第534話 自分の嫌な部分 side紅緒永遠

『…すっきりしたでしょ?ずーっと苦しかったよね?

気持ち悪いし、不愉快だったでしょ?』


『…うん…そうだね。

承くんに助けて貰った…。本当に感謝してる。』


私の言葉に俯く玲奈。

こんな事言っちゃいけないってわかってる。

玲奈は良い娘、頭が良くて献身的で明るく美人で人気者!

…私と比べたら…!

そんな自分の嫌な部分がチラリと顔を出す。

私は止められなかった。


『ほんっと良かったね?

承くんにお尻拭いて貰えて?

丹念に拭いて貰ったんでしょ?綺麗さっぱり恥部まで丸見えで。』


『…なっ?!尻拭い…?

…うん、何も言えない。』


『嬉しいよね、良かったね。

お姫様みたいに困ってたら武将ヒーローが来て全部解決してくれる。

いっぱいそういう話しあるもんね?

スサノオの八岐大蛇退治、一寸法師、アンドロメダを救ったペルセウス、

どう?お姫様気分?』


玲奈はすぐに私の意図を察してグッと言葉を飲み込んだ。

言いたいこともあるのだろうけど助けて貰ったって意識はあるんだ…?


『…玲奈は偉いよ。

自分の家族の為、家業の為、会社の従業員さんの為。

偉い偉い、真似出来ない!

でもさ?承くんが毎日ボロボロになって憔悴して悩んで毎日をぼんやり過ごしてたの知ってる?

お姫様を助けに行くヒーローに試練はつきもの…。』


『…。』


『承くんは普通の男の子なんだよ?

バイトしてバスケして友だちとわいわい!家族が大好きなどこにでも居る男の子。

ちょっと熱血で妹弟好きすぎなそんな男の子。』


『…。』


もう夜になる東光駅。

電車行ったばかりだからほぼ人が居ない。

玲奈の天月の制服は派手可愛くて遠目で向こうに居る男子が玲奈を見てるのがわかる。

玲奈は私の言葉を受け止める。

わかってる、そうだよね、承くんが好き、承くんが無理してくれたって感情が見て取れる。


『…玲奈が先に出会った。それはわかってる。

でも、承くんはいつも玲奈玲奈玲奈!

なのに玲奈はいつもよそ見ばっかり!

あんなに傷付けたり疲れたりボロボロになっちゃうなら…

私に譲って!私が大事にするから!』


言ってるうちに自分の激情が制御出来なくなって声が大きくなったしまった。涙もぽろり。

私の中のドロリとした感情が出てしまう。

…私の中こんなに醜い汚いモノが居た。

本当に恋するまでわからなかった存在。

ソレが鎌首をもたげる。



『玲奈のせいで承くんはずーっと気もそぞろ。

本来高校2年なんて楽しい時期なんだよ?

私は毎日側に居ていつも思う。

楽しいのかな?って。

…それでこないだは命まで粗末に…!

玲奈のせいだよね?』


玲奈が身体を硬くする。


『玲奈はさ…めっちゃモテるでしょ?

他の男の子でも良いんじゃない?

承くんより格好良い、お金持ちの

家格釣り合うようなもっと学歴あるハイスペックな…』

『…責められるのは仕方ない。

でもそんな事恋愛のことを他人に言われる筋合いは無いよ。』


初めて玲奈が遮るように早く言葉をぶつける。

玲奈は強い目で私を見つめる。


『この間宏介くんにも言われた。

私と関わると承くんが無茶する、自分を省みずに行動しちゃう。

だから私が関わると承くんにとって碌な事が無い…。』


…宏介くんも気付いてたんだね。

そう!そうでしょ!


『だったら承くんに感謝して身を引いたら良いんじゃ無い?』


玲奈は射るような瞳ではっきり言い切った。


『絶対に引かない。私には承くんしか居ない。

誰が相手だろうと一歩も引かないって決めてるの。』

『私だって!私だって承くんしか居ない…!』


無言で見つめ合う。

綺麗で可愛いな玲奈は。

性格だって素直で優しい。承くんから聞いたエピソードだって皆んなの事を1番に考えた献身的で視野の広い娘。

実家も太いし頭脳も県内随一の天月高校、絵本コンクールで賞取って発行されたり趣味ボランティアってなに?

スタイルだって細いけど出るとこ出てる上に健康的で肌艶ツヤツヤ!

その上でスポーツ万能でテニスはインターハイまで出場…。

それなんてヒロイン?ってスペック。

『完璧女子』ってあだ名が付くのもわかる。


相対すると異常なまでのスペックちょっと気後れする。

ダメ!負けれないよ!

最後にずっと思ってた事を言う。


『じゃ行くね永遠。』


踵を返して向こうから来る電車を認めた玲奈は話は終わったって顔。



『待って、これだけ言わせて。


…玲奈、貴女自分で思ってるより怖いんだよ。』


『…何を…。』


電車が駅に入り減速する。

雑音が大きくなり、電車のおこす風で暴れる髪を玲奈は抑える。


『…貴女怖いの。

なんでも出来てなんでもこなして文武両道で美人で性格良くて…。

でも普通はそんなじゃ無い。

普通の人は貴女に付いて行けないんだよ。気後れしちゃうの。

…現に承くんだってそうだったでしょ?』


玲奈が目を見開いて息を呑む、

これで良い、ここは圧だけかけておく。


『まだ終わりじゃ無い。

承くんには去年文化祭の後夜祭で告白して…一年猶予を貰ってる。

明日から修学旅行、文化祭。

まだ玲奈の勝ちじゃ無い!

承くんは譲らない!ばいばい!』


私は言いたい事だけ言って玲奈に背を向けた。

玲奈が何か言ってるけど私は聞いてない。


これで良い、玲奈にストレスとモヤモヤを与えた。

…自分の汚さが嫌になった。

私こんな娘だったんだ。

玲奈と仲良くして泊まりに行ったり遊びに来てくれた日を思い出す。

…友達…よりライバルだったんだ。

もとより共存出来るわけが無かったんだ。

勝った方はこれからもズッ友!とか言えるだろうけど負けた側は友でいれるいれないは大きく別れるよね。



…在りし日の玲奈とはしゃいで武将様に溺愛されての話しや承くんの情報交換、互いの中学時代、高校でのエピソードを語り合った日々を思い出して胸が抉られる。


私は泣きながら大回りして東光高校を一周回って家に戻った。

泣いた跡を隠す時間が必要だった。


何がなんでもこの秋で…

私の夢を叶える為に私はこの秋に全てを賭けることを誓った。


『…あの恥辱を使わざるを得ない…!』











☆ ☆ ☆

20分後紅緒邸。

玄関に入るなり私は崩れ落ちる…!


『…どうやら限界みたぃ…

…きゅう…。』


『…永遠?!どうしたの?

貴女また歩き過ぎたんでしょ!良い加減自分の体力把握して!』


…ママにめっちゃ怒られちゃった…!

危うく明日の修学旅行行けなくなるところだったよぉ…!



☆ ☆ ☆

永遠『虚弱虚弱ゥ!』


ってDI◯様風に強がる永遠を何処かで描きたいw

ダークとわんこの心境トレースに時間がかかった話でした。

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