27.魔人の街

「……ひでえ……。建物がほとんど燃えた後だ……」

「山賊って……。どれくらい数がいたんだろうね……」


 街の焼け朽ちかけた門をくぐって。俺とネレイドは唖然とした。


「……なあ、兄ちゃん。なんか食うもんないか? 匂いするんだよ、食いモンの」


 俺の袖を。裾が焼け焦げた着物を着た子供が引いた。


「……。坊や、ここで何が起こったのか、教えてもらえるか? お母さんとか、いないのか?」

「かーちゃんは、さらわれたよ。とーちゃんは頭カチ割られた。俺は、最近雑草しか食べてない。変な咳出るんだ、最近。なあ、食いモンくれよう!」


 ネレイドが、首を振る。


「あんたみたいな孤児に関わっても。何の情報も得られないし、食糧がもったいない。あんたも魔人なら、狩りでもしなさい」


 子供が、わっと泣きそうになると。ネレイドはその頭をぶん殴った。


「泣く力を無駄遣いしないの! あんた、タカリで一生生きていくことになっちゃうよ?! 一番つらいときに自分の力で生きないと!」


 確かに。この子供、狩りは無理でも山で木の実を拾って食うぐらいのことはできるだろう。でも。


「一枚だけだぞ。これで力つけて、食い物を自分で探せ」


 俺はそう言うと、背負い袋から魚の干物を一枚出して渡した。


「……ありがとう、兄ちゃん。弟と分けて食うよ」

「この街に、大人はいないのか?」

「みんな、子供は足手まといだって捨てて逃げたよ」

「……そうか」


 俺の行動に、ちょっと意外そうな顔をしたネレイドは。それならばというように子供に聞いた。


「ねえ、あんた。お魚あげたお礼に、教えてくんない? 山賊って、どっちに向かって引き揚げたの?」

「あんたには答えたくないけど。兄ちゃんの連れだから教えてあげる。北の山道に向かって去って行ったよ」

「そう、ありがと」


 俺に手を振って子供が走り去っていく。


「東に向かいましょう、アルバド。そっちにも町があるから」

「北にはいかないの? わざわざ山賊の去っていった方向聞いておいて」

「バカなの? アルバド。どっちが安全かを聞くために、山賊の引き揚げた方向を聞いたんでしょ?」

「……なるほど」

「あんたって、抜けてるとこ抜けてるよね」

「……そうだな、そう言えばそうだよな」

「この魔大陸では、自分の身は自分で守るのが大原則で。すべての喜びは、その上に築かれるものなのよ」

「……まあ、死んじゃったら。喜びも何もないもんな。当たり前というかなんというか」

「だから。あんたも、自分の身を守るためなら、あたしを捨てること。わかってるから。守ってくれるって、嘘でも言ってくれた時。嬉しかった」

「……嘘のつもりはないよ」

「……なにそれ。なんか、そんなこと言われると……。胸のあたりがヘンになる」


 なんだか。ネレイドは変に可愛い表情を浮かべてそう言った。


   * * *


「兄ちゃんたちは、死んじゃったね。この分じゃ。徹底的に奪われて壊されたあの街の様子を見れば、山賊団がどれだけ凶暴だったかがわかるもん」


 自分の身を守ることに厳しい魔人族の常識を心に据えてなお。

 兄弟の死に、涙を流せるネレイドは情が深い子なんだろう。

 俺はそう思うと、本当にネレイドのことを大切にしようと思った。


「ちなみに、魔帝って何やってるんだ? 魔大陸を治めているんじゃないのか?」


 俺は道々。ネレイドにそんなことを聞いてみた。


「陛下をつけなさいよう。危ないよ、本当に。魔法が飛んでくるから」

「魔法って……。前も言っていたけど、どういう原理の物なんだ?」

「魔力を呪言に込めて発する。すると、呪言の作用で、モノが燃えたり、凍ったり。光で消し飛んだりする代物」

「魔力を得る方法は、魔族を食って魔素を得ることだったよな?」

「うん。あたしも魔族食べれば、少し魔法使えるよ。ただ、自然にいる動物から魔族を造るには魔神が魔の因子をばら撒く必要があるけどね」

「……そういう仕組みなのか……。魔族と魔人と魔法って……」


 おれは、何か心に引っ掛かるものがあって。

 深く考え込むことはしなかったけれど、そのことは覚えておこうと思った。

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