CASE1 : 職業、神官②
彼女の反応に、おや?と思った。
神殿だの神官だのと口走っていたため、てっきりそうだと思ったのだが、違ったのだろうか。
「あ、そうか……あの言い方じゃそう思いますよね……すみません、説明が足りなくて」
一瞬考えた彼女は納得したように頷きながら、懐から名刺を差し出してきた。
株式会社アタハタヤ
VRMMO事業部
ワンダーリア・オンライン人事課課長
その文字列を追った私は驚いた。
株式会社アタハタヤというのは、バーチャル・リアリティ・エンターテイメント業で世界的に有名な会社だ。いわゆるメタバース創生期から業界に参入し、瞬く間に頭角を表して時代を牽引するようになった。
ゲーム事業やバーチャルイベントなど、次々に革新的な試みに挑んだそのベンチャー企業は、時流を掴み拡大に拡大を続け、今や一部上場の立派な大企業になっている。
そしてつい先日、これまでにない世界観への没入を可能とする、五感連動型オンラインゲームのリリースを発表した。それが彼女の名刺に記されている、ワンダーリア・オンラインだ。
「ワンダーリア・オンラインって、少し前にリリース告知してた、あの……?」
「はい、そうです!ご存知ですか?」
私が念のためそこに触れると、水内さんは嬉しそうに頷く。
「少しだけですが……確かプレイヤーは異世界転移して、それぞれの国で〝渡り人〟として歓迎され、
「そうですそうです。よかった、話が早くて助かります」
彼女はそう言うと、鞄から大判の端末を出して資料を見せてくれる。
「鳴神さんにご紹介したいお仕事は、イン・スタッフと呼ばれるポジションです。このゲームはAI制御なので、ノンプレイヤーのキャラクターが数多くいます。ですがリアリティの追求を売りにしているゲームでもあるので、それとは別に実在の人間がVR世界にログインして行う仕事もたくさんあるんです」
水内さんは言いながら、端末の画面をタップして切り替えた。
イン・スタッフ一覧という画面に、等身の低いミニキャラクターがぞろぞろと並んでいる。領主、役人、ギルドスタッフ……彼女が触れたギルドスタッフのアイコンから新たなページが開き、ミニキャラではない頭身の高いキャラクターが何人も表示された。ゲーム内での実際の姿はこちらなのだろう。
「今出ているのは既に採用が決まっている方々のアバターです。イン・スタッフで構成される役は、制服がある職種の場合は制服だけは固定ですが、それぞれ固有のアバターを支給されて、ゲストからも個として認識できるようになります。そして同時に、接客業としての責任も伴うことになります」
「……ああ、なるほど。テーマパークのスタッフのような感じなんですか。本来ノンプレイヤーで事足りるところをわざわざこうしているということは、常連さんにはそのような対応、新人さんには親切にしたりですとか、そういう生身らしい対応が求められるわけですね?」
それぞれに味のある多様なキャラクターたちを眺めながら、もし私が働くとしたらアバターはどのような感じになるのだろう、と内心ワクワクしてきた。
「仰る通りです。そしてできるだけ、もしそういう世界に生きていたら、その仕事に就いていただろうことが想像できる方を採用するように言われています」
「それはまた……難易度の高い注文ですねぇ」
選ぶ側からすればなかなか厄介な条件だろうが、世界観の本気の作り込みは垣間見える。そしてそこで、水内さんの雰囲気がぐっと変わった。寸前まで柔らかだった彼女の周りの空気が、にわかに圧のようなものを帯びる。
「その点、鳴神さんはまさに神官としてパーフェクトです」
形の良いその双眸が、射抜くような鋭さを帯びてこちらを見据えていた。
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