も気にせずに、キスをした。
「じゃあ、夜に。借りてる部屋でまた」
「うん!!」
それから、それぞれ仕事に戻った。
* * *
「銀のお金が……。いちまーい、にまーい、さんまーい……しししっ」
さいきん。夜な夜な蝋燭の灯の下でネレイドが貯まったお金を数えて喜んでいる。……ちょっと怖い。
「しししっ。お金いっぱーいになってきた」
銀のお金というのは、銅銭と言われる銅貨を十枚と交換される銀貨のことだ。
だいたい、宿の相場が銅貨三枚で、飯や風呂の相場が銅貨一枚と考えれば。この短期間で俺とネレイドは相当に頑張っていたと言える。銀貨は五枚あったらしい。
「銀貨が十枚貯まったら。次の町に行こう、ネレイド」
「うん! あたしお仕事頑張るっ!!」
「ところで……。今日は、お風呂入ってきた?」
「うんっ!」
「俺も今日は主人さんに頼んで、入れてもらってきた。ってわけで」
「えっちいこと。する?」
ネレイドがしししっ、と笑って頬を染める。
「とうぜん、する!!」
おれは、そう言うと。ネレイドの頭を抱えてキスをして。
そのまま抱き着いて、借部屋の布団の上に倒れ込んだ。
なんか、こんな日々を重ねているうちに、俺たちは男と女のやるべきことが、自然と分かってきていた。
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