第14話 インパクトは最小限に、出力は最大で
【View 水原爽―Sou MIzuhara―】
時々、飛んでくる鉄球を
容赦なく割れていく、防御壁の音を聞きながら、重ね掛けしていく。弱いなら、重ねがけをしたら良い。
(……しかし、まいったな)
流石、実験室と言うべきか。
廃工場に逃げ込んだ時点で、イヤな予感がしたのだ。
――誘い込まれたか。
鉄球を製造するオートメーションシステム。マウンドを模し、バッターボックスには
(まぁ、そのまま乗ってあげるつもりはないけどね)
即座にメインシステムにアクセス。制御権を奪取したので、強制終了させた。ただし、非常時電源により、最低限のシステムが稼働して――今ココだ。
「……お父さんっ!」
何回めかのあの子の悲痛な声。検索する。羽島公平の長女――羽島みのり。現在はアナウンサーの妻と別居中で――。
鉄球が飛んできた。検索を中断し、新たに不可視防御壁を貼る。割れる。でも、また貼り直す。
「あ……あ、あ……」
彼女の目からポロポロ、涙が溢れる。ひなたなら、きっとココで暖かい言葉をかけるのかもしれない。でも、羽島は
「ひなた……桑島……」
一瞬、二人と目が合った。
鉄球を
(大丈夫、やれるっ!)
俺は
その瞬間、ひなたの身が炎を纏う。熱さに顔を歪ませるどころか、心地良さそうに、唇の端を綻ばせて。その姿は、実験室で垣間見た【緋色】そのもので。
その手に炎を生む。
力の暴発は無い。感情は穏やか。ひなたのバイタルサインは安定。紛れもなく【水色】として、
「ひなたっ! 桑島!」
柄にもなく、感情を昂らせて声を発する。
羽島公平が、こちらを認知して鉄球を放り投げる。俺は防御に徹して――無駄玉と、稼働時間を浪費させることに徹した。
「絶対に止められるよな!」
それは、むしろこの子に向けて、気休めの言葉。冷静でも戦略的でもない。でも、今のひなた達にとっては――。
「「もちろん、っ!!」」
声が重なった。この選択が、何よりモアベターだと信じて。
■■■
【View 弁護なき裁判団―judges without defense―】
「へぇ」
パトカーに自動運転させながら、試験場にアクセス。しかし、不正アクセスとして弾かれた。これは、システムをハッキングされたということだ。非常電源は起動。サブシステムが稼働開始。
――No.K。どれくらいで合流できる?
――あと10分ぐらいで
――遅い。5分だ。
――了解。
――他のリソースを、今回の記録に回せ。非常電源から、弁護なき裁判団のサーバーに接続して、共有。
――Enter.
ぺろっと、飴を舐める。
「ショータイムだな」
全てを網羅する監視型サンプル【弁護なき裁判団】のデータベースに、虫食いのように残る【限りなく水色に近い緋色】
キャンディーを舐めつくすように、丸裸にしてやりたい。そう思う。
俺は、自動運転を解除して、アクセルを踏み込んだ――。
■■■
【View 宗方ひなた―Hinata Munakata―】
私は力を感じた。
爽君がくれたネックレスを中心に、全身が暖かい。
大丈夫――今の私は誰かを傷つけるために、炎で焼くんじゃない。自分自身で、炎を身に纏う。飛んでくる鉄球を溶かして。あるいは、炎で絡めとって。
(暖かいよ)
自分を抱きしめるように。
自分に語りかけるように、私は手を前に組む。
どうしてだろう。私の奥底。私じゃない私がゲンナリとした
「ひなたっ! 桑島!」
爽君の声が響く。
「絶対に止められるよな!」
そう、私の背中を押す。爽君の意図は理解した。オーバードライブした
でもね、爽君。それは……。
(私達にとっては、信頼のバトンだよ!)
嬉しいよ。こんなの嬉しいに決まっているじゃない!
自然と、ゆかりちゃんと目が合う。視線が絡んで――一緒に、唇が綻ぶ。
「「もちろん」」
私とゆかりちゃんの声が重なった。
私は、火弾を連続で生み出し、放出していく。それはまるで散弾。精度は低くて良い。とにかく低負荷で、そんな弾丸を多量に産みだし、放出したら良いって爽君が言うから。
――言うなら、
火弾の応酬。鬱陶しそうで。私はこの間も、ジリジリ彼の行動範囲を奪っていく。
と、その雨を一瞬、私は途切れさせた。
彼は、活路を見出したと言わんばかりに、その表情に歓喜を灯す。
(ごめんなさい、一瞬だから。そんなに痛くないと思うから――)
私は大きく、息を吸い込む。
「ゆかりちゃんっ!」
私と、ゆかりちゃんの位置が変わる。
■■■
【View 桑島ゆかり―Yukari Kuwasima―】
これが嬉しくないわけないじゃん!
水原先輩に託された。ひな先輩が、私に信頼してくれているのが分かる。今の私にしかできないこと。今の私だからできること。ぐっと拳を握って、水原先輩の言葉をなぞる。
――桑島に託すからね。
――そういうのって、ひな先輩の役目なんじゃないの?
――適材適所。今回は、ひなたは誘導をしてもらうから。とことん浪費してもらって……。
水原先輩が一瞬、顔を歪ませる。
(優しいなぁ)
意味は分かる。
そういうトコなんだよね。本当に好きだ。大好きだ、って思ってしまう。格好良いだけじゃない。笑顔が素敵なだけじゃない。先輩の本質に触れると――熱くて。揺るがなくて。ひな先輩に対する想いが深くて。その一欠片で良いから、私にも……。
雑念が溢れる。私は首を致死悪横に振って、振り払う。
今は――。
水原先輩の素顔をもっと知りたくなる。少しでも先輩のチカラになりたい。それだけで良い。
大きく深呼吸をして、羽島公平と対峙する。
私は、拳を固めた。この意志は揺るがない。そして、消耗した羽島公平の動きは遅すぎた。
打撃の効果なんか最初から期待していない。接触さえすればいい。電流は水の流れにも似ている、と水原先輩は言う。だからこそ、力で圧倒しようとしたには無駄が生じるから――
ひな先輩の
水原先輩の不可視防御壁が、あの子を守ってくれている。
もう遠慮することは何もない。
私の拳が軽く、とんと羽島公平の胸を打つ。
電撃を開放。出力は最大で。局所負荷に集中する。
私は拳をその胸にまっすぐに突きつけて微動だにしない。イメージは流れるがままに。体の奥底の血流、それを押し出す
電流がバチバチと音を上げ、弾け、迸る。私の、耳まで痛い。
羽島は苦悶し、筋肉を弛緩させる。やがて声にならない絶叫をあげ――眩い光とともに、その体からチカラが抜ける、その瞬間だった。
「目を覚まして! あなたはお父さんなんでしょ?! お父さんが、娘を泣かせてどうするのよ?」
私は届けと願う。自分のように一時的でもいい。
届け、届け。今だけでいいから。お願いだから。暴走よ、止まって。
「お父さん!」
あの子の悲痛な声が響いた。
届いてよ、止まって。お願い、届いて。
あの子の声とともに――届けっ!
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