第533話 切り替えと対面

こうして波瀾万丈な婚約破棄会見と松ちゃんBARが終了して俺はぼんやり家に帰る。

…スーツ堅苦しい…。

世のサラリーマンのおじさま達はこんなの着て毎日通勤電車乗って…頭が下がる…!

ターミナル駅から3駅、いつもの新川駅で降りてのんびり20分ほどかけて我が家へ帰る。


これで終わったんだよね…。

俺だけの力では決して無い。

けど誓いは果たせて、香椎玲奈を救えたんだよね?

憧れのあの娘の未来を…取り返したんだよね?


…松方家がどう動くかわかんないけど婚約者本人の松ちゃんが松方家、香椎家の前で正式に不貞しました!婚約破棄案件で慰謝料払います!って宣言したんだもん。


前に一回ひっくり返されたことあるからかなんか心配。

…でも他ならぬ松ちゃんが言ってくれた…BARでの一時だって…。

なんかふつふつとこれで終わりじゃね?って達成感みたいなアドレナリンがドクドク出てきてる。

※ここしばらくの無気力の反動でもあります。


駅前、いつものコンビニ、歩道橋を渡り…我が家が見えてきた。


『…っっし!!っっし!!』


よくわかんないテンション!!

やった!俺やった!

GW後からの試練がついに終わった!!


ひとりでガッツリとガッツポーズ!!

あ!

慌てて周囲を見渡しけど…良かった…撮影されていない…!

田中くんとか容赦なく撮るからね…。


俺は久しぶりに本当にリラックスした気持ちで我が家に帰る。

望に兄ちゃんご機嫌だね?おねむ直前ひーちゃんにつかれとれたの?って言われるほど好調!


日付が変わる24時。

部屋の向こう側の望は寝息をたてて眠ってる。


望『…にゅー…むにゅー…。』


静かな室内。

香椎さんからロインが来た。


…近々香椎家で玲奈さんの婚約解消記念ホームパーティーをするそうな。

ご都合いかが?って。


『…来週は忙しいのでご家族でどうぞ…っと。』


…いやほんと。

明日は体育祭だし、翌日代休、代休明け修学旅行で北海道!!

…なんで俺あんなに無気力だったのか…!

なんか…めっちゃ滾ってきた!!


明日の体育祭!なんかなすがままだった。

俺!全然ここまでの思い出無いし!

よし!明日から気合い入れて!


『気合い入れるためにも寝なきゃ!

青井や紅緒さんに怒られちゃうぜ!』


俺は忙しい来週を想像しながら眠った。

久しぶりにぐっすり寝た。

…翌日…香椎さんからのロインが大変なことになっていた。

☆ ☆ ☆

香椎玲奈ロイン


このホームパーティは婚約破棄に尽力してくれた承くんを労う為のパーティーなの!

主役が居ないと始まらないよ!



承くん?

もう寝ちゃったかな?

いつでも承くんに合わせるからね!


本当に寝ちゃった?

今日は大変だったねー?

私なんか興奮しちゃって寝れないよ!


夜分遅くにひとりで盛り上がってごめんなさい。


チラッってスタンプ



それを見て思った。


『…香椎さんも…だいぶストレスでやられてたんだなぁ。』


可哀想に。

でもこれで…もう大丈夫だよね!

そう思うと俺は妙にテンション上がって上がって!

久しぶりの絶好調!!


いざ体育祭!!




☆ ☆ ☆

青井『いやぁ勝った勝った!立花超燃えてたじゃん!

やっぱそうじゃなきゃ!』


『…漢は燃えてないとね。』


仙道『厨二っぽい…本当に絶好調?』


体育祭は俺たち赤の勝利!

紅緒さんも倒れそうなほど声を出し、

伊勢さんも衣装に応援に大暴れ!

※主にお胸が。

俺も全力!

仙道は夜は墓場で運動会!って感じだった!


努力!友情!勝利!!

少年漫画の王道よ…!


紅緒『楽しかったなぁ…すっごく楽しかった!

青春したよ!』


実行委員にしてクラス委員長の紅緒永遠中心にうちのクラスは団結!

紅緒さんが説く今しか無いこの時間と仲間で精一杯頑張って思い出つくろ!

って思想がクラスに行き渡っている。

巻き込み型クラス委員長な紅緒永遠はクラスメイトに囲まれて幸せそう!

クラスで最後に掛け声合わせて体育祭は無事最高に盛り上がって終わった。



☆ ☆ ☆

興奮冷めやらないとわんこは家寄ってって!っていつものメンバーにを声かける。

ちょうど見かけたあっちゃんも引っ張って。

(別クラスだけどあっちゃんも紅組だった。)


紅緒ママがお茶とお菓子出してくれてまた広間で輪になって今日の話。

紅緒さんはご満悦!

そん中、話題が俺が熱血してたって話になって…。


青井はニッコニコで、

青井『最近ぼんやりしてたじゃん?どうしたん?なんかいいことあった?』


伊勢さんも身を乗り出して、


伊勢『あーしも思った!今日超ハイテンションじゃん!って!』


仙道『いったいどうしたんだ?ショーン?』


『ショーン違うわ!』


ショーンって誰やねん。


紅緒さんがニマァって笑って、


紅緒『私の長年の恥辱が実を結んじゃった?』


『恥辱が実を結ぶって意味がまったくわからん。』


皆にいじられ俺はついつい言ってしまう。


『…実はさ…前に話した香椎さんの婚約問題が…!』


俺はかくかくしかじか!香椎玲奈の婚約問題が昨日の会見で一応の解決をしたことを皆に説明した!

色々ご迷惑をかけました!終わったよ!たぶん!


反応は思ってたのと違って皆んなバラバラ。


青井『さすが立花!漢だな!やったな!』

仙道『本当に解決出来たんだ?!立花頑張ったな。』

厚樹『…まじか!…すげぇな…!』


あっちゃん?!あっちゃんがデレた?!

まじあっちゃんがどうやったん?こないだの海でのアレあって許して貰ったどころか婚約解消してくれたん?!って食いつく食いつく!


男友達はなんと言うか予想通り喜んでくれて…!

…意外だったのが伊勢さん紅緒さん。


伊勢さんはおー!って言った後に考え込んで俯いて、


伊勢『おー!

…そっか…解決したんだ…。

香椎玲奈も喜んでるだろうね…。

…そっかぁ。』


伊勢さんと香椎さんは仲悪いまで行かないけど距離がある。

でも伊勢さんはいい娘で喜んでくれるとばかり思ってたから…なんか居心地悪いって思った。

…でももっとそれが顕著だったのが紅緒さんで…。


紅緒さんは話し聞くなり、


紅緒『…そうなんだ…。

玲奈は幸せだね…。

困った事が起こっても男の子が命かけて守ってくれて、

全て魔法みたいに解決してくれるんだ…。

…昔話のお姫様さまみたいだね…。』


紅緒さんらしく無い、無の表情と瞳…。

なんで?良かったね位言ってくれると思ってた。

紅緒さん…香椎さんと喧嘩するけど…仲良かったじゃない…?


俺の視線に気付いた紅緒さんは、


紅緒『…なんちゃって?

本当にお姫様かよ!

じゃ承くん悪い奴からお姫様さまを救ってお姫様と結婚!

めでたしめでたし?』


は?いや…結婚なんて…!


『松ちゃんは悪い奴じゃ無いよ。

香椎さんだってお姫様…みたいなもんだけども。

家族の為会社の為自分を…俺は尊敬する。』


紅緒『はいはい、良いね玲奈は。

羨ましくて羨ましくて…悔しい。』


紅緒さんの表情は見た事ない怒りとも悲しみとも…俺は何も言えなかった。

…紅緒さんはハッとした表情で、


紅緒『ごめん!承くんにいちゃもんつけてるわけじゃないの!

ごめんね、

…なんって言ったら…本当にごめんなさい…。』


場の空気が微妙になったのを伊勢さんと仙道が笑いに変える?

明日から北海道!でっかいどー?


ラーメン?海鮮?ジンギスカン?

なんでも美味いどー!


『『『ひゃっはー!!!』』』


そうだ!明日ゆっくり休んで!修学旅行じゃーん!!

明後日からの修学旅行の事をキャッキャと盛り上がって俺たちは解散した!

俺はもうさっきの微妙な空気なんて忘れて!

修学旅行の準備!!



…で、家に帰って香椎さんのロイン放っておいた事を思い出して謝り電話を入れたのよ…。

修学旅行が火曜から土曜。翌日日曜日の夜、香椎家にお邪魔することになったんだ。




☆ ☆ ☆

急な連絡  side香椎玲奈


体育祭で慌ただしいのはわかるけどずっと放置は酷く無い?

承くんの謝り電話に少し拗ねて見せた私。


うそうそ!いや、放置は寂しかったけどね。

でも!今はそれどころじゃ無いでしょ?


私と承くん史上初!

ついにふたりを邪魔するものが無い状態!


ふふー!ふふふー!!

嬉しいな♪嬉しいな♪

もう誰にも邪魔されないし、もう邪魔させない!


週末のホームパーティで…交際宣言…あるかも!

家族公認!うちの両親にあいさつ!

娘さんをください…!とか言われちゃったりして?


きゃー!きゃー!!

もう頭の中は真っピンク!!

いよいよか…!


私の頭の中完全に恋愛モード!

※婚約破棄会見からすっかり恋愛脳の香椎玲奈


承くんと電話で何か食べたいものあるかな?って聞いたの!

そしたらね?



承『…あのビーフシチュー食べたい…お願いしても良い?』


いいよ!もちろん良いよぅ!

わかってる!承くんわかってるよー!


あの日…私と承くんの距離を大きく縮めたあの日の料理。

初めて家族以外に食べて貰った私の手料理。

ちょっと煮込みすぎて具がほとんど溶けてしまった失敗作を承くんは美味しい美味しい!って3杯も食べてくれて…。


承『こんな美味しいの初めて食べた!』


て言ってくれて…


あの時嬉しくて嬉しくて。

食べっぷりも気持ちよくてきゅんってしたなぁ。

そんなことを思ってビーフシチューのレシピ検索してどんな感じで仕上げよう?って一日中思案していた月曜日。

学校、部活で19時。

家に帰る途中だったの。



…久しぶりに永遠からロインが来たのね。


『会えないかな?』

って。


春頃私に厳しいことを言った永遠と少し疎遠になっていた。

…このタイミングで?東光は明日から修学旅行のはず…?



今帰り途中って返す。

私が東光駅で降りる?永遠が新川駅に来る?

永遠は身体弱いから東光駅で会うことになった。


東光駅に降りるともう来てた。

遠目でわかる強い目、黒い光沢にある髪、肌理細かい真っ白な肌。

休みなはずだけど制服姿。


開口1番永遠は言った。



紅緒『…玲奈、婚約破棄出来て良かったね?』


聞いたんだろうね、承くんに。

紅緒永遠の表情は硬い。

あんなに表情豊かでニコニコ青春満喫!って信条の娘は気難しそうにすら見える表情で、


紅緒『…すっきりしたでしょ?ずーっと苦しかったよね?

気持ち悪いし、不愉快だったでしょ?』


『…うん…そうだね。

承くんに助けて貰った…。本当に感謝してる。』


言葉と裏腹に責められてるような気分。

口調が雰囲気がそう言ってる。

言葉だけで永遠は私に言いたい事があるんだってわかった。


体育祭の代休だからなのか高校生が居ない東光駅は寂しく暗い。

私は張り詰めた雰囲気と威圧的な紅緒永遠から目が離せなかったのね。

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