14.沈殿思念
「アシュメル。あそこにいる魔族。多分元々は犬だな。試しに撃ってみてもいいか?」
ステッドが、アシュメルの運転する装甲車から上半身を出してライフルを構えながら聞く。
「ステッドさん。銃弾は大切に使ってください」
アシュメルがそう返すと。
「銃の試用だよ。二、三発ならいいだろ?」
たしなめられたような声に舌打ちをして、ステッドが食い下がる。
「ライフル弾の二、三発じゃ魔族は死にませんよ」
アシュメルは、ふう、とため息をつきながら言う。
「ステッドさん。これ使ってみる?」
リーナが手榴弾をステッドに渡す。
「アシュメル。魔族ってのは元が犬でも、手榴弾に耐えきれるのか?」
「……何が何でもやらないと気が済まないっていうなら。やってみればいいです」
「よしっ! かましてやるぜ!!」
ステッドは景気良く声を放つと。ピンを抜きざま、犬型魔族に向かって手榴弾を投げつけた。
爆音。そして、砂塵の煙。それが収まったあとには。
「うおー。すげえ。吹っ飛んでるよ、全身。ザマ―ミロってんだ、魔族め!!」
はしゃぐステッドに対して。俺はわずかに嫌悪感を覚えた。もともとは、何も悪いことをしていない犬だったかもしれないのに。
「アシュメル。魔族がどこにいるのかっていうのは分かるの?」
俺は、アシュメルに聞いた。
「半径100メートルレベルでなら。魔の因子を検知できるマジックレーダーならこの装甲車には搭載してあるけど?」
「……できるだけ避けていこう。銃弾の消耗も、あるだろうし……。それに」
「……そうだね、余計な労力は省こう。検知したら避けるようにするよ」
アシュメルと俺がそう話していると。
「んな必要はねぇよ。研究所でサブマシンガンをもらったし、弾も結構あるぜ? 邪魔が出てきたら、なぎ倒そうぜ。きっとスカッとするからよ!! ハハッ!!」
ステッドがそう言ってきた。むしろ魔族と戦いたいかのようだ。
「ステッド。人型の魔族でも、殺せるのか?」
俺は。思わず兄貴分のステッドに尖った口調で言ってしまった。
「元に戻らないんなら、それはもう人間じゃない。被害がより広がる前にぶち殺すのが人類のためだと思うけどな? 文句あんのかよ、アルバド」
「……そりゃ、そうかもしれないけど……」
「それに、魔族だって。もともとはちゃんとした姿だった頃のことを覚えているっていうんなら。みっともない姿になった自分たちを殺してほしいって願っているかもしれないぜ?」
「……」
「おまえ、まさか。魔族に情けかけてるんじゃないだろうな? そんなもんが通用する相手じゃねぇぞ、アイツらは」
「……だけど……」
「シェルナーナさんたちですら、俺たちを逃がす間しか自制心が持たなかった。魔族が破壊欲求や殺戮欲求を持っているってことは。研究所で見たムービーで分かってるはずだろ?」
「だけど……!」
「? だけどなんだよ?! 魔族を元に戻す手段があるんだったら、俺だってむやみに殺したりはしないけどよ。だけどそんなものがない今の時点では、アイツらをぶち殺すのは正義だろ? 人類にとってはよ。わかんねえのか? お前は、割り切りってことが出来ねえのか?」
「……何も言えない。俺は、魔族と人間のこと。その関係のこと。あまり詳しく知らないから……」
「もういい。お前は、この装甲車の中に引っ込んでろ。魔族狩りは、俺がやる。そうやって、ずっとグダグダ悩んでりゃいい。そんなつまんねぇ奴だとは、思ってなかったぜ、全くよ」
ステッドにそう言い捨てられて。俺は、本来だったら腹を立てる性格をしていたはずだったんだけど。腹の底に何か重苦しいものがあって。
どうしても、魔族を狩ることは出来そうになかった。
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