第515話 詰められinビーチ

宏介『…昨晩さ、望から連絡があってね…?

『宏介くん聞いて!兄ちゃんがおかしいの!』って。』


俺はポーカーフェイスで、


『…馬鹿なことを…。』


すっとぼける。

…向こうでは青井に田中くんあっちゃん。宏介の兄貴の洋介さんまで居る!

洋介さん運転でここまで来たらしい…。

そして、優奈さんが自前のパラソルの下でビーチソファーを2個広げて寛いでいる…。

同行者は小幡さんと望…ひーちゃん…。

なにこれ?

松ちゃんも驚いている。驚く松ちゃんに優奈さんが艶やかに微笑みかけて、


優奈『おかまいなくー♪』


優奈さんは寛ぎ、洋介さんは所在無さげに砂浜に座っていた。

青井達と小幡さんはビーチバレーを初めて、のぞひーは砂浜でお城を作り出した。


…俺は隔離されてる。

少し離れたテトラポッドの隙間で親友と憧れの娘に詰められている…。

砂浜に正座させられて…。

松ちゃんは気にせず沖の方へコンクリートブロックを歩いて行く。

真っ直ぐ平坦、基本事故は無いだろう。

松ちゃんがひとりこっちを遠目で窺いながら釣り準備をしているのが見える。



宏介は無表情に、


宏介『…強く生きろよ?って何?』


昨日の夜の言葉?


『…。』


黙秘…!

黙ってる俺を見て宏介は無表情に淡々と、

宏介『…えーと望のロインによると、

『可愛いな…。綺麗で可愛くなった…』

『おやすみ、俺のたからもの…。』などなど…』



『ぎゃああぁ!!やめて!もうやめて宏介!』


顔が熱くなる!

聞いてたのっ?!起きてたのか望?!

兄ちゃん…死んじゃうよぉ…。

妹から親友に俺の極限状態を暴露された羞恥!

言い訳…思いつかない…!


宏介『望におかしいって聞いてなんか嫌な感じがして来たけど…横顔見て完全にこれはやらかす顔だわってわかった。

何するかまではわかんないけど…絶対ロクでも無いこと。

…検事から以上。』


それまで黙ってた香椎さん。

香椎さん白にピンクをあしらったビキニ…!

…しゅごい。

可愛いとセクシーを両立しているのだが腰回りは同色のパレオを巻きつけて露出を抑えて品がある感じ。

綺麗な太ももと脚線美はチラッとしか見えない…だがそれがいい!


『…香椎さん、日焼けは大丈夫?』


話を逸らそうと俺は声をかける。

パレオで下半身はカバー出来るけど…胸…いや上半身の日焼けが心配…。


玲奈『…そうなんだよね…

…じゃあ…承くんパーカー貸してぼっしゅう。』


貸してって聞こえたけど…没収って言われた気がする…。

…俺そんな悪いことした?

でも袖から白いパーカーを引きぬかれる事に抵抗もせず俺のサマーパーカーは玲奈さんが羽織ってる…。

匂い気にならない?…やっぱり確認してる…


俺体臭キツいんかな…。

玲奈さんはくんくんってした後にニヤッって笑った。

でも俺と目が合うと表情がみるみる無くなって…そして玲奈さんの目が『無』になった。

こわ…こっわ!


玲奈『…私もね?半信半疑で来たんだよ…。

望ちゃんからおかしいってロイン貰って…でもシスコンだから…

まぁそういう事もあるんじゃ無い?って。』


『…。』

(…俺、シスコンだとおもわれてるんだ…。)


事実とは言え、長年片思いの憧れの娘に言われるとさすがにへこむ。


玲奈『…でも顔見てわかった。

…中学生の頃の体育祭や文化祭…イジメ解決のケンカよりもっとひどい何かしようとしてるよね?

…私のせい?私の為だよね?

何をしようとしていたの…?』


…怖い…歯がカタカタ言いそうで食いしばる。

なに…わかりはしまい…。

今回は断念…でも形を変えて…今度は絶対バレないように…。


宏介『…今回は諦めるけどまた違う手段でって顔してる。』


『?!』


幼馴染で親友!

わかんのかい!


俺は宏介から顔を背ける。

ぐるん!

俺は首を回されて玲奈さん正面を向かされる!

強い力!玲奈さんは力が強い…。


玲奈さんは大きな瞳で俺をじーって見つめる。

いつもはドキドキする魅力過積載な瞳が俺の奥まで見透かすように見つめる。


玲奈『…今回は何をしようとしたのかな?

言えない?言えないようなこと?』


こっわ!玲奈さん瞳孔開きっぱなし!

思わず玲奈さんから目を逸らす!


玲奈『…海…水…ふたり…家関係、婚姻、解決…策…ロクでも無いこと。

…承くんがしそうなこと…。

…宏介くん、何かそんな辺りでそんな武将の話し無いかな?かな?』


…ひぐらしのなくころみたい…!

まさにひぐらしが鳴き始める夏の終わり。

こっわ!なんでわかんの?


『…まさか…。』


一応否定してみるけど…玲奈さんは激昂はしなかった…良かった…。


宏介『…宇佐美定満。』


『…っ!』


ビクンと身体が跳ねた。

ホントになんでわかんの?!サトリなの?それとも俺がサトラレ?!

宏介が直接的な俺のアイディア元に玲奈さんの出した断片から辿りついた。

玲奈さんが説明を求め、宏介がかいつまんで説明をする…!


☆ ☆ ☆

宇佐美定満…上杉二十五将や越後十七将にも数えられている武将。軍記物だと参謀役。

越後守護である越後上杉家に仕え、勢力を強めていた守護代長尾為景(謙信の父)と戦ったが降伏。為景の死後はその嫡男の晴景に仕え、晴景が治世に失敗して弟の景虎(後の上杉謙信)が台頭するとそちらに仕えた。景虎に対して反抗した長尾政景を屈服させるのに功があったという。

長尾政景は長尾一門でありながら景虎に反旗を翻し、それだけに優れた能力も持ち降ってからも家中でも危険な存在と思われていた。

1564年(永禄7年)に、その政景との船遊び中に溺死。

一説にはこの死は定満が上杉家の災いの種となる可能性のある政景を除くため、我が身を差し出した結果であるという。

またこの時父を失った政景の子を不憫に思い謙信が養子に迎えたのが二代目の景勝(母が謙信の姉)

船遊び中に2人揃って溺死って例無いケースで真相は謎。


☆ ☆ ☆

玲奈さんは俺の目を覗き込む。


玲奈『有罪《ギルティ。》』


無理だ…無理だったんだ!

俺を熟知してる宏介となんでもわかっちゃう完璧女子の玲奈さんにしらを切るなんて!

…あと弁護士志望なんだから毎回断罪しないで弁護して欲しい…。



玲奈『…なんで…。』


…君の為って言ったら…玲奈さんが悲しむ…。

俺が好きでした事!…まだしてないか。


宏介は呆れたって顔で、


宏介『…そこまで…。』


香椎さんが泣きそうな顔で、


玲奈『…承くん、そんなのダメ、絶対しちゃいけないよ…。』


それを遮るように宏介が俺の肩を乱暴に押す!


宏介『だからって…こんな真似…!

家族が…望やひーちゃんの気持ち考えろよ!』


玲奈さんが我に帰った顔で、


玲奈『そうだよ!お父さん、お母さん!おじいちゃんおばあちゃん!

皆んな悲しんで…立花家立ち直れないよ!』


宏介『家族だけじゃ無い、俺だって、青井だって厚樹だって田中くんだって!

仙道くんや紅緒さん、伊勢さん!皆んなどんだけショックうけるか…!』


…ちっ…わかってるよ!


『…これしか無かったんだよ…

俺にはコレしか賭けるものが無い。』


ふたりが息を呑む。


宏介はキレている。玲奈さんは呆然としている。

俺もどうしていいか…でも少し苛立っていた…。


玲奈さんが涙をぽろっと溢しながら、


玲奈『…承くん…わたし…。』


両手を胸の前できゅって握って涙する香椎玲奈は綺麗で儚い。

…でもそんな顔して欲しくない。

俺が好きでしたこと、玲奈さんに知られたく無かった…玲奈さんのせいでは無いんだよ。

…それが口で説明し難い。


宏介『…香椎さんが悪い訳じゃ無い。

香椎さんが仕向けた訳でも無ければ、このバカが勝手にイレ込んで暴走してるだけなのはわかってる…。』


宏介が暗い目をして言った。

俺は何も言えない。


宏介『…でもさ…承に頼んだら、承に火が付いたら…やらかすって思わなかった?香椎さん?』


宏介?なんで?

宏介は香椎さんに向き直り言葉を続ける。


宏介『…承はバカだよ。

真面目で一途で真っ直ぐ最短距離で突き抜けるタイプのバカ。

それが魅力だけど…そこが危うい。

香椎さんは承を知ってるよね?

こうなるってわからなかった?想像しなかった?』


言葉も無い俺たち。

宏介は珍しく激昂しながら、


宏介『…承が今回のことで俺にすぐに相談に来て、最初に出した案知ってる?

『殺害』だったんだよ?

俺は必死で止めた。承も望とひーちゃんに人殺し兄が居るわけには…って断念してくれた…そう思ってた。

それがこのザマ。』


宏介?

宏介がキレ散らかして香椎さんを攻撃対象にしてる…?


『宏介?何言ってるんだよ…?』


宏介『承はさ…あの日呪われた。

香椎玲奈に魂を奪われて…運命の女ファムファタールってヤツだろ。

好きになると身を滅ぼしちゃう悪女。

承にとって…香椎さんは悪女でしょ?』


『宏介!』


俺は立ち上がり、宏介のシャツを掴み上げる!


『お前何言ってんだよ!』


宏介『お前こそ!好きな娘の為って簡単に死のうとするなよ!

女の子なんて星の数ほど居るだろ!』


『宏介!』


宏介は吐き捨てる様に玲奈さんに向かって、


宏介『…マジでさ、香椎さんに関わると承は毎回無茶をする。

イジメ、体育祭、文化祭…そして今回。

自分のリスクや不利益は厭わずに君の事だけに全てを賭けるんだよ。』


『宏介!』


俺は宏介の左頬を殴りつけた!

咄嗟だった。宏介の一言一言に玲奈さんが傷付くのが見えたら手が出た。

俺が宏介を?


宏介『…!』


ぐらっとした宏介は踏みとどまり…俺の左頬を打ち抜いた…!


望『だめ!!ひーちゃん見てる!』


ぴた!!って俺と宏介は動きを止めた。


ひー『…にいちゃん?こうすけくん?』


ひーちゃんがこっちに歩いてくる。

ひーちゃんのくりくりおめめダムの水位がみるみる…!


宏介『…なーんちゃって…?』

『…俺と宏介は親友…なかよし…。』


微妙なバランスの緊張感の中、ひーちゃんはほっとした様に砂の城へ戻って行った…。


俺と宏介はにこやかに笑い合いながらもお互いに振り上げた拳の落とし所が見つからない。


居心地悪い時間が過ぎる…。


その時だった…!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る