32.魔神の肉
「りゃあっ!!」
俺は、銛を炎魔将の従兄弟の弟とやらに投げる。よく考えたら、従兄弟の弟って、炎魔将の別の従兄弟じゃないか。なんでそう言うややこしい名乗り方をしたのか。
わかる。この町の町長の婿が炎魔将の従兄弟だからだ。その弟だ、と。言いたかったんだろう。
ぎゃりん、と音がして。俺が投げた銛は、そいつの太刀に弾かれる。
「やめてよう、アルズさま!! お客様だからって、あんまりだよう!!」
ネレイドが声を張る。
「お前は黙っていろ!! お前の男がそいつだというのなら、このアルズ。そいつをぶっ殺して、お前を俺の物にしてやる!!」
「あたしはモノじゃないよう!! 好きな男は、自分で選ぶよう!!」
悲鳴を上げるネレイドを、背中にかばうと。俺は言った。
「あいつは、アルズっていうんだな? ネレイド」
「う、うん」
「じゃあ……」
俺は息を思いっきり吸って。怒鳴りつけた。
「動くなアルズっ!!」
「?!」
一瞬だけ、アルズの動きが止まった。なーるほど。魔法って、こうやって使うのか。
「なんだ?! 魔素が見える……。魔族を食ったのか、貴様?」
「いや、違う。俺が喰ったのは……」
ネレイドが、目に見えるほどの魔素の濃密さに目を見張る。
「魔神の肉だっ!!」
思い出したんだ。ゴミの街で腐りかけた肉を食ったこと。
アレを食ってから、俺は臆病になった。いや。
感受性が暴走して、繊細になり過ぎていたんだ。
だから、帝国大陸で魔族に襲われたときにも。
『正当な理由』と自分自身で納得できる理由が見つからなかったから、魔族を殺せなかった。
そう言ったことが、全部頭の中でつながった。
魔大陸に来てから行った、漁村の近くの山の祠の賢者は言っていた。
『魔人の肉を喰った帝国大陸の人間は、まず身を全うしない』と。
それでも、俺は。ネレイドから聞いた魔力の使い方を今、実地で試してみて。
思ってしまったんだ。
『これは素晴らしい力じゃないか』と。
ネレイドと一緒に暮らしている間に、強くなった心。それを以ってすれば、繊細さが暴走することもなく、魔素や魔力を見たり操ったりするための感受性の強さも存分に活かせる。
* * *
「爆ぜろ、アルズっ!!」
俺は、やり方がいまいちわからなかったので、銛に頭の中のイメージを乗せるようにして。アルズに向かって投げつけた。
「!! 何かヤバいっ?!」
アルズは上半身を捻って銛を躱そうとしたが。銛は右肩に刺さった。そして。
「っ! わああああああああ!!!」
ばしんっ!! という激しい炸裂音が響くと、アルズの右肩が爆ぜた。
……俺が込めたイメージのままに。
「バカな……。魔法付加だと……。こんな何処にでもあるような銛で……」
アルズは、右肩が爆ぜて、ブランブラン動いている右腕を掴んで驚愕に目を見張った。
「さて。とどめ刺すか……」
俺は、銛の紐を引っ張って手元に戻すと。
また破壊のイメージを頭の中に描いて、銛に込めようとした。
「ちょっと君。待ってくれ」
そう声がかかる。
アルズの命乞いかと思ったら。
その声は後ろから来たものだった。
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