16.フライングアームドアーマー

「アルバドっ!! 手が足りねぇ!! お前、この場で死ぬのと魔族殺すのとどっちを選ぶつもりだっ!!」


 銃を持ったままで撃てない俺に。もう数十体ほどの魔族を銃弾でズタズタにしたステッドが言う。リーナ、アシュメルも銃を撃ったり手榴弾を投げたりして。

 とにかく、魔族が僕らの装甲車に近づこうとするのを食い止めている。

 でも、俺は。


 何かが、おかしかった。俺はもともと、そんなに強気な方ではなかったけれど、ここまでの役立たずで臆病者ではなかったはずだ。

 何かが、邪魔している。俺の体の中の何かが。下腹のあたりから熱いズクズクという感触がして。それが全身に広がって。どうしても魔族を殺すための行動がとれない。

 何かが、おかしい……。


「アルバドっ!! 頼むから動いてくれよっ!!」

「アルバド君。ここで動かないのは、倫理的にもおかしいと思うよ?」

「アルバド君っ!! お願い、手が足りないの!! このままじゃ……!!」

「俺だって……動けるものなら……!! でも、体が、頭が!! 動かない! おかしい、こんなのは、俺じゃないっ……!」


 俺はサブマシンガンを手に、魔族の方に狙いを定めた。そしてトリガーを……引いた。


 はずだった。

 引けていなかった。指が、俺の脳からの指令を拒んだ? 脳が、俺の意思を伝達しなかった? そもそも、俺の意思が脳に反映されていない? なんだ、この感覚は……!?


「わあっ!!」


 ステッドの声?!


「くっそ!! 右腕喰われたっ!!」


 その声にそちらに目をやると。


 ステッドの右腕が、一体の魔族に食いちぎられて食われていた。


「くっ……!! アルバド、最後まで役に立たなかったな……!!」


 ステッドはそう言うと気を失った。出血が激しすぎたんだ……。


「アルバド君! 魔族が殺せないっていうんなら、ステッド君の手当てを!! 急げば、失血死は防げるかもしれない。車の中にメディカルキットがあるから!! 早く!!」


 ステッドが倒れた穴を埋めるように、アシュメルとリーナが前に出る。

 女の子のリーナまで戦っているっていうのに、俺はどうしちゃったんだ。

 なぜ、魔族を殺せない?

 何かの呪いか? 呪術なんてもの、この世界では太古の昔に滅んだって、学校で聞いたのに。


   * * *


 魔族の群れはじりじりと、確実に。包囲の輪を縮めてくる。このままじゃ、持たない。ステッドは気絶してるし、リーナは疲弊しているし、アシュメルは疲れた様子は見せないけど、一人じゃ全方位に対応はできない。


 その時。突然周囲を閃光が包んだ。俺たちは、眩しくて周囲が見えなくなってしまった。


「ふむー。間に合ったかー。救助信号出したの、キミたちよね?」


 よく見えない視界の中に、誰かの声が響く。


「アンシェル、エルアン。まずは、周囲の魔族を一掃するよ? いいかな?」

「はい、ローニ隊長」

「りょーかいでっす」


 目が見えてきた。そこには。何やら、ごっつい何かの機体が三機。空中にホバリングしていた。


「君たちは、怪我人の手当てをしておいて。おわったら、そこに転がってる装甲車の中に隠れてて。あたしたち、暴れるから」


 機体の一機から声が響く。


「……あなたたちは?」


 俺は、思わず聞いた。


「帝国空軍飛行武装装甲兵団、ルールメーカー分隊よ。ちょっと待っていれば、片付くから。おねーさんたちの言うこと、おとなしく聞いてね。じゃ、かかるよ!! 二人とも!!」


 その声が響いた直後。俺たちが持っていた銃火器とはけた違いの威力を持った武器での攻撃が魔族にぶち込まれ始めた。


「救難信号が、功を奏したね……。帝国のフライングアームドアーマー隊が来てくれれば、このくらいの数の魔族は、一掃できる」


 アシュメルが、落ち着いたようにそう言った。もともと落ち着いてたけど、落ち着きの質が違う。

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