第11話 廃材【スクラップ・チップス】


「本当にバケモノの片棒を担ぐつもりあるの?」


 私はもう一度、聞く。爽君は小さく笑んだ。何を当たり前のことを、と。その目が言っていた。


「愚問だね」


 爽君は何も揺るがないと言わんばかりに、そう答えた。


「……でも、私は今もこの力を持て余しているよ? 爽君だって危険だよ?」


「研究者がそもそも持て余していたんだから、当然じゃない? その能力スキルを補完するために、デバッガーの俺がいるんだから」


「私は誰かを傷つけるよ。きっと、爽君のことも」


「ひなたが傷つかなきゃ問題ない」


「……私、バケモノだって自分でも思うけれど……みんなと友達になりたい」


「なれるよ、ひなたなら」


「……バケモノなのに?」


「ニンゲンの本性なんてそんなもんでしょ? ひなたがバケモノなら俺もバケモノだから大丈夫」


「――爽君、力を貸して」


「うん」


 爽君はがにっこりと微笑んで。そして指を向ける。先程、彼女が電流で焦がした体育館の壁。今なお痛々しい。


「ひなた。発火能力パイロキネシスで、体育館の壁を焼き払って欲しい。でも延焼させることが目的じゃないからね。密閉空間で高圧電流を対処するのは、ちょっと分が悪いから。ココを出て、電源である本人を消耗させたい」


「……」


 私は目を閉じる。

 意識して能力スキルを起動するのは、これが始めてだ。


(また暴走したらどうしよう……?)


 その恐怖心は拭えない。でもその前に、目の前の彼女を放っておけない。


 彼女の爽君に対する純粋な想いが羨ましい。眩しいとさえ思った。私は、きっと素直に自分の感情を紡げないから。


 ――私なんか、いなくなればいのに。

 過去の私は、そんなことばかり考えていた。


 だって、想いを晒そうとしたその瞬間、感情が抑え切れなくなる。自分の感情次第で、この能力スキルはすぐに弾けてしまう。それが、たまらなく怖かった。


 でも、爽君は言う。バケモノの片棒を担ぐ、と。

 私は素直に思う。エゴでしかなくても、目の前の誰かに手を伸ばしたい、と。


 爽君は、こんな私を肯定してくれた。


 その一方で、爽君に純粋な気持ちを捧げる彼女が、あまりに苦しそうで。


 私を肯定してくれたように、爽君があの子のことを肯定してくれたら。きっと、それだけで彼女は救われるって、思ってしまったんだ。


「ひなた?」

「あの子の苦しさも、きっと私と一緒だと思うの」


 爽君は小さく息をつく。


「……ひなた、俺は今から残酷なことを言うよ?」


 爽君は、感情を排したかのように、言葉を紡ぐ。まるでコンピューターに検索をかけた、その結果だとでも言いた気で。


「多分、彼女は廃材スクラップ・チップスだ。いわゆる実験失敗作。もう能力上限稼働オーバードライブしている。救出サルベージは無理だって思うんだ」


 爽君の言葉を私は何度も、反芻した。




 無理――。



 私は、真っ直ぐ、爽君の目を覗きこんだ。

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