第517話 命の重み

ぼちゃん!!


大きな水音に注意が動く。

今コンクリートブロックには松ちゃんしか居ない…。

松ちゃんはフラフラコンクリートブロックを沖の方へ歩いていたはず?

あんな大きい水音…大きなクーラーボックス以外では起きない大きな音…?



!!!



松ちゃん!

あれ松ちゃんだ!

松ちゃん泳げないでしょ!



俺は考えるより!走り出す!


『宏介!玲奈さん!!』


宏介『…え?…!』

玲奈『…!』


宏介も玲奈さんも俺見てすぐわかってくれた!

…よね?


ひーちゃんの横にあった小さな浮き輪を拾い、

コンクリートブロックへ飛び上がり!俺荷物の救命胴衣を掴んで駆ける!


『宏介!浮き輪!俺に…!』


宏介『あぁ!』


宏介もすぐ動いてくれてた!さすが!

でも玲奈さんがすごい。


玲奈『承くん!戻れないよね(コンクリートブロックは高いから)?!

こっち(砂浜)へ引っ張って!』


玲奈さんは号令をかけて動いてる!

俺は走る!

砂浜から6、70mほどなんだろうか?

長く感じる、急げ!


ほぼコンクリートブロックから2mほどの場所、足はまず海底に届かない。

掴まれる場所も無い、まして泳げない、着衣のまま!

最悪だろ!

後から思えば最悪なことをしようとした俺が言うことじゃ無いってわかってるけどその時は夢中!



『松ちゃん!』


俺は息を大きく吸い込んで飛び込む!


『しょ!ごぼ!ぐぼ!』


パニック状態の松ちゃんは俺にしがみつく!

水中に引き摺り込まれるっ!


『松ちゃ!だいじょ!おちつい…!』

新二『…!…!…!』


パニック状態の大の大人!まして自分よりウェイトが重い男!

俺は懸命に大丈夫!って伝える、伝わってるんだろうか?

松ちゃんは依然大暴れ!

なんとか救命胴衣を松ちゃんに引っ掛けて、ひーちゃん浮き輪にしがみつくけどパニック松ちゃんは暴れて大変!重い!


新二『がば!あし!』


足を攣ってたんだね…この時はわからない。

俺は必死に松ちゃんに大丈夫!もう大丈夫!って言いながら救命胴衣着せた(羽織っただけ)って教えるけど大暴れ!

俺にしがみついてバタバタ!俺も必死で立ち泳ぎしてるけどひーちゃん浮き輪無きゃ共倒れだったね…。

このままじゃ!俺も力尽きる!


客観的に見たらきっとふたりで溺れてるようにしか見えなかっただろう。


それが1分なのかもっとなのかわからない。

永遠の様に感じた『死』の気配。


宏介『承!』


宏介ェ!

宏介が狙い定めて浮き輪を投げてくれる!

ナイス!さすが北翔のポイントガード!


浮き輪3つになり、松ちゃんは宏介の投げた浮き輪に掴まりやっと人心地だけど。


『ぎぼ!ぶふぇ…!はぁはぁはぁ!』


水を飲んだのか?まだパニックなのか?

松ちゃんは目に見えて過呼吸で顔色もひどい。


新二『…しょう…ごぼ…はあ!はあ!

…あ…。』


『松ちゃん?松ちゃん?!』


松ちゃん…?死んだ?

まさか…?嘘だよね?

…俺が殺したようなもんだ…いや、俺が殺した。

俺が連れ出さなければ松ちゃんは海になんて近寄らない。


思考はストップして、どうして良いかわかんない…。


?『…!』


?『…!!』


誰が叫んでる…。


玲奈『承くん!きっと気絶!

大丈夫だから!急いでこっち連れて来て!!』


『はっ!』


俺は我に帰る!


玲奈『水を飲んじゃったのと!パニックで!

きっと意識失っただけ!』


『息してないんだよ!松ちゃん!』


泣きそうな俺は縋る様に玲奈さんに叫ぶ!

玲奈さんは大丈夫!って叫んで!


玲奈『今なら引っ張って来れるでしょ!

今は気絶してるだけ!早く!

ここから足が着くよ!』


気付けば玲奈さんは皆んなを総動員して足が届くギリギリまで来てくれてる。

20m位で足が着く!

多分優奈さんから取り上げたビーチパラソルを棒の様に伸ばして、


青井『立花早く掴まれ!』

田中『承くん!』


洋介くんも優奈さんも後ろで準備してるのが見える!


俺は全力で泳ぐ!

あそこまで行けば頼りになる玲奈さんが、仲間たちがいる!

砂浜まで曳航していく困難を考えてた俺からしたらゴールが見えてるってだけでもう!


伸ばしたパラソルの先端を掴むと青井と田中くんが強い力で引いてくれる…!

すすー!って引っ張られて…足が着く…着くよ!


青井『立花ぁ!さすが!後は任せろ!田中支えて!』

田中『わかった!』


青井が背負う様に松ちゃんを乗せると田中くんが支えながら砂浜へ急ぎ移動する。

けど膝が笑ってる、くたってバランスを崩す…!


むにゅ!


なんか幸せな感触がする…!


玲奈『承くん!承くん承くん承くん!

また無茶してぇ!!』


『くんしょう?』


泣き顔玲奈さん…ああ、頭回らない…!

泣き顔玲奈さんは可愛くて素敵…


『…俺は大丈夫…松ちゃんを頼むよ玲奈さん。』


もう、足は着くしね。


玲奈『…あとでたっぷりお説教だからね?』


…俺に抱きついたまま…

玲奈さんの顔が近づいてきて…


むちゅ…。


頬に暖かい柔らかさを感じる…。


ぱっ…。


唇が頬から離れる感触で俺は我にかえる。

俺?!今?!

水着玲奈さんに抱きつかれてほっぺにちゅー!して貰った?!

何故朦朧としていたのか…!


気付けば玲奈さんは凄い勢いで泳ぎ、水深が浅くなると水を掻き分けダッシュして行った。


玲奈さんはいつだって俺を酔わせるし気付けまで出来る完璧女子なんだよ。

そう思い疲労感を引き摺りながら俺は砂浜へゆっくり歩いて行った。

まだ終わった訳では無い。



☆ ☆ ☆


新二『ぴゅ!ぴゅー!』


ぴゅって言ってる訳では無い。

玲奈さんが胸とお腹を押すたびに、松ちゃんの口からコントみたいに噴水の様に噴き出る海水。

松ちゃんに玲奈さんが馬乗り…うぅ…脳が破壊される…!

でぶのおっさんに綺麗な水着の女の子が息はぁはぁ言わせて馬乗り…これなんてエロいDVD?


玲奈『心臓マッサージだったらね?

平らな場所に仰向けに寝かせ、救助者はその横わきに両膝立ちの姿勢を取る。

胸部の下半分に片方の手のひらの手首に近い部分を当て、その上にもう一方の手のひらを重ねる。ひじを伸ばし、成人の場合は胸全体が3.5~5cm沈むように胸骨を毎分100回の速さで圧迫する。


小児の場合は、片方の手のひらの付け根で、胸骨の下半分の部位を胸の厚さのおおよそ3分の1くぼむまで毎分約100回の速さで圧迫する。


乳児の場合は、中指と薬指の2本で、胸骨の下半分の部位を胸の厚さのおおよそ3分の1くぼむまで毎分少なくとも100回(新生児の場合は毎分約120回)の速さで圧迫する。』


冷静な様に見えて玲奈さんも動揺してるのかどこかのマニュアルを朗読してるような長台詞。心臓マッサージじゃ無くて今は飲んじゃった水を吐き出させて気道を確保かな?!


優奈『…まだ息はして無いね…?』


玲奈さんは真っ青な顔色で悲壮な表情で搾り出す様に、


玲奈『…人工呼吸するよ…!』


小幡『ち…ちょっと玲奈?!』


小幡さんがあわてて止めるけど、玲奈さんは泣きそうな顔で、


玲奈『人の命がかかってるもん…大丈夫。』


優奈『大丈夫じゃ無いでしょ?!』


玲奈『やり方知ってるの私だけでしょ?

私前に本で読んだだけだから上手くやれるかわかんないけど…!』


『『『…。』』』


玲奈さんが?松ちゃんと?!

人工呼吸…マウストゥマウスで…マウスってネズミだっけ?

※錯乱中。


俺は松ちゃんの側に跪く。


ぶちゅう!からのぷふー!!

※マウストゥマウスからの息の吹き込み。


松ちゃんはごぼって音を立てて海水を少し戻した。


『で?玲奈さんどんな感じでやればいい?』


俺は玲奈さんの方を向く。

玲奈さんは俺の姿を見て冷静になったみたいで申し訳無さそうに、


玲奈『…ごめん、承くん。

喉に指入れて刺激すれば水吐いて意識取り戻すかも…。』


…これも十分に不快…。

俺は恐る恐る口内に手を突っ込むと…。



新二『うぉえ!!ごぼ!ごぼ!ごぱぁ!!』

※マーライオン状態。


背中をトントンって叩き、嘔吐を促す。



新二『ゴボぅぇ!!

…はぁはぁ…死ぬかと思った…。』


…良かった…。

俺が奪おうとした命。

松ちゃんは泣きながら俺に感謝してくれたけど…当たり前のことをしただけ。そう伝えた。

とにかく、松ちゃんは助かった。


☆ ☆ ☆

口唇 side香椎玲奈


その光景はゆっくりに見えた…


承くんが新二くんの頭横に跪き、身を屈めて…



唇と唇が…

アッーーー!!



脳が破壊されちゃうよぉ…!!

私に目の前で…承くんが…新二くんと…!

…魂が抜けそうだよ…!

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