第545話 男同士
函館山から見る夜景は、きゅっとくびれた優美なラインが暗い海と街の明かりのコントラストを際立たせる。
半島の形がくっきりわかる人々の灯、人々の営み。
最初北海道の南部分の形だと思ったら…小さいぽっこりした部分なんだって…
手を伸ばせば届きそうな距離に広がるロマンチックな世界が、多くの人を感動させる。
まっちゃんとBARで見た夜景とは違う日本三大なんて銘がつくほどの夜景は圧巻で。
皆、思い思いに散開して見ている。
うちだけじゃない、修学旅行生も多く居る。
俺は一度トイレ行って戻る。
お土産屋さん、レストラン、BARなんかがあって人で賑わっていた。
悔しいな、うちの県商売下手すぎだろ。
北海道は何処へ行ってもお土産屋さんがあり、観光客で賑わう。
それに比べて我が故郷…!
でも、そろそろ故郷に帰りたい。
のぞひーの、家族の…香椎さんの顔が見たい…。
香椎さんも今週修学旅行でオーストラリア旅行だって言ってた。
…私立はすごい。
展望台へ戻る。
…はうって吐息が出る。
人工的な灯りもここまで美しく感じるんだ…。
何度見ても目を奪われる。
ただ黙って遠くの灯りを眺める。
見知った、後ろ姿を見つけた。
音も立てずに夜景に見惚れる姿は…儚く寂しげで。
俺はそっと隣に立って、声をかけた。
『…夜景ロマンチックだね…あっちゃん。』
あっちゃんは嫌な顔しながら、
『…なんで男相手にそうゆう事言うの?
それ女の子口説く時とかに言う言葉だろ…。』
『…最近同じような事まっちゃんに言われた!』
『…どうかしてるぜ…。』
☆ ☆ ☆
夜景を見ながら俺はあっちゃんとボソボソ会話を交わす。
…香椎さんの婚約問題解決したん?…多分…。
…付き合うん?
俺は話題を変えた。
『…修学旅行も終わりか…
もう高校生活も半ばを過ぎて…こないだ入学したばっかなのにね。』
あっちゃんはそうだなって呟いた。
そう言えば…
『あっちゃんは進路って決まった?
確か進学理系にクラス分け…。』
あっちゃんは少し困った顔で頬を掻く。
『まぁ…理系とかこだわり無いんだけどよ。
…うちの母さんの願いで大学進学希望なんだ…。』
あっちゃんは両親の離婚でママ側に。
パパは養育費を払ったけど…あっちゃんのママはそれを使う事を嫌がり、断固として自分が厚樹を大学まで出してみせる!って事にこだわってて…。
でもこの時勢でなかなか…生活もあまり楽では無い。
もちろんあっちゃんママは頑張ってる、俺も会って話した事あるんだけど意地なんだよね…。
『…だっけ、どんな大学でも良い大学進学!ってのが母さんの悲願。
でも俺…そこまで勉強得意じゃ無い…まあ東光来てる時点で普通ですって言ってるようなもんだけど。承は進学文系クラスだよな?』
『…君良い身体してるね?』
俺が肩を掴むとあっちゃんはまた嫌な顔をした。
…決して嫌いじゃ無いよ、その表情。
俺は続けた。
『…あっちゃん、俺の志望校なんだけど…
防衛大学校って言う学校があってね…。』
☆ ☆ ☆
『…なるほど…四大卒業相当の単位に任官すれば学費は無料…。
しかも各種運転免許の取得が出来る…。
自衛隊幹部士官育成の…。』
『…しかも、在学中から僅かだが給与も出る。
厳しいけど全寮制だからお金ほとんどかからない。』
『…まじか…!
それならダブルワークしてる母さんを…納得させて…家計も楽に出来る…!
俺さえ居なければ母さんは無理しなくて良いんだ!』
あっちゃんだって家計の足しにバイトしてる。
それでも大学へ通うって事はお金がかかる。
あっちゃんは俺の話を食い入るように聞いてくる。
一通り話が終わると、
『…なんで承は防衛大に行こうと?』
あっちゃん相手だから…誤魔化しはしない。
『…うちも家計が苦しい。
下に妹も弟も居る。…ひーちゃんの医療費かかるしね。
…あと大学くらい出ておきたい。
全然釣り合わないけど…香椎さん…。』
誤魔化すってつもりじゃ無い、でも俺は言葉に出来なかった。
『…あと、大事なものを守りたい。
俺はそう思った。』
あっちゃんは横で頷いた。
『…かっけぇじゃん。
子供の頃の事思い出すわ。』
子供の頃、無邪気に語り合ったどんな漢になりたいか。
どんな事が出来る漢でありたいか。
俺はまだまだ何者でも無い小僧でしか無いけど。
いつか、大事なものを守れる漢に…。
大事なものと大事な思い出がぎっしりつまったこの国…まで言うと大袈裟か。
でも、小さな力でも俺はその為に使いたい。
…身近に景虎さんっていう尊敬できる大人が元自衛官だったってのも大きい。
『…漢じゃん…。』
珍しくあっちゃんが褒めてくれる。
『…決めた!承、俺も防衛大を第一志望にする!』
『マジで?』
ちょっと怖いとも思ってた進路にあっちゃんが一緒だったらどんなに心強いか…!
もちろんひとりでも目指していたし、どっちか落ちる可能性もある訳だけれども…。
それでも同じ夢を目指す同志でライバル!
それがあっちゃん!最高じゃん!!
俺たちは函館山からの夜景を見つめながら語り合う。
すぐ腕立て伏せさせられるらしいよ?共同生活…大丈夫か?
怖い先輩が多くてまさに軍隊…!まじか…
運動系の部活必須で連帯責任が…この時代に?!
ドン引きエピソードを笑い合いながらビビり合いながら語り合う。
話は盛り上がり!
そんな時、俺の太陽が俺の目を真正面から見つめて問いただした、
『さっき話逸らしただろ。
香椎さんと付き合うのかよ?』
…俺は絞り出すように、
『…俺、玲奈さんとは付き合えない…。』
…俺はあっちゃんに殴られた…。
俺はなすがままだったがあっちゃん目が怒りに満ちてて俺は何も言えなかった。
『マジで格好いいのかダサいのか…。
すげぇのかダメなのかさっぱり訳分かんない。』
そう言ってあっちゃんは去って行った。
…自己嫌悪に消えたくなる…。
☆ ☆ ☆
その頃の女の子。
成実『…承…居ないなぁ。』
永遠『…あ!なるみん!承くん見なかった?』
☆ ☆ ☆
修学旅行がもう2話で終わり、話は玲奈の婚約解消記念香椎家ホームパーティへ。
そこから【告白編】で決着がつきます。
なぜ承は玲奈と付き合えないって言ったのか?
わかった方もここは秘密でお願いします。
その辺はホームパーティ編でw
次回、女同士。
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