第8話 闇には左手がうごめいている
少しばかり、おびえていると。
「どうした」
とある
「いいえ」
ひと
「
「ああ」
この
「先生、」
「こんにちは、は?」
しまった、この先生、ほほえみの
「こんにちは」
彼の名前は、忘れた。
「名前、覚えられないのかい」
「どうしても。
これって何かの病気、なんでしょうか」
それほどではないが、わたしは人の顔と名前を覚えられない。
わたしの中で特別な存在は、覚えられるのだが。
教師しか、このことは知らない。どうしてか、その、生徒、同級生には打ち明けにくい。
「そもそも、生徒ってなんでこんな不自由なんでしょうか」
「そりゃあ、18歳以下だし、学生だし、善悪の判断がつきにくいし」
くるくると、何かを振り回している。ボールポイントペン?
いや、違うか。
指示棒だ。
いや、これは。
乗馬用の。
「人以下だからな、思春期の生徒というのは。
しつけが必要だ」
「だからと言って」
エルメスの、と言いかけてこの世界にはそんな服飾ブランドがないことに気づく。
「これは特別製なんですよ。
僕の身体、手、筋力を考えて、
どんなに」
と、むちで、壁をなぐってみせた。
「。。。人には向けませんよ。
そこまでぼくも、人をやめたわけではないので」
軍人として。
人を斬ってきた、とは聞いている。
とはいえ。
ときどき、瞳の奥には、わたしの知らない、闇が広がっていて、その奥からは無数の左手がのぞいている。
闇の左手、ってこういうことをいうんだろうか。
わたしがそう、しげしげとながめていると。
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