28.魔帝の治世
「力よ」
「力って言ったって。いろいろな力があるだろう?」
「そう言ったモノ全部ひっくるめての。力よ」
東への町への道々、俺は魔帝の治世について、ネレイドに聞いてみた。
「魔帝陛下は、強い者が好きなの。自分の弱さに言い訳をせずに、とにかく強くなろうとするものがね」
「弱者に対する憐憫とかないの?」
「憐憫? それは高等な感情ね。弱者には、心がない。心を持てる余裕がない。だから、強く高貴なものが弱者に憐憫を垂れたところで、何の意味もないのよ」
「激しいな、それがこの魔大陸の掟か」
「そう」
「そうか」
俺たちは、どこか落ち着ける町に定住しようと決めた。漁村に戻っても、男手がほとんど山賊狩りに出て討たれてしまったあの漁村は、もう続けて行く事が出来ない。
* * *
東の大きな町に着くと。やたらと活気があった。
「お祭り? 違うよね。そういう時期じゃないもん」
ネレイドが首を傾げる。
「ねえ、何があったの? 何かの祝い事?」
街を往来している人々の内の一人を捕まえて。ネレイドが聞く。
「結婚式だよ。町長の一人娘を、炎魔将の従兄弟が娶るんだと。これで、この町は炎魔将の影響下に入ることになるけど。炎魔将の部下に守ってもらえることにもなる。まあ、上の方々の気持ちなんざ知ったこっちゃないけど、俺たちは町が護られるんならそれでいい。んで、みんな喜んでるってワケだ」
「そう。ありがと。水の縄張りのこのあたりに炎魔将の縁の血が入ることになるわけなのね」
「子供はできないと思うけどな。水属の嫁と炎属の婿じゃ、交尾ぐらいはできるけど、子供が腹の中で蒸発しちまうからな」
「あ、そっか。反属の血が入った子供は、消えちゃうんだった」
「そういうこと」
「じゃあ、なんで?」
「なにがだい?」
「なんで、炎魔将の従兄弟だっけ? その男は、水属のこの町の町長の娘を娶ろうとしているのよ? 子供も残せないのに」
「さあねぇ……。ひひっ、アレじゃないか? 反属同士なら、避妊対策万全みたいなもんだからじゃないかねぇ。遊ぶには、最適なんじゃないか?」
「……話聞かせてくれて、ありがと。じゃあね」
ネレイドは俺のところに駆け寄ってくると、心底嫌そうな顔をして言った。
「遊びで交尾するなんてこと……。汚らしい……!」
* * *
俺とネレイドは。この町に定住するつもりはなかったが、周辺の町の情報を集めるために、宿に入ろうと思った。
「先払いだよ。銅銭三枚」
「どうせん?」
「あんたら、知らないのかい? 去年から、この町は貨幣経済を導入したんだよ」
「かへいけいざい?」
ネレイドは、荷物の中にある乾物で宿代を払おうとしていたらしく、大いに戸惑った。
「ネレイド。貨幣経済ってのは、モノを一度金に換えて、それでモノを買ったりサービスを受けることだよ」
俺は、帝国大陸にいたころの知識で、そう教えた。
「カネ? なにそれ?」
「しょうがない。乾物市場を探そう。この町が貨幣経済を取り入れているっていうなら、俺たちの持ってる乾物も買い取ってくれるところがあるだろうからな」
「う、うん」
ネレイドを連れて、宿の主に、市場の方向を聞くと。
俺たちはそちらの方向に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます