15.バトルフィールド

「しまった!!」


 アシュメルの声が響く。


「?!」

「どうしたアシュメル!?」

「なに? アシュメル!?」


 アシュメルの焦りを含んだ声に、何か事態が悪化したのかと。

 俺とステッド、リーナが聞き返すと。


「魔族っていうのは、統合意思を持っているってこと、忘れていた!!」

「統合意思? なんだそりゃ?」

「ステッドさん。魔族は、一体がやられると、その痛みが全個体に共有される。それによって起こる、感情もね。ここに来るまでに殺してきた幾体かの魔族は、いわば斥候の役割をしていたんだよ。彼ら自身も意識せずにね」

「? つまり、どういうことだ?」

「この装甲車の周り。まだ砂塵に隠れて肉眼では見えないけど、囲まれている。魔族の群れに」

「なんでそんなことがわかるんだよ?」

「マジックレーダーにばっちり映ってる。360度全方位を敵に囲まれているよ」

「……マジか?」

「本当のことだよ。こんなことで嘘はつかない」

「数は……?」

「少なくとも、僕らが持っている銃弾の数よりは……多い」

「銃弾より多いって……?! どうするんだよ!!」

「みんな、しっかりと体支えていてくれ」


 そういうと。アシュメルは装甲車のアクセルを思いっきり踏み込んだ。装甲車が急加速する。


「わあ!! 自棄おこしたのかよ!? アシュメルっ!!」


 ステッドが悲鳴を上げる。


「違うわね、違うわステッドさん。アシュメル、装甲車の窓はしっかりと閉めてあるから大丈夫よ」


 リーナがそう言うと。


「それでいい」


 アシュメルが言う。こういうやり取りと状況で考えられることと言えば……。


「轢き殺して突破するのかよっ!! お前、過激だな!!」


 ステッドがそういうが、アシュメルは落ち着いている。


「ほかに、手がない。敵の密度が高すぎる」


 そういって。アクセルをべた踏みのままで真正面に突っ込んでいく。


   * * *


「わあっ!! 魔族の体液って、緑色なのかよっ?! 気持ち悪い!! 窓の外側が真緑だぞ!!」


 ステッドの奴。人のことを腑抜けと言っていたくせにビビっているのか。悲鳴を上げている。

 俺たちの乗った装甲車には。大量の魔族が取り付いて、何とか止めようと窓をガンガン叩いたり、フロントガラスに体当たりしてくる。


「あっ」


 アシュメルの声が聞こえたと思ったら。とつぜん重力を感じなくなって、宙に浮いたような感覚がした。


   * * *


「あいたた……。まずいな、砂丘に乗り上げて車が横転して……」


 まずい。それはまずいよ、アシュメル。だって俺たちは、魔族に取り囲まれて。外に出て、装甲車を立て直すこともできない状況。どうすればいいのか……。


「……軍に救難信号を送ろう。問題は……。軍の救助が来るまで、この装甲車が持つか、そこだね」


 アシュメル、落ち着いてるのか無感情なのか。淡々と物事を進めるのはいいけど、君はちょっと怖いよ。


「……ってことは、こういうことだな!!」


 ステッドが、突然。銃を持って、横転した装甲車の窓を開けて。


「来るなら来やがれ!! 銃弾ぶち込んで、ミンチにしてやるぞ!!」


 怒鳴ると、サブマシンガンの斉射を魔族の群れに撃ち込み始めた。

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