第547話 修学旅行最終日

函館の朝。

近くで朝市やってて…それを見物に行く生徒が多い。

1時間半の自由時間を俺は…趣味に当てる!


とわんこ辺りは着いて来たがるだろうが、時間と距離がかかるから連れて行く選択肢は無い。

※断言。


俺はあっちゃんを誘って出かける。

…昨日の事があったから気後れしたけど気にしていないみたいだった…。

まぁ殴られたの俺だけど。


函館駅からしばらく行ったところに目的地はあった。


【土方歳三最後の地碑】

そこが目的地。

諸説あるけどここが最有力。

武蔵国多摩郡石田村出身。

彼は武士の出は無かった。

それでも相次ぐ血戦、死線を潜り抜け、幕臣に取り立てられた。

激動の時代とは言え庶民が幕臣に成り上がり、函館政府の陸軍奉行並まで出世した事…そしてそんな事など歯牙にもかけずに自分の志に殉じた侍。


俺は戦国武将が好き。

県内にある有名な戦国武将の居城に訪れた時もそうだった。

…本当に実在して生きた人間なんだって。

小説やゲームで色々膨らまされた人間像。

でもその元になる話があって、伝説が残る。

1人の人間が悩んで苦しんでもがいた事績。

土方歳三は紛れもない武士だった。

それは彼の生き様と死に際が雄弁に物語る。


…烏滸がましいけど俺も…悩んで苦しんで…生きた証を残せたら…。

そんな事を思って手を合わせる。


花を供えたかった…!

でも早朝で店が開いていない!

俺は断腸の思いで、ポカリとコーラを供えた。

…ポカリは運動後、コーラは風呂上がり最高です…。

あっちゃんと手を合わせる。

…これで俺の修学旅行は終わった。


函館駅からバスでフェリー乗り場に移動。

行きで死にそうになった青井と伊勢さんの顔が引き攣る。

ふたりは酔い止めをグッと飲み込むと、すぐに横になった。

スマホ?本?とんでも無い!

約3時間半の航海を終えて青森に着く。

青森…!

お土産にりんご丸ごと一個入ったアップルパイを買う。

…ひーちゃん喜びそう!

望とひーちゃんに無性に会いたい!

望は最初こそ返事くれたのに最後の方既読無視しやがる。

…あの食欲おばけヘソ曲げてるんだろう。

でもこのお土産見たら…海産物届いたら…きっと気に入って上機嫌になるに違いない。


青森駅からひたすら電車に揺られる。

フェリーは自由だったけども電車内は狭く移動する余地もあまり無い。

駅弁美味しい…。

この5日の疲れが急に出て来た…

修学旅行も終わり、盛り上がる要素は無い。

もう時期現実に戻る。

でも…長い!船で時間を持て余し語る事は語り尽くした俺たち!

食後眠くなっちゃって…ぼんやり話すうちに…ひとり、またひとりと脱落して行く…。



☆ ☆ ☆

厚樹が2組の車両に遊びに行くと…いつもの4人は夢の中。

青井は腕を組んで狭いのかしんどそうに、

伊勢は胸を両手で押さえて恥ずかしそうに、

紅緒は…なんかニヤニヤしながら頬杖ついて、

承は通路側にはみ出しながらうなされている。


『ぷっ。』


コイツら仲良いなぁ厚樹は笑いながら自席に帰る。


女子『あ!厚樹くん!』

女子『一緒にお土産食べない?』


『いい…俺寝るわ。』


厚樹は防衛大の話を承としたかった。

…三年時は進学文系にしようかな?って思いながら眠りについた。



☆ ☆ ☆

…私は帰ってきた…!

すっかり夕方…っていうか夜!

午前出発して夜?

まじ北海道パネェ…!

東光高校に19時…!予定より10分遅れ…つまりほぼ時間通りに着いてこれ!

ほぼ順調に着いてこの始末!

私立なら飛行機なんでしょー!?


とわんこもばいばい。って静かに家へ消えて行く。

…自転車漕いで帰るの面倒くせぇ…!

荷物パンパンのお土産重い!思い出も多いけどウェイト的にも重い!


そしたらね、


青井『悪い…俺、母呼んだ…!

自転車漕ぐ気力が…!

立花、伊勢乗ってけよ…?』


俺と伊勢さんは視線を交わす素直に好意を受ける事にした。


『『あざぁす。』』


青井母がテンション上げながらトークしてくれるのに相槌打つのが精一杯。

伊勢家前、立花家前と家まで送ってくれて…!ありがとうございます!


火曜に出発して土曜夜。

全然経って無いけど無性に家族の顔が見たいよ!


『ただいまぁ!』


『『おかえりー!』』


母さんが出迎えてくれて、じいちゃんばあちゃんがすぐ部屋から出て来て俺の肩を叩く!

楽しかったかい。北海道良いとこでしょ?何食べても美味しいよね!

俺は笑って答える!ほんとほんと!

お土産いっぱい買ってきたよ!

さっき海産物届いたよ?高かったでしょー?

そんなやり取り!


…あれ?


『望とひーちゃんは?』


母さんとじじばばが視線を交わして困った顔をしておる。


『…にいちゃんが居なくて寂しかったみたいなのよね?』


『…へぇ。2階?』


母さんが頷く。

おかしいな?俺が帰って来たら喜んで出迎えてくれそうなものだけど…。


…2階へ登る階段へ向かうと、物陰からそっとひーちゃんが出てきた!

ひー!にいちゃん帰ったよ!ハグしよう!


ひーちゃんは申し訳無さそうに俺に言った。



『…ぼくは…ぐれた。

ねえちゃんにきょうせいされた…。』


ひーちゃんがグレた?!

ひーちゃんがまだ申し訳無さそうに、


『…ひゃっはー…。

おぶつはしょうどくだー。

こんなことしたくないの。』


そう言いながらひーちゃんは俺にアルコールスプレーを噴射した。

俺は手で受け止めて手指の消毒をした。


!!


ひーちゃんの髪型は両サイドを中央に寄せて…上げて逆立てて…!

モヒカン?!ソフトモヒカン?!

ベッカム様以外にこの髪型…!

格好良いと可愛いは共存する…!



…望はどうなってるんだ?

俺は嫌な予感しながら自室へ戻る。







望『…にいちゃんさぁ…そこ座れや…。』


だらしなく自分ベッドに仰向けで寝そべる妹は…

王様でもしないほどそっくり返ってる。


金髪に青い色の目!

スポーツブラにショーツって目を疑う姿!

気だるそうに俺に指図した。

にいちゃんはそんな格好許さないぞ!


望『…いいから…座れや…!』


俺は素直に自分のベッドに腰掛けた。

めっちゃグレてる!

俺の妹が…!こんな事するような娘に…育ってしまったかも知れん…。

俺は機嫌を取るように、


『…望、お土産いっぱい買ってきたぞ?』



『…。』




どれだ?!


 食いつく!お土産たくさんでご機嫌!

 グレたまま?!食い物で釣れない?!

→悪いものでも食ったのかなぁ?

 



『悪いものでも食ったのかなぁ?』


望は虫ケラを見る目で兄を見て、

まだベッドでそっくり返って下目で見ながら、



『…ふぁっく…ふぁっかー…ふぁっけすと。』


謎の三段活用を呟いた…!

こっわ!完全に育てから間違っただろ…。

願わくば…香椎さんみたいに清純清楚に育って欲しかった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る