神官さんの異世界トラブルシューティング!

吉楽滔々

CASE1 : 職業、神官①

「鳴神さん、どうか、どうか、我が神殿の神官になってはいただけませんか?」


「……はい?」


 現代である。


 日本である。


 ついでに言えば、私は無宗教である。


 鳴神和なるかみのどか。字面だけ見ると女性に間違われがちだが、れっきとした男だ。歳は三十一。


 つい先日、勤めていた会社が倒産し、今日は失業手当と職を求めてハローワークを訪れていた。そして登録と申請を終えて出てきたところを、今目の前に座っている美女に呼び止められたのである。


「あなたにぴったりの職業を紹介できるかもしれません」と。


 ひとまず暇だったのと、その言葉に多少の興味が湧いたため、のこのことカフェまでついて来たのだが、なるほど何かしらの新興宗教のお誘いということらしい。


 職を失い不安になっている人間を待ち構えて狙うとはなかなかやりますね、と内心笑う。


 しかし残念ながら、私は信仰は求めていなかった。精神の安定剤も、今のところは趣味のロールプレイングゲームで充分だと思っている。不安がまるでないというわけではないが、失業手当も貯蓄もあることだし、どこぞの神にすがるほどまだ切羽詰まってはいない。


「水内さん、申し訳ないんですけれど、私、宗教は間に合ってまして」


「——————えっ、宗教ですか?」


 微笑んでそう切り返せば、彼女はひどく驚いたような表情になった。

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