第531話 後継者

松方ママ『…先生、私も夫との離婚を請求します。

コレまでの不誠実な対応、浮気、愛人、別居歴も数年あります。

証拠も十二分にあります。』


松方弁護士『…えぇ?!』


風雲急を告げるホテルグランドの広間。

…夜景すっごく綺麗だなぁ…。

なんて現実逃避したくなるほど大人たちの大規模な小競り合いが続く。


待て考え直せ!散々考えた事です!

松方家はどうなって…やっぱり…今が…もう…!


大人たちのザワザワが止まらない。

そっちが気になるのに…横で美人お姉さんが俺に囁くんだよ…。



優奈『ね?承くん、どうする?

もう玲奈フリーだよ?

したって誰も文句言わないよ?

…玲奈ってね?着痩せする…いや実際細いからね?見た感じより脱がすとすっごいの!むしゃぶりつきたくなるような…!』


『ふぁっ?!』


あっちに気を取られてたらこっちのお姉さんなんて事を言い出すの?!


優奈『特にね!脚!美脚なんだけど…太ももえっっろ!

もっちりしてむっちり!

スラっと細いのに太もものとこだけ脂がのってムッチムチ!

特に鼠蹊部と…おしりから太もものラインこそ至高…!』


!!


すごい事を聞きつつ…向こうの玲奈さんが察してすごい視線…

…鼠蹊部…ってどこ?



☆ ☆ ☆

30分ほど続いた松方家の離婚騒動は平行線のまま。

2人でのの話し合いを望む松方パパにもう話すことは無いから弁護士と話せの一点張りのママ。


あのエネルギッシュな松方パパが初めて憔悴している顔を見た。


『…じゃあ…そうゆう事だな?』


後日の弁護士との話し合いを了承して苦々しくも疲弊した顔で松方パパが場を締める。

と思ったら、


新二『俺やっちゃいました?

…やっちゃったなら責任取らなきゃDAYONE?』


…今日の松ちゃん飛ばしてんなー。

その感想しか出ない。


新二『俺…責任取ってぇ、社長辞めまーす!

普通の男に戻ります。』


松方パパ『…お前は何を言っているんだ…?』

※二度目。



松ちゃんの衝撃発言で会場は再び静まりかえる。

はあ?!待て!待たない!良い機会だ!だったら俺が!いやワタクシが!


揉めに揉める松方家!

さらに…



新一『父さん、僕も以前のリストラ問題納得いっていません。

あんな理不尽で不当な解雇など!』


松方パパ『今はそれどころじゃないわい!

状況見ろ!』


新一さんは薄く笑うと、


新一『ですので、僕も退社させて貰います。

切った社員たちと新会社を立ち上げる予定です。

貴方が理不尽に全部署から2割ずつ人を削れ!なんてたわけた解雇をしたから全部署のスタッフが揃っていますからね。』


ほえー。サラリーマン金太◯でそんな話を見たような…!


新一『…そして、一連の不祥事、パワハラ、セクハラ、の被害者をまとめて松方グループに集団訴訟を起こします!』


相次ぐ2人の息子の会社辞める宣言とこれまでの悪事の集団訴訟問題!

一族は松方パパに付く者、良い機会だ!って独立に走る者、共通しているのはこの機会に自分の力を伸ばす!影響力を増やす!

って見え見えの欲、欲、欲。


以前松ちゃんが言ってた。

俺じゃなくて良い、やりがいなんか無い、誰がやっても一緒。

社長職に興味無いのは知ってた。

しかし利権の塊たるあの松方グループの後継者の地位を捨てるのか…。




そもそも先代が亡くなった時…!遺産の分配だって…!俺だって松方一族だぞ!この責任は誰が取る?代表退け!ワシはお前の味方だ!ワタクシだってもっと欲しい!金出せ!


良い年した大人たちが罵りあい、貶し合い、一部で殴り合いまで始めた松方家。一方香椎家は…。



香椎パパ『…これで玲奈に…。玲奈に…。』

香椎ママ『…あなた…お疲れ様。』

優奈『がんばれ!おじさま!』


パパは感無量で泣きそう。ママはそんなパパに寄り添う。優奈さんは乱闘を応援している。


玲奈『…承くん。』


横に玲奈さんが移動してきた。

ドレス姿が大層可憐。可愛いよなぁ…。



玲奈『…大変なことになっちゃったね。』


『…本当だよね。

松ちゃんが言ってたけど松方家って家の力を保つ為後継者がほぼ総取りみたいなシステムらしくて…あの辺の大伯父、大叔母、叔父、従兄弟とか不満で不満で仕方なかったらしいよ?』


玲奈『…それで…。』


『お爺さん?が亡くなった時も養子縁組してた松ちゃんにだいしゅうそうぞく?』


玲奈『代襲相続だね…。』


『そうそう、それそれ!パパさんと松ちゃんに集中して遺産が行ったけどパパさんの強権でゴリゴリ押し切ったって。

今もパパさんから贈与税のかからないギリギリの月百万円位は自動で振り込まれているらしいよ。』


玲奈『…ふーん。

…ね?承くん、これで私の婚約問題は終わったのかな?』


『…多分ね?手続きとかよくわかんないけど。』


玲奈『…ね?もう婚約解消が成ったなら…私はもう…。』


素顔も綺麗だけどバッチリ目のメイク玲奈さんは派手可愛い。

リップ塗ったツヤツヤ唇とキラキラな瞳と鎖骨周りから目が離せない…!


しかし騒がしき会場に玲奈さんがしっとり話してる内容があまり入ってこない…!

なんか大事なことを玲奈さんが言うって瞬間…!


香椎パパ『あ!!

うちの株!香椎商事の株の流れ!』


パパさんが思い出した様に渦中の松方パパの元へ向かい襟元を締め上げて、


香椎パパ『うちの株!松方先輩!婚約関係も終了して!

もう、うちの株なんて必要無いだろ!

適正価格に色つけて買ってやる!

どうせこの惨状じゃお金必要だろ!』


パパさんはこの機会に自社株を買い取る機会と取った。

なるほど…こう揉めててんやわんやの状態を逃さず…

さすが玲奈さんのパパさん…理にかなった…相手側も今は資金が必要だもんねきっと乗ってくる…。



松方パパはポカンとした顔で、


松方パパ『…?

なんのことだ?』


ポカン顔松ちゃんとそっくり…親子だなぁ。

香椎パパさんは激昂しながら、


香椎パパ『しらばっくれるなよ先輩!

うちの株!集めてたろ!

さっきだって!…なんのことかな?って含み笑いを…!』


松方『…いや、ワシほんとに知らんし?

だからなんのことかな?って。』


この2時間のジェットコースターのような展開に素直に答える松方パパ。

…ちょっと松ちゃんぽい。


香椎パパ『はあ?はあぁ?

じゃ誰が…?!』


長らくの経営難状態に娘の婚約問題と少し憔悴している細マッチョイケオジ。

絵になる…。

そんな事を思っていると…俺の隣から声がした…。

優奈さんが小さく手を挙げながら、


優奈『…パパ…それわたし…。』



☆ ☆ ☆

優奈『だって!絶対松方グループが手を伸ばしてくると思ったのよ!

ウチ(優奈の会社アンネス)で確保した方が安全かつ利回りだって美味しいし!』


香椎パパ『優奈?パパは優奈の考えている事がわかんない…!』

香椎ママ『…会社を守る為?』


パパは呆れ顔、ママは優奈さんの話を詳しくするよう促す。

玲奈さんも目をまんまるにして黙って聞いてる。


優奈『創業者一族っていうの?うちの大伯父さまやおじいさんの兄弟の家へ足繁くお家回って口説き落として回ったの!

少し前は大幅減収だったし、松方グループに狙われるからって頭下げて可愛い可愛い優奈ちゃんがキラキラお目目で健気にお願いしたら皆んな快く譲ってくれたよ!

ちゃんとお金払ったし!』


行動力パネェ…!

優奈さんは玲奈さんに似た真面目な顔で、


優奈『おじいちゃんが作って、パパが育てて、ママが力をつけさせた。

我が家の象徴で誇り。

そのピンチに玲奈は自身を賭けて、私も多少回復に寄与したって思ってる。

でも、私も我が家の誇りを背負いたい。

パパの様にママの様に玲奈の様に。』


こっちはこっちで急展開!

優奈さんから目が離せない!

優奈さんは家族を順に見つめながら話しを続ける、


優奈『…昔、パパがママと晩酌しながらこんなことを言った。

いつか…香椎商事を優奈か玲奈のどっちかがお婿さん貰ってその人が継いでくれたら嬉しいなぁって。覚えてる?』


パパさんとママさんは顔を見合わせて頷く。

優奈さんは目を瞑って深呼吸すると、


優奈『…お婿さんじゃ無い。

私が継ぐ。

うちの一族の誇りを。ダメかな?』


玲奈はお嫁に行っちゃうでしょ♪

イタズラっぽく優奈さんは微笑んだ。


優奈『だから、私が大学卒業したら大株主権限で私を捩じ込んで役員待遇で外部から出向って形である程度の権限で…。』


具体的な事を説明し出す娘にパパが待ったをかける。

改めて大変さを諸々を犠牲にしなきゃいけない商売の辛さを語る。

それも踏まえた上での今回の話だからって優奈さんは言い切った。


パパさんはまだ困ってる顔で、


パパ『…もし、パパがダメだって言ったら?』


優奈さんはふふー!って聞き覚えある笑い声をあげて言った。


優奈『…その時はウチが香椎商事を買収する!』


…玲奈さんと同等…爆発力で言えば間違いなく上の気まぐれの天才が遂に本気で向き合った夢。

こわ!ダメなら買収するって!


ママ『…優奈は言い出したら聞かないですよ?

…私に似て。

いいわ、パパだと甘くなっちゃうからママが叩き込んであげる♪』


優奈さんは嫌な顔しながらも力強く頷いた。

玲奈さんは涙目でそれを見つめていた。


奇しくもこの日、松方家は後継者が家業を放棄して香椎家は後継者が名乗りを挙げた。そのどちらもが考えに考えて出した結論。

人間って難しいよね…。


こうして波乱の会合が終わる…。

松方家は争う様に罵り合いながら出て行った。

香椎家は家族で寄り添う様に微笑み合いながら出て行った。


それを見届けて俺は松ちゃん指定の最上階のバーへ向かった。

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