24.魔大陸での生活

 あのあと。俺は賢者に、また話を聞きに来る、といって。

 ネレイドと一緒に漁村に帰る道を歩き始めた。


「あのじっちゃ。美味しいもの持っていけば行くほど、頭冴えるから。今度はアワビの干物でも持っていこうか?」


 ネレイドはそんなことを言って、しししっ、と笑った。


「ネレイドの村に世話になるんなら。俺も働かなきゃいけないなぁ……」

「そうだねぇ。仕事って言っても、素潜りしてウニとかアワビ取ったり、岩海苔取ったり。あとはやっぱり、打ち網とかかなぁ。ここら、魚いっぱいいるからそんなに必死にならなくても食べていけるよ」


 ネレイドはちょっと嬉しそうな顔でそう言った。


「アルバド、じっちゃに会って話聞いたらどっか行くのかと思ってたけど。ウチの村で暮らすんだね」

「宛てもないし。居候させていただきます」

「えっへん。よろしい!!」

「とりあえず。このぼっさぼさに長く伸びた髪の毛を切りたい。結んでいるだけじゃ、前髪がウザったい」

「爪は、この前切ったけど。確かに膝に届きそうなくらいに伸びてるね。アルバドの髪」

「やっぱり、帝国大陸からふつーに流されてきたのかなぁ……」

「あんたはふつーじゃないよ。普通だったら、この大海を漂流しているうちに死んじゃうもん。どうやって生き抜いてきたかは覚えてないんだよね?」

「うん。全く覚えてない。最後の記憶は、帝国大陸の海岸で、朝日を見たのが最後だよ」

「誰にもわからないよねぇ……。流されてきた本人が覚えてないんじゃ」

「うん……」

「まあ、いいじゃんかー。あんたは生きてて、体もちゃんとしてて。気が狂ってるわけでもないんだから」

「そりゃ、そうかも」

「毎日一生懸命に働いて。美味しいご飯でも食べていれば昔のことになっていくよ」

「うん……。そうだね」

「そうだよ!!」


 ししっ、と笑うのがネレイドの癖のようで。ちょっと胸がくすぐられるようなこの笑い方は妙に印象に残る。可愛いな。そんな気持ちが湧いてきた。


   * * *


「おや、お帰り。ネレイド、楽しかったか? アルバドとのデートは」

「うん!! ザクレス兄ちゃん。楽しかったよ!」

「アルバド、賢者のじっちゃから話は聞けたかい?」

「はい。また行こうと思ってます」


 俺とネレイド、ザクレスさんとアッゼンさんは。漁に使う網を繕う仕事を始めた。


「兄ちゃんたち、玄米はまだ残ってる? 交換屋がこないと、もうそろそろ無いんじゃなかったっけ?」


 ふと思いついたように言うネレイド。


「そういや、交換屋が来ないな。こっちから出す魚や貝の干物は十分あるんだけどな」


 ザクレスさんが、そう言って米櫃らしき箱を覗き込む。


「少なくなってるな……。期間的にはもう来ていてもいいんだが」


 そこで、アッゼンさんが気がかりそうに言う。


「なんか出たのかな? 街との道に」

「変異種の魔族とかがか? だとしたら厄介だな」


 二人で、眉をしかめる。


「ねえ、兄ちゃんたち。あたしとアルバドが交換の品を持って、街まで行って来ようか?」


 ネレイドがそう言うと。二人の兄は首を横に振った。


「お前たちじゃ危ないかもしれない。明日になったら俺たちが街まで行ってくるから、お前たちは留守番だ」

「……そうかー。体の頑丈さじゃ、兄ちゃんたちには敵わないもんなぁ」

「そういうことだ。お前は、アルバドと街に行って色々見たかったんだろうが。今回はお預けだ。食べるものは玄米以外なら十分にあるから、家で大人しくしてるんだぞ?」

「あいよう。二人っきりのお家生活もわるくないね」


 そう言うと、ネレイドはちょっと悪戯そうな視線をこちらに向けてきて。


 しししっ、と。笑った。

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