第549話 兄の背中
修学旅行から帰った翌日。
…昨日の荒ぶり具合と正反対。
望『にいちゃんっ♪』
ひー『にいちゃん!!』
ふたりは甘えん坊。
悪い気はしない!
…特に望は現金で…
☆ ☆ ☆
翌朝、俺が1番感動したお土産を取り出す。
『これが兄ちゃんが今回北海道で1番感動した…地元の食べ物…。
かま
望『ぱんろーる?パンを巻く?』
ひー『ぱんろーる?』
俺もさ…小樽で最初の漁師さん向け食堂で勧められた時に、
かまぼこパン?美味しいん?って思ったの…。
自由行動で札幌市街地を回ってた時にデパ地下で見つけて…237円だから…食堂のおばさんのオススメだし食べてみっか…。
!!!
うまぁ!ってなって。
『見た目は春巻きっぽいんだけど…表面薄いパンを巻いて揚げていて!
カリカリの熱々!
魚のすり身に胡椒が練り込まれジューシーに揚げてある!
さらに豚ひき肉と玉ねぎのみじん切りも練り込まれててかまぼこのぷりぷりとした食感だけではなく、表面の香ばしい食感も同時に楽しめて、あっという間に食べ切ってしまった…。
これコンビニにあったら毎日食うわ。』
ごく。
望がかぶりつく。
ひーちゃんはふーふーしてる。
オススメのオーブンでカリカリに焼いたけど…
望『うま!うまだよぉ!』
俺も一口齧って。
『望、現地で揚げたて買った時。
…これの倍以上美味かった。』
望『地方発送!してないの?』
『…してないんじゃ。
賞味期限3日だし。
ひら天って言うこれの天ぷらやマヨサンドも美味かったけど…
このプレーンのパンロールとチーズ入ったパンロールが1番美味かった…。
想像してたかまぼこパンとは違ったんだ…。』
『…これでもうまなのに?
揚げたてもっとうみゃなの?』
俺は頷く。
『キレそうになったけど…今日は夕飯カニだし…ホタテ焼いてくれるって言うから…我慢しゅる。
…バター醤油で貝殻ごと焼くんだよ!
兄ちゃんは香椎先輩のホームパーティでしょ?良かったね!』
『…うん。』
望とひーちゃんはパンロールに夢中だった。
…いやマジ美味いんだよ…!
☆ ☆ ☆
甘えん坊のぞひーは大変可愛い。
兄は久々の妹弟成分を充電して夕方の香椎家来訪に備える。
そんな午後…
祖父『承くん!新二くん遊びに来たよー!』
はあ?!
俺は転げるように玄関へ向かう。
そこには幾分お疲れの松ちゃん!
新二『よう、承。
元気か?』
あれからたった1週間!俺は!
茶の間にあげて食い気味に話を促すよ!
新二『修学旅行帰りだったよな?
北海道だったか?俺北海道大好きでさぁ。』
俺はそれどころじゃ無くて!
『松ちゃん!
どうしたの?忙しいんでしょ?
俺!俺!』
松ちゃんはしょうがないなぁって顔して、
新二『近いうちに行くって言ったろ?
…コレを渡しに。
これは俺と玲奈さんの婚約破棄を正式に書類にしたもの。
…あの親父も結構凹んでて…今朝話したらあっさりサインくれたんだ。
色々心境の変化があるのかもな…。』
ちょっと遠い目をする松ちゃん。
…初めて会った頃の傲慢で人を寄せ付けない壁が減った気はする。
『近いうちに香椎家に、玲奈さんに手渡して欲しい…。
松方新二が…詫びてたって。
…本当は直接言った方が良いんだろうけど、娘をよこせって駄々こねたおっさんの顔なんか見たく無いだろうし…ほとぼり冷めるまではな?
うちのパパもそう、きっと我に帰ってまたエネルギッシュに動き出したら面倒くさい事になる…。』
嫌な予感がした。
…遠くへ行っちゃうのかな?
『松ちゃん…。』
松ちゃんはカラッと笑った。
珍しく爽やかな笑顔で、
『色々面倒くさい頃も多い。
パパも探しだろうし、連れ戻されるのも嫌。
だっけ…東京へ行こうかなって思ってる。』
…。
俺が黙ってると、
『いや、金は遊んで一生暮らせる。資産はあるし?
何がしたいか、夢を探すか、今は色々考えてるんだ。
…飯は美味いけど…それだけに生きてる訳じゃない。』
『…俺が言ったことじゃん。』
『そうそう!そうだろ!
俺はあの日死んだ。
だったら死んだ気でしたい事探す旅に出ようかと思うんだよね?
金ならいくらでもあるし。』
俺には少し罪悪感があった。
…玲奈さんの為とは言え、松ちゃんに無理心中しようとした事。
俺のエゴで玲奈さんを手放す決断を迫った事。
…それ自体は恥じること無いと思ってる。
でも、松ちゃんが駄々こねたとは言え、玲奈さんを手放すって要求…。
俺は説明しにくいながらもその気持ちを伝える。
…俺は!
松ちゃんははは!って笑って優しい目で俺を見つめた。
『承は俺の『弟分』だろ?
俺は色々な事を承に教えて貰ったんだ。
金持ちのボンボンで世間知らずで友達も居なくてわがまま放題。
でも承は家族や友達や人を好きになる気持ちとか…好きな子の為なら命賭ける事、男の誓い、こんな俺を命賭けて救ってくれて…死ぬ時は一緒って言ってくれた。それで充分。』
『松ちゃん!でも、俺。
玲奈さんを手放せって…それは後悔してないけど…松ちゃんの気持ちを考え無いで…。』
松ちゃんは笑った、
今日はなんか松ちゃんが遠く感じる。
別れの気配、嫌な感じ。
『なに?玲奈さんを代償無しに手放させた事を気に病んでるのか?』
『…あんな女の子居ない。
誰だって好きになる。
松ちゃんにタダで手放せって言ったこと…俺はなにかで返さなきゃって思って…。』
松ちゃんに立てって言われた。
…殴られるかな?…1発や2発くらいなら安いもんでしょ…。
俺は立ち、松ちゃんも立つ。
ドン!
胸にゲンコツ。
殴られた訳じゃない。
松ちゃんが恥ずかしそうに、
『兄弟ならそうゆうのは無しだろ?
一回こうゆうセリフ言ってみたかった。
…今までは言いたい相手も居なかったけど。』
『でも…!』
言い募る俺に一瞬考え込んだ松ちゃんは兄貴らしい顔で、
『…だったら…。
夢叶えろよ。
防衛大行くんだろ?
きっつい訓練受けて、不自由な思いしてまで自衛官になって大切なモノを守るんだろ?
…だったら…お前の守りたいもの一つに俺も入れてくれよ。
俺も大事なモノに入れてくれよ。』
俺は気付けば涙を流していた。
『守るよ、きっと大事なモノを守れる漢になる!
その時は松ちゃんや親友たちも守れる漢に…!
もっと勉強して、もっと大きな男になって…!今は無理でもいつか必ず…!』
松ちゃんも涙流しながら頷いて、
『…気に病む必要なんか無い。
気付いたら玲奈さんよりお前が大事になっていただけ。
ただそれだけ。
だってこれから一生付き合っていくんだからな。
だっけ?もちょっと融通効く漢であれよ?』
こないだのホテルの最上階のバーで飲む約束忘れるなよ?
楽しみだな、きっと美味い酒酌み交わせるだろうな。
そう言って松ちゃんは立ち上がった。
もう行っちゃうの?
『こないだも言った。
コレでしばらく会えない。
もう時期スマホも繋がらなくなる。
…でも意外とすぐに再会出来そうな気もする…。
達者で暮らせ、また会おうな弟?』
『…松ちゃん…!』
落ち着いたら連絡する、そう言って松ちゃんは背中越しに一回手をあげてバイバイってした。
俺に兄は居ない。
…それでもわかるその背中は兄貴のものだった。
俺は兄貴の背中を涙で滲む視界で見送った。
…次会う時は…もっと…。
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