7.神の出来損ない

「魔神って、何なんですか?」


 俺は、エルテルスさん一家が大いに怯えている様子を見て、疑問に思った。


「……ふう。この結界の中にいれば、先ずは大丈夫だろうが……。なんてことだ、魔神の来襲とは。十年ぶりだぞ……」


 地下の部屋に入って。中央にある何かのスイッチを押したエルテルスさんがそう言うと、コルピオさんが、奥歯を噛み締めるかのような声を漏らした。


「あいつ等……。十年前には母さんを殺しやがって……!!」

「コルピオ。その事はもう忘れろ。天災のようなものだからな、魔神の襲来は」

「……くそっ」


 なんだか、複雑な事情がありそうだ。


「とりあえず、外の様子をヴィジョンスクリーンに映してみよう」


 エルテルスさんがそういって、スクリーンのスイッチを入れた。


「……大きい……!」


 画面に映し出されたその姿は、空を覆うようにとてつもなく大きかった。

 大まかな形は四面体。ただ、その表面には動き回る粘土のようなものがへばりついていて。その粘土が様々な形をとって、変形を続けている。


「母さんをやったやつとは違う……」

FAAフライングアームドアーマー隊が出たみたい。仕留められるのかしら……?」


 別カメラで見たときには、帝国軍の飛行空母から、飛行武装装甲兵、つまりFAA隊が出撃している様子がよく見えた。


 魔神はそれに反応した。

 粘土を変形させて、何か筒のようなものを創り出し。


 そこからエネルギー収束砲のようなものを撃ち出したんだ。


 何機かのFAAがそのエネルギーに食われて、消滅するが。残りのFAAは見るからに戦意を上げたらしく、動きを速くして魔神に迫る。

 すると、魔神は全身に砲撃用の筒をハリネズミのように作り、そこから光の砲撃を大量に打ち出して。FAA隊の迎撃を行った。この迎撃で、帝国軍のFAA隊はほぼ全滅した。


「……ダメだったか……」


 コルピオさんが溜息をつく。


「……あとは、結界の中でやり過ごすしかないな……」


   * * *


「魔神というのはな。神の出来損ないだと言われている」


 エルテルスさんが口を開いた。


「神の出来損ない……?」

「人というものは、いや、霊や魂を持つものは全て。輪廻転生を経て神に至ると言われている。神というものは、与える存在。だが、魔神というものは奪う存在。魔導と言われる業を用いて、人々から様々なものを奪う」

「どうやって、産まれるんですか? その魔神って」

「邪な欲のために神にならんとした者たちの末路であるらしい」

「邪な……欲……」

「まあ、おおよそな諸欲は全て邪なものと数えられるらしいが。食欲、性欲、怠惰欲。それに支配欲に自己顕示欲に殺傷欲など他にも。それらを叶えるために、神の力を望むと。魔神となるという話だ」

「そんなの、人間だったら誰でも持っている欲ですよね?」

「うむ。だから、人間には神の如き力は与えられていない。己の欲の制御を為すことが、人生というものの課題であるかのようにな」


 エルテルスさんの言葉を聞いて、俺は、なんだか神になるより魔神になる方が楽しそうだな、なんて。


 後々悔いることになるようなことを考えてしまった。


   * * *


「さて、警報も解けたことだし。そろそろ上の部屋に戻ろう」


 魔神が去ったという警報解除の放送を受けて、俺たちは地下の部屋から出て家に戻ろうとした。


「……何かしら……? なにか、空気が……、おかしい?」


 地階に戻ったとたんに。


 シェルナーナさんが違和感を感じたような声を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る