12.みんなの気持ち

「この施設に比べれば。お金持ちだって思ってた私の家なんて、ウサギ小屋ね」


 リーナが自嘲的にそう言った。


「家族もみんな、魔族化しちゃったし。私、これからどうすればいいのかしら」

「俺たちだって、家族を亡くした。いや、魔族に変貌させられた。……これから、何をすればいいんだ」


 ステッドも、項垂れた。


「……俺は行くよ」


 俺は、そう口から言葉を出した。


「行く? 何処へ行くつもりなんだい、アルバド君?」


 アシュメルが、何のあてがあって動くかのかと俺に聞いてきた。


「帝都へ。こんな世の中、間違ってる。魔神の存在も、それを許している神も。それに、人を治める皇帝も。不満を述べに行くんじゃない。帝都に行って、色々なことを肌で感じて。なぜこの世の中がこんな風になっているのかを。『この形でしかあれない』のかを。よくよく考えてみる。そうしたら、俺の『復讐』は」


 ステッドたちが、息をのむ。


「親に捨てられ、家族を奪われ。未来に宛ても無くなった俺の望むことは」


 そう、果たされるかもしれない。


「……そうか。お前が行くんなら。俺も行くぜ。もともと、俺たちは帝都に向かうつもりだったんだからな」


 ステッドは、自分の掌にパンチを撃ち込んで、ニッと笑った。


「帝都には。親戚がいるの。私も連れて行って。電車賃ぐらいなら、私が出せるから」


 リーナも、ついてくるつもりのようだ。


「博士。僕の体って、メンテナンスしないで何ヵ月持つんですか。僕も、彼らに同行したい」


 アシュメルは、俺たちの行き着くところを見極めたくなったらしい。


「やれやれ……。君たちは、若いな……。アシュメル、この研究所を出たら、身体のアップデートは出来なくなるし、センシティブメモリーの整理もできなくなる。身体機能維持のためには、月に一回このアンプルを打つんだ。それで、一年ぐらいは持つ。感情制御は自力で行うしかなくなるがね。行ってきなさい、子供たち。どんな形になっても、それで納得できるならばね」


 博士は、そう言って。白衣のポケットから、アンプルの束を取り出してアシュメルに渡した。


「しかし、今しばらくは。この施設にいるんだ。外の魔の因子が陽光で清められるまでね」


 そういうと。首をコキコキ鳴らして、研究所の奥に引っ込んでいった。

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