4.ひとときの
「違う違う。牛の後ろ側に回り込むな。蹴り殺されるぞ」
コルピオさんにそう言われて。俺は、間一髪で牛の蹄キックをかわせた。
「危ないなぁ……。とりあえず見学してろ。今のお前たち二人じゃ邪魔にしかならん」
と殺場の主人は、コルピオさんのお父さんであり、シェルナーナさんの旦那さんであるエルテルスさんだけど、このと殺場で作業員に指示を下したり、実務を取り仕切っているのはコルピオさんだ。俺たち二人は、コルピオさんについてと殺の仕事を覚えるように、とエルテルスさんから言われた。それと、もう一つ。
「学校に通いなさい」
そうとも言われた。なんでも、この街では学校が中学校を出るまでは無料で通えるらしい。と殺の仕事は、学校から帰った後でいいと。
でも、俺たちはそれを断った。
「早く仕事の役に立つ方が、大切なんです」
「仕事の役に立てるためにも、学校に通うようにと言っている」
「……学校って、そんなに大切なんですか?」
「少なくとも、中学校を卒業するまではね。数もろくに数えられないようでは、作業に支障も出る」
「僕ら、自分の食費を稼ぐのが先です」
「学校に通うのならば。このと殺場の住み込み三食賄いつき風呂トイレの使用を認める。無論、無料でだ」
なんだろう? この違いは。俺たちの産まれた街では、学校に行きたいなんてたわごとを言っていたら大人たちから大笑いされていたというのに。
「どうだい? 乗らない手は無いと思うんだがね?」
エルテルスさんはにこにこ笑いながら、そう言った。
そんな感じで、俺たちはと殺場からバスで数分の学校通うことになった。
* * *
「牛殺しの家の養子だってよ?」
「ハハ、そんな顔してるな。面相に卑しさが滲み出てるぜ」
学校ではそんな洗礼を受けた。
だけど、俺は何とも思わなかった。牛殺しって、卑しいのか? こいつら、牛喰わないのか? そんなことを考えていた。
「みんな、アルバド君と仲良くしてあげてね」
クラスの担当教師が、そんな風に紹介したが。
「臭くない?」
「くさーい」
「獣臭いっていうかー?」
クスクス笑いとともに。そんな声も聞こえたが。
俺は学校では学業成績を伸ばして、エルテルスさんを安心させることしか考えていなかった。
俺よりも二歳くらい年上のステッドは二年上のクラスに入れられた。この学校は、小中一貫とか言うタイプの学校らしい。
「おい」
休み時間に。クラスの男子に囲まれた。
「トイレ一緒に行こうぜ? プクククク」
あ。なんかあるな。
「……いいぜ」
俺は、椅子から腰を上げた。
* * *
「殴りやがったな……? てめぇ立場分かってんのか?!」
トイレでクラスの男子に囲まれて。殴られたので、思いっきり殴り返した俺に、凄みをかけてくる体の大きなバカがいる。
「お前が先に殴ってきたんだろう?」
「ああそうだ! だがそれがどうした! 転入生のお前は、スクールカーストでは最下位から始めるんだぞ? そのスクールカーストの頂点にいる俺に逆らって、無事で済むとでもおもって……」
俺は、そこでまたぶん殴った。こういうのは、ゴミの街によく居た類の奴だ。根性腐れているから、徹底的に叩きのめしたほうがいい。
「くっそ、コイツ……。意外と強い……! お前ら、手を貸せよ!!」
「バガイオ。俺たちが手を貸さないと勝てないのか? だったら。お前のスクールカースト位階はダダ下がりだぞ?」
「アシュメル?」
どうやら、俺をぶん殴ってきた体の大きいやつはバガイオというらしく、その取り巻きの中でも妙に頭がよさそうな黒髪の背の高いメガネが一人。コイツがアシュメルというらしい。
「ああ、わかんないか? バガイオ。お前は、圧倒的な腕力を有しているからスクールカーストの頂点に立てたのであって。そんな小っちゃい体の奴に負けていたら、周りから立てられる資格を失うってことだ」
何かこいつ。多分俺の勘だと、やたらと暴力を振るうバガイオよりも怖い奴だ。状況を冷静に分析して、自分たちの立てる相手を見定めている。
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