第514話 死地
…海に行くのにこんなに気分の乗らないのは産まれて初めてなわけで…。
新二『でっかいアジとかサバとか釣れるかな?めっちゃ引き強いんだろ?
楽しみだわぁ♪』
何が楽しみなもんか。
俺が釣具屋さんのおすすめ釣り場の釣れたって情報を適当に膨らませた話で松ちゃんは楽しそう。
新二『承?』
『…興奮して寝れなくって…楽しみ!』
新二『…なんか顔やつれてない?着くまで寝ててもいいぞ?』
…思えば…松ちゃん可哀想…俺が被害者面するのも違う。
俺は精一杯盛り上げた!
そしていよいよ死地に到着…ここが俺の地獄の3丁目…。
こうして俺たちは目的地である港近くの防波堤へ到着した。
☆ ☆ ☆
港近くの防波堤。
家から30分はかからないここが立花家御用達の海水浴場でもある。
砂浜から沖まで100mほどまっすぐコンクリートブロックが伸びていて、先端にテトラポッドで護岸の為に作られたスペース。
こんなコンクリートブロックが港と浜守る為に2、300m間隔で何箇所かあってコンクリートブロックとコンクリートブロックの間はもうプライベートビーチみたいなわけ。
この海岸線は全部砂浜で大体遠浅だから海水浴場は死ぬほどある。
ただ港周りは浅い所から急に深くなっているから普通の砂浜の方が人気なんだけどここだとブロックで沖近くまで行けるから父さんは釣り、母さんは砂浜、子供たちは海で遊び飽きたり疲れたら釣りって言う二度美味しい遊び方が定番!
俺も望も忙しくって今年は来て無いけど。
…で。
ここが…俺の終着地点。
松ちゃんは予想通り救命胴衣🛟を持って来ていない…。
しおりも忘れたと…。
…松ちゃん家には俺がマーキングしているしおりにバッチリ救命胴衣!絶対!ってアピールしてある。
…持って来ないの…自己責任だよねぇ…。もし事故後に調べたらわかること。アリバイにもなるだろう。
俺は救命胴衣持ってる。…もちろん外して…一緒に逝く訳だけども。
天気は良くて、空は青く波も穏やか。
風もあって夏の終わりだけど暑い割に爽やか。
…死ぬには良い日だろ。
予定としては、釣りをする為荷物下ろしてコンクリートブロックへ上げる。
沖合まで運べば釣り開始。
…ドボン!!
先端のテトラポッドで海に落ちるとテトラポッドによじ登れるけどコンクリートブロックは水面から2、3mは高い為まず這い上がれない。
ある程度沖まで来て落ちれば水深は深くとても生還出来るわけがない。
…我ながら酷い事を考える…悪辣。
浅い所じゃ魚は釣れない。
でもテトラポッドまで行くとパラソルやチェアが使えない。
松ちゃんはそれは嫌がるはず。
当然テトラポッドより浜側の深い所でパラソルさしてチェアに腰掛け、イヤホンでなんか聴きながらコンビニで買ったおやつやホットスナック類を齧りながらの楽しい夏の釣り…って感じ。
先日、港保護と漁業の方策で県がクラゲを一斉駆除してるからあまり深いとこ行かなければこの時期でもクラゲは少ない。
だから海遊びも出来るけど…松ちゃんはしないだろうな。
一応俺も松ちゃんも水着着用で来てる。
多かれ少なかれ濡れるかも知れないし。
松ちゃんはゆったりしたアロハシャツにダボっとしたハーフパンツにサンダル。サングラスにツバの大きな日よけ帽子。
俺は白い長袖サマーパーカー(新品)に迷彩柄のカーゴパンツ(新品)出かけ際にひーちゃんがかぶせてくれた麦わら帽。
…何でも良いって思ったけど…最期だから綺麗な服着てた方が良いよねって思って買ったものだった。
中に海パン、青に紺と白のラインの入ったやつ。
砂浜に車を入れる。
コレも便利なの!車から浜まで距離あると荷物面倒!
まだ暑い。8月最終日とは言え、客はまばらで最低でも3個先のブロックまで他に人は居ない。
…わかっては居たけどしめしめ。
新二『おやつは食うけど…チェア、パラソル、クーラーケース、釣具…結構荷物になるな?』
『…松ちゃんが贅沢するからでしょ?』
釣りするのに快適性を求めるか?ってほど松ちゃんは釣りにセレブさを持ち込む。なんせクーラーボックスにアイスまで入っているんだ。
クーラーボックスって釣った魚を持って帰る為のモノだと思うじゃない?クーラーボックス2個だからね!しかも!
車の外に諸々運び出して…
これから護岸用のテトラポッドの隙間を超えてコンクリートブロックへ運び出す。
コンクリートブロックも最初は浜と同じ高さ。コレが最初から高かったら流石にキツすぎる!
パラソル、チェア2つ、クーラーボックス(大)2つ、釣具2人分、釣りの餌に仕掛け、松ちゃんのコンビニ袋(中)2つ、俺のコンビニ袋(大)1つ、タオルとか雑品の入ったリュック(各自)、水(2リットル)2個。
水は手洗いや洗浄などに使うやつ。
松ちゃんのパラソル周り無ければかなり荷物減らせるのに…
…もうじき快適さとか気にしなくっても良くなるんだから…言えないけど。
ふー。
ため息吐くけど…もうすぐ終わるから…疲れようがキツかろうが何でもない。
むしろ身体を使うことが心地よく感じる。
暑っつ!もう夏が終わるのに日差しは暑く身体を動かすとすぐに汗が出る。
テトラポッドの隙間縫って運ぶのがめんどう。
狭いとこ通すからね。
松ちゃんは太ってるから一回目で、
新二『…俺この作業向かない…。』
『…松ちゃんが持ち込んだんだよね?』
松ちゃんのガタイだとしんどいのはわかるけど…身体硬すぎない?
俺が2往復する間に1往復!しかも荷物小さい!
それで松ちゃんはテトラポッドの向こうに居る。
『…自分のだろ…まぁ最期だし…せめて快適に…。』
暑い中肉体労働中、俺は油断していた。
ぽんって後から肩を叩かれてビクン!って身体が跳ね上がる!
??『…大変そうだね、手伝おうか?』
『…大丈夫っす…って宏介?』
そこには宏介が居た…。
俺より小柄だけど色白なイケメンの…親友。
目を細めて笑ってる…顔だけは。
宏介『…なぁ承?最期ってどういう意味?』
『…ちょっと何言ってるかわからない。』
俺は目を逸らすけど宏介が目で俺を促す。
なんだよ…
玲奈さん?!
昨日会いたくて逢いたくて泣いた憧れの娘が向こうからやって来た…。
大きい帽子に水色のサマーワンピに白いサンダル。
こんな時だけど玲奈さんは綺麗で可愛らしくって俺は目を離せなかった。
…玲奈さんは大変に珍しい事だけど…至って無表情だった…。
彼女の名誉の為に言うけど玲奈さんはコミュ力モンスターで社交的。
人に不機嫌なとこなど基本見せ無いお嬢さん。
…あの表情の玲奈さんを見るのは…大概俺が…やらかした時だけ!
…言葉は出ないけど…変な汗が出て止まらない…!
俺は宏介と玲奈さんに両脇を抱えられて…連行された…。
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