出発

おばあちゃんのおうちにつくまで、ぼくは夢の中で会った少女を繰り返し思い出していた。

あれは、だれだっけ…?知らない人、そうだ…

いや、でも夢に知らない人なんて出てくるの?

考えれば考えるほど、わけが分からなくなった。

疲れてしまった日向は、いつの間にか夢も見ずに眠っていた。

あれは本当に、何だったのだろうか。

おばあちゃんのおうちについてもなお、あの子のことが頭から離れない。

ご飯の時も離れなくて、語りかけられる会話に、何度も何度も、

うん…とテキトーに返していたら、とうとうお母さんに怒られてしまった。

ぼくは抗議した。なんでそんなことで怒られなきゃいけないのか。

お母さんが言うには、

「ご飯食べるときぐらい会話に参加しなさい」

とのことらしい。

でもぼくにはそんなのどうでもいいし、ぼくは関係ないし、それよりもっと大事なことがある。

ぼくは、そのことを必死でお母さんに訴えた。

「お母さんの僕への文句もお父さんの会社の文句もどうでもいいし、わけわかんないんだもん!ぼくはそんなのどうでもいいし!」

「どうでも良くても!食事中ぐらい会話に参加しなさい!」

「やだ!」

「あぁ!もういいわ!外で立って反省してなさい!」




どうでもいい話を延々と聞かされた挙げ句、ぼくは外に放り出された。

普通なら「ごめん」とでも言って家の中に入れてもらわなきゃいけないのだが、ぼくの住んでいる家と違って風が気持ちいいし、心地いい。ここらの電灯は元気がないらしく、ぼくの住むまちより暗いけど…。そのおかげで月と夜空がすごく奇麗なのだ。

ぼくはしばらく月を見てぼーっとしていた。



―夜風が運んできた誰かの声が、優しくぼくに語りかける。

『ねぇねぇ日向くん、私と一緒に遊ぼうよ』

どこか聞き覚えのある声。

「うん、いいよ!一緒に遊ぼ!」

『私のところにまた来て、昨日みたいに…』

「でもぼく、ここにいなきゃ…」

『いいじゃん、追い出されたんだし…』

「…そっか、それもそうだね。」

ぼくは声に言われるがまま、歩き出す。

―お母さんなんて、知らない。ぼくがいなくなったのを後悔すればいいんだ。

ぼくはワクワクしながら、しまいには走り出していた。

窓から見えないように、窓の下はかがんで通った。

おばあちゃんのおうちの中から、楽しそうな笑い声がしている。

「きいてよ…うちの部長がさぁ…」

「きいて、この前近所のママ友がね…」


ぼくのことなんて忘れたかのようだった。

「いいよ!絶対、帰ってなんてあげないんだからねっ!」

ぼくは悔しさ紛れに走り出した。

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