第506話 やった!

新二『…美味い…!』



傍目で見ても空腹と疲れでヘロヘロの松ちゃんは…景虎さんの看板料理スペシャリテを一口食べると恍惚の表情で…そう呟いた!!


『…やった!!』


陰で覗く俺も思わずガッツポーズ!

目をまんまるくして松ちゃんがポカンとしてる!


☆ ☆ ☆


いやぁ!これしか浮かばなかったんだよね!

宏介に相談してただ美味いだけじゃ『美味い』と言わないかもって言われて…。

先日のバイト手伝いを見て閃いた💡

※祝ロマサガ2リメイク(二度目)


景虎さんに相談して…折よく新作品評会を松ちゃんが勝って…!

基本的に労働をまともにしない松ちゃんを働かせて、緊張させて、

香椎さんと松ちゃん知り合いの鶴田さんまで呼んで緊張感を増して!

ランチタイムの地獄を味わいながらてんやわんや!アドレナリン出まくりで夢中でわかんないだろうけど疲労は増加する。

そして順々に入る賄い休憩で…自分も空腹で疲労してるんだ、腹減ったって思い出して貰って…

引っ張って引っ張って…景虎さんのスペシャリテ!!

極みハンバーグカレー『雪月花』


あれしゅごい。

思い出しただけでヨダレが…!


基本暖衣飽食で暮らす松ちゃんがモノを美味しく感じないのは…

労働しないのと飽食のせいだと思うんだ。

働いて、働いて。

疲れたー!解放されたー!

お腹減ったー!うま!


コレが俺の考える1番ご飯が美味いシチュエーション!

それを!喰らわせた!


☆ ☆ ☆

ポカンとしたままの松ちゃん!勝利を確信した俺!

…コレで…香椎さんを…玲奈さんを解放出来るっ!

憧れのあの娘が喜び笑う姿が見れるっ!

…例え俺のものにならないとしても…!


俺はニコニコで松ちゃんに歩み寄り声をかける。


『『美味い』確かに頂きました!』


新二『…違う!違うんだ!』


景虎『おぉん?俺の『極みハンバーグカレー雪月花』が美味く無いわけないどろぉん?!

…お前食い続けてるじゃねーか!』


景虎さんが般若みたいな顔で凄むけど…確かに松ちゃんは皿を手放さずに口へ運び続けてる。

ぷっw


『…違うって…食べ続けてるじゃない!』


新二『…違うんだ!』


潔く無いな…!

正直コレしか浮かばなかった。

俺が知ってる最高に美味いものを最高シチュエーションで食ってもらう。

…これしか。コレでダメだと本当に絵が浮かばない。


景虎さんもニコニコ!俺もニコニコ!


景虎『な?美味いだろ?

…今日は仕事して、お客さんや友達にもうまい!って言って貰って嬉しかったろ?

店やっててお客さんのおいしかったよ!とか幸せそうに店を出る表情たまらなかったろ?』


松ちゃんは呆然と頷く、皿はもう空っぽ。


景虎『…新二にもそうゆう気持ち味わってもらいたかったんだよ…。

そっちも『美味かった』だろ?』


景虎さんは茶目っけたっぷりにウインクした。

…景虎さんは格好良いな。


俺も!


『…じゃあ松ちゃん!

男に二言は無い!

…コレで香椎さんの婚約…円満に破棄して…くれるよね?』


松ちゃんは黙り込み、下を向き、絞り出す様に…




新二『…なーんちゃって!

コレだけであんなに綺麗な女子高生手放す訳無いだろ!』


ふぇ?



新二『冗談だ!冗談!からかったんだよ!

グルメ漫画じゃ無いんだから!美味いって言わせただけで結婚っていう人生の重大事決めたり止めたりするわけねーだろ!?』


バリバリ自己嫌悪抱く瞳で俺に逆ギレし出す松ちゃん!

はあ?はあぁ?!


『…グルメ漫画のくだりはそうかな?とは思うよ!

でも松ちゃんが言い出した事でしょー!

男なら…漢なら約束は守れよ!!!』


店の裏口で遂にキレた俺は止まらない!

約束!守れ!

言い募る俺に言い返せない松ちゃんは顔を赤くして黙り込んで行き…


『…絶対に婚約破棄はしない…!!

幸せにするから!承も玲奈さんも…側に居てくれよ…!』


松ちゃんは裏口からコックコートのまま飛び出して青いスポーツカーで走り去った。


『…呆然として声が出ない…。』


俺は呟いた。



☆ ☆ ☆

俺のシフトも終わり、保利くんに一緒に帰ろうって誘われたけどなんか口実を設けて1人で自転車で帰る…。


香椎さん…香椎さんにこの事なんと報告したらいい…?

俺は泣いた。


俺が強かったら…権力があれば…お金があれば…地位があれば…俺との約束を反故になんて出来ない。

俺がヤクザの親分だったら、屈強な格闘家なら、越後の龍こと上杉謙信だったら怖くて約束破れないだろ…。


あの綺麗な娘の失望する顔を見たくは無かった。

俺は重い気分で家路に着く。

家に帰るとひーちゃんが抱きつく!


ひー『にいちゃん?ちゅかれたの?』


『…人生に。』


ひー『ぎゅー!!』


ひーちゃんが強く抱きしめてくれる…うちの弟マジ天使…!

ひーちゃんを抱き枕にする望の気持ちわかるわぁって思いつつ、早めの夕飯を味がしない状態で掻き込み俺は自室でスマホを見つめる…。

何と言えば…何を言えば…。

『美味い』って言わせられなかった!よりタチの悪い結果。

今回の作戦を玲奈さんに説明したら、


玲奈『承くんすごい!それなら言わせられるかも!』


無意識の条件や言いやすいシチュエーションなど色々教えてくれる才媛香椎玲奈。

ほんとこの娘は博識だなぁ…俺は感心しながら礼を言う。

昔調べたことがあったからだよ!なんて謙遜してた。

44話溢れでた好意 参照。古いw

https://kakuyomu.jp/works/16817330656200078233/episodes/16817330657992470737



玲奈さん案で細かいところ付け足したり、鶴田さん連れていく!なんて肉付けされた今日の作戦…結果教えてね?って言われてたんだけど…

はぅ…ため息吐きながらスマホを見つめる…ぶるぶる!振動!

もちろん着信相手は…


『香椎玲奈』



俺は泣きたくなった。








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