5.アシュメル君
「アルバド君。見届けたよ」
俺とバガイオのタイマン勝負を見届けた、とアシュメルが言う。
「……で、次は君?」
俺は、妖しげな視線を向けながら含み笑いをしているアシュメルに聞いた。
バガイオの奴は強かったけど、何とか勝てたからだ。
「まさか。僕は武闘派じゃない。使いやすい腕力として、今まではバガイオがいたから利用していただけだ。おだてあげておけばそれに乗っかるお調子者だったしね」
「……」
こいつ、信用ならない。信用ならないのかわからない。そこが信用ならない。
今吐いている言葉が、本当のことに聞こえるあたり、本当に性質が悪い。
だって。今までバガイオの奴を利用していたんなら、それも問題だし、もしバガイオとは切れるつもりがないのにこんなことを言っているとすれば、それこそ信用なんて置けたもんじゃない。
「おや、予鈴が鳴ってる。教室に戻ろうよ、アルバド君。友達になろう」
さて、どうしたモノか。
* * *
アシュメルのクラス内の影響力は凄まじいものがあるらしい。
最初、俺のことを獣臭いとかくすくす笑っていた、可愛い顔して性格悪い女子の一団が、昼休みに俺のところに来た。
「アルバド君。お昼ご飯、一緒に学食行こうよ?」
「俺、お金持ってきてないよ。それにお弁当持ってきてるし」
「えー?! お母さんの手作り弁当? 羨ましいー。ウチなんて、親の手料理なんて食べられないよ。ママもパパも料理できないから」
「へえ」
「コックとメイドがご飯の用意してくれるんだけどね」
「へえ」
「わたしのお家、お金ならあるから」
「へえ」
女子のリーダーっぽい女の子にすげない答えを返していると。
「リーナ。君じゃ無理だね。アルバド君は、女の子には大して興味がないみたいだ」
アシュメルが割り込んできた。
「え? アシュメル?」
「さっさと学食に行ってきなよ。アルバド君とは、僕が話すから」
「アシュメル、冷たいのね」
「リーナ。君は可愛いけど、才覚の方はさほどでもない。ちやほやしてくれる相手を相手にしなよ」
「……!」
「もう行きなよ。所詮は、君は女の子なんだ」
「それどういう意味よ!?」
「流れに乗ることで生きる生き物だってことさ」
「……アシュメル……」
「違うかい?」
「違わない……。でもそれって、悪い事なの?」
「女の子だから、別に悪くない」
「……そうよね。みんな、流れに乗ってるし」
「そういうこと。じゃあ、アルバド君とは僕が話すから。他の女子が待ってるよ、学食に行ってきなよ」
「うん……」
リーナ、とアシュメルが呼んだ女の子は、取り巻きを連れて学食に向かった。
「ウザかったでしょ? アルバド君。女子って基本ああいうもんだから、適当に相手にしといたほうがいいよ」
アシュメルは何がおかしいのか、アハハと笑いながらそう言って。俺の隣に座って自分の弁当箱の蓋を開けた。
「アルバド君。君さ、学校に来るの、今度が初めてでしょ?」
アシュメルは、妖しい視線の中に、何かを知りたいというような光を込めてそう言った。
「……なんでわかる?」
「空気が違う。腹の底にある、重みが放つ空気がうわっついてない」
「そうは言うけど。そう言う点ではアシュメル、君だってなんか違うぜ?」
「僕は、アーティファクトだからね。
「知らない」
「人造人間のことだよ」
「そうなのか? 見た感じでは普通の人間との違いが全然わからないけどね」
「僕にはさ、父親も母親もいないんだ。デザインドDNAで作られた存在だから。君、と殺工場の一家の養子だって担任が言ってたけど。その養子になる前は、孤児だったんじゃないか?」
「……そうだけど。だとしたらどうだっていうんだよ」
「親無し同士のシンパシー、感じるかな?」
アシュメルはそこで初めて。
視線から妖しさを消して、にっこりと笑った。
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