第507話 合わせる顔
『お疲れさま!
…あの後…どうだった?』
香椎さんの優しい声はおずおずと…でも知りたい!どうかな?上手くいったかな?
そんな副音声が聞こえてきそうな綺麗で通る声。
本当に美味しかったし、鶴田さんもびっくりしてた!なんて教えてくれつつも…当然興味あるのは…。
『…それで…『美味しい』って言ってくれたのかな?』
電話の向うの玲奈さん。
きっと期待に胸膨らませて…。
結果を告げること想像するだけで…冷や汗止まらん…。
俺は絞り出す様に、
『…あの後、疲労と疲れピークになった松ちゃんに景虎さんがコレで上がり!って言って…
賄いの『極みハンバーグカレー雪月花』を食べさせたんだ。
…そしたら『美味い』って…。』
!!!
玲奈さんの声にならない悲鳴?
高すぎて聞き取れない声。
玲奈『承くん!すごい!すごいよ!
ちょっと待ってて!すぐ行く!
話し聞かせて?きゃー♪』
『香椎さん?』
ぶつん。
…最悪だ…言いにくくって…結果を言う前の説明で…香椎さん勝負に勝って婚約破棄が成ったと勘違いしてる…
俺、最低だ…。
期待させて、勝負には勝ったけど約束反故にされましたって…言わなきゃいけない…。
ずーんって思い気持ちで俯く…って!
俯いてる場合じゃ無いでしょ!
香椎さんが来ちゃう!
成功したならまだしも…こんな結果で我が家まで足を運ばせるわけには…!
俺は慌ててジャージのまま家を飛び出した!
急げ!香椎さん来ちゃう!
☆ ☆ ☆
家を飛び出し、ひーの幼稚園の横を通り小学校横を駆け抜ける!
小学校横の歩道橋に差し掛かった時、対岸から…香椎さん…。
香椎さんは部屋着だったのかな?
薄い緑の短いチュニックていうのかな?
それに長めの透け感ある白い薄い上着を羽織り俺を見つけて喜色満面、裾を翻して走って歩道橋へ駆け上がる。
…脚長い、すごい綺麗。
絶対普段は露出抑えるのに…よっぽど嬉しかったんだなぁ…
申し訳無さで涙出そう…!
ちょうど橋の真ん中。
香椎さんはそのまま小走りでやって来て…
『…承くんっ!』
ガバっ!と抱きつかれる!
危ない!俺は香椎さんを必死で受け止める!
『…えへへ…ちょっと我をわすれちゃった…♪』
ぺろって舌を出す。
顔が近くて、ハグ姿勢で…身体がカッと熱くなる。
俺の首に腕を回し、瞳を潤ませて可愛らしさに死んじゃいそう!
…でも、俺にはハグを受ける資格は無いわけで…。
横を自転車が走り抜ける…香椎さんを二度見した。
おい、脚見ちゃダメ!
スルッと腕を外して、俺は抜け出る。
『…もう!ありがとうさせてくれないよ!』
怒ってみせるニコニコ玲奈さん…。
ご機嫌ハイテンションは…コレまでのストレスを物語る…。
これ以上傷口広げる前に…!
『…あのね…』
俺は事の経緯を説明する…。
みるみる曇る香椎玲奈の表情…。
…俺はっ…!何で…!
☆ ☆ ☆
香椎さんは真顔で、
『…それは承くんが悪い訳じゃ無いよ…。』
何度も謝る俺に香椎さんは微笑む。
あの憧れの香椎玲奈の輝く瞳が曇り…失望する様を見た俺は何度も謝る…。
ハッとした顔でフォローしてくれるけど…好きな娘にこんな顔させたく無いよ…!
香椎さんはんー!って身体を伸ばして、
『…まぁそんな簡単に上手く行く訳無いよね?
私ついつい承くんを信頼してるから完全に何も考えずに…
ごめんね、プレッシャーだったよね?』
…こんな顔…見たく無い!
笑え!俺!
こういう時こそ
去勢(誤字)でも何でもいい!
大好きな娘の前では胸を張れ!声出せ!
『…今回はね?』
『承くん?』
『今回はこんな感じ!
でも次は絶対に松ちゃんに約束守らせるから!
見ててね?絶対に俺がなんとかして見せるっ!!』
ぱあって笑顔になる香椎玲奈。
頬を赤くして瞳を潤ませ大層愛らしい!
そうそう!その顔!
絶対に俺が何とかして見せる!
俺のコメントにさらに赤くなって、
『もう!もう!私を揶揄って!
…でも承くんだもん…信じるし、信じてる。』
大きく頷く玲奈さんに俺も大きく頷いて見せる。
『…いつも承くんは約束守って…どんな事でも何とかしてくれた…。
もちろんウチはウチで解決に向けて動くけど…承くんだもんね!
きっと私じゃ想像付かないようなまた…秘策があるんだよね?』
俺は頷きながら、
『絶対になんとかして見せる。』
香椎さんはうんうん!って頷いて俺の手を取って、
『…無理はしないでね、ありがとう承くん♪』
『…任せて!』
…そして香椎さんは帰って行った。
何度も振り返り手を振るから俺は帰り時がわからない。
やっと見えなくなって…。
俺は途方に暮れる。
…何も方法が思いつかない…。
もう一度美味いって言わせたら?
そのルールで松ちゃんがやってくれるかもわからないし、もう警戒して『美味い』って絶対言わない気がする…。
何か課題を出してくれれば良いが…
今のままでは、全くもって香椎さんの婚約破棄をなんとかするビジョンが浮かばない。
『美味い』って言わせる勝負もう一回やってくれないかな?
そしたら…俺必死に探し回って
とかバカな事を考えていたんだ…。
松ちゃんの意向が玲奈さんと結婚して俺が2人を祝福する。って事だとしたら…本当に全くなんにも策が浮かばない…。
それこそ手を汚す…しかない。
…出来ない。
それは出来ない。
北翔に特待が決まった望が、
天使の様なひーちゃんが、
子供達命で働き者の母さんが、
家族を愛する漢の父さんが、
いつも陽気で趣味人のばあちゃんが、
真面目で実直じいちゃんが。
俺のせいで後ろ指刺されて…この町で暮らせなくなり、
『人殺しの家族』なんて言われるのは…許されない。
俺は呆然と家に帰る。
香椎さんにあんなに大口叩いて何一つアイディアすら浮かばない。
でも…香椎さんの信頼を…誓いを…。
俺は困り果てていたんだ…。
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