第495話 贅沢
…そこは別世界だった…
外見は日本家屋っぽいのに内装はオシャな洋館のよう。
艶のある木材が間接照明とランプのオレンジの光を反射する…。
綺麗なお姉さんのウェイトレスさんが、
お姉さん『ご予約の香椎さまですね?
お待ちしておりました…こちらへ…。』
物腰が優雅!
見た目美人ってだけで無く指の先にまで神経が行き渡っているであろう物腰!
手をシュッて伸ばしてピタって止める。
目を見てニコって笑いすぎないのに敬意というか…おもてなし心を感じる…。
接客歴長いのかな?この物腰に比べたら俺…元気と爽やかさだけ!
気品…心?…あと所作。すごいお姉さんだ…!
俺だってバイトとは言え俺カレでホールに居てお客さんに接している。
このお姉さんプロ…!
入店して挨拶、案内、椅子を引いてくれるとこまでで俺は感激!
しゅごい!
お姉さん『…では香椎さま、ご予約の厳選コースで宜しいでしょうか?』
優奈さんはお願いします♪って返事をした。
個室…だからドレスコードゆるいのかな?
ウェイトレスさんに見惚れて俺は今更ながら気付く!
シャレオツな個室!
すっごい夜景!
ゆったりしたカウンターみたいな席に3人並んで座ってる!
カウンターは向こう側が鉄板になっていて…初めて見た…!
精々お好み焼き屋さんみたいなの想像していた…!
ぎゅむっ!!
痛った!!
玲奈『…綺麗なウェイトレスさんだったね?
…承くんは年上お姉さん好きだよね…?』
『…香椎さんちが…』
ぎゅむむ!!
痛った!
玲奈『…香椎さん香椎さんって!ここには香椎さんしか居ないでしょ!
どっちの香椎さんですか?立花さん?』
優奈さんはニヤニヤしながらその光景を見てて、
優奈『この場には香椎しか居ないから以下略。』
玲奈さんは涙目で、
玲奈『…最近ずっと!ずーっと香椎さん香椎さんって!
年上のお姉さんがそんなにいいの?私だってすぐ年上のお姉さんになるから待っててよ!』
『いや…同学年なんだから…まあ年上だけど。』
玲奈さんはガーン!!って表情で、
玲奈『…承くんまだ16?3月生まれだって…そう言えばなんで誕生日教えてくれないの?』
…今まで何度かその話になったことがある。
俺は毎回濁してて…
『…3月17日生まれ。
…卒業式の後に誕生日来るから揶揄われるんだよ…
青井とかが中学卒業式のあと15の夜!とか騒いでるのに俺まだ14だったし。』
なんか…誕生日知らせて何も無いと…悲しいじゃないか…。
優奈さんがまた余計なことを言う。
優奈『年上なんだ…玲奈?』
玲奈『…同学年だもん!』
玲奈さんは昔年上が好きって言ってたなぁってチクってする。
玲奈『でも…年上お姉さんばっかりじぃって見つめちゃって…!』
玲奈さんはご機嫌斜め。
さっきまでご機嫌だったのに…。
俺が何か間違えたのだろう。
隣の優奈さんが目配せする。
そもそも席なんで俺真ん中で香椎姉妹に挟まれてるの?
…わかってますよ。
『…玲奈さん。』
玲奈『ふぁいっ!』
玲奈さんが背筋ピンって伸ばして返事してくれる。
でも俺にはFight!!って聞こえた…今日も戦いが始まる…!
『俺が見てたのはウェイトレスさんの所作。
俺もアルバイトでウェイターするからさ…。
あのお姉さん所作がキビキビしてるけど品があって指先まで神経が行き届いていてて緩急が美しい。参考になるなぁって思って見てただけ。』
玲奈『そうなの?年上のお姉さん綺麗で視線を奪われていたんじゃないの?』
涙目玲奈さんすっごい可愛くて破壊力ある…そして罪悪感。
『そう。俺もああいう綺麗な接客出来るようになりたいなぁ。』
玲奈『向上心持ってるのはすごく良いと思うな!
頑張ってるね?承くんはすごいね。』
こういう小さく褒めてくれるのが俺をいつも励ましやる気にさせる。
香椎玲奈は褒め上手なんだよ。
優奈さんはその光景をずっとニコニコしながら見ててくれた。
☆ ☆ ☆
お姉さん『先付けです♪』
山芋を薄いマグロを漬けたもので巻いてオクラを切った物とタコあしを輪切りにした和え物…。
爽やかな旨み…!
優奈『…精がつきそう♪』
精がつく…?スタミナ?
そのあとサラダが出て…
『うに?』
玲奈『うにうに♪』
優奈『次は黒毛和牛サーロイン50gだよ?』
もうメインディッシュ?!
優奈『あ、一個100gにしてください。』
黒毛和牛サーロインってパワーワードに驚愕していると。
玲奈さんが囁くように、
玲奈『承くんはいっぱい食べるでしょ?承くんは増量しておいたよ♪』
『…忠誠を誓います…!』
優奈『今日は承くんおもてなしだからお肉メインコースだからね?
このあとアワビ、フォアグラ、黒毛和牛のテンダーロイン、特製鉄板ガーリックライス、シェフ特製デザート、カフェってコースだよ。』
『テンダー?ふぉあぐら?
焼きそばは…?』
優奈さんはキョトン顔、玲奈さんと似てる。
優奈『焼きそば食べたい?頼んでみる?出来るか?』
『…いえ…。』
…理解が及ばない…サーロインステーキは知ってる。流石に俺でも。
テンダー?優しいとかそういう意味だったような…?
テンダーロインとは…?
そしてふぉあぐら?あぐら?足の部位?
…!
世界三大珍味とやらのアレ!
…本当に俺の知ってる鉄板焼きとは違う…!
お好み焼きやもんじゃ的なものでも無い…!
将来もし大学生とかになってデートで鉄板焼き行こう♡とか女の子に言われるがままここに連れて来られたら一晩で破産してしまう…!
おじさん『それでは…黒毛和牛50gです、お一つ100gですね?』
優奈『はい♪』
焼き加減は優奈さんはレア、玲奈さんはミディアム、俺は慌ててミディアムをコール!
目の前の鉄板…さっと油?そこに…サーロイン…!
…そこに…お肉っ!色、艶…セクシーすら感じる…。
ぎゅむ!
痛った!
玲奈『…お肉ばっかり!』
『仕方無いんじゃ…!』
ぷんすこ玲奈さんはそれはたいそう可愛らしくって…
おじさんが慣れた手つきでお肉をカットして均等に表面に焦げ目を付ける!
お肉が良い音を立てて燻る!
鉄板とお肉に挟まれた隙間で油が爆ぜているのかお肉は扇状的に揺れ動き自身のセクシーさを視覚、嗅覚で俺に訴えかけてくる…!
※今日は玲奈に目が行きません(笑)
ぎゅむ!!
痛った!玲奈さん!
玲奈『…もう!お肉ばかり!』
優奈『玲奈、承くんの太ももアザになるよ?ごめんね承くん知らなかったけど玲奈は嫉妬深いとこあるみたい…。
玲奈?暴力彼女なんて今時流行らないよ?』
俺もも肉が死んじゃう…玲奈さんは力つよい。
ごめんごめん!慣れないお店で興味津々で!
…お肉…こんなに視線を惹かれるとは…!
玲奈『すいません、ライス…大盛りで♪』
!!
ライス頼めるの?、
ガーリックライスあるって言うから…。
玲奈『ん?承くんの分だよ?
白飯欲しいって顔してたもん♪』
『…玲奈さん…好き!』
玲奈『ふぇ?』
白米♪白米♪白米♪
焼かれたお肉が俺の前の皿にそっと置かれる!
トリュフ塩してあるって言われてる…
ガーリックソースと特製タレ、わさび醤油ソースの3種…!
『…いただきます。』
姉妹が横から見てる…視線を感じる。
ガーリックソースをちょんって付けて…はむ。
美味いっ!てーれってれー♪って空耳がした!
赤身と白身の絶妙なバランス!
柔らかなのに弾力!
熱くとろけて口の中牛の旨味!旨味!
さっきまで視覚、聴覚で誘惑してきたこの悪女はさらに味覚、触覚で
俺を誘惑する!
…痛覚も玲奈さんに頂いてるので俺は今日五感フル稼働中。
一瞬惚けて…白米をかき込む!!
飯!うま!
うま!うまだよぉ!ひーちゃんのコメントが脳内再生される!
脂って旨味なんだよ…!
夢中になって食べる!
多分…いや間違いなく今までで1番美味しい肉…!
蕩けるっ!
おじさんはさっと鉄板を拭き、アワビ…アワビは正直よくわかんない…。
コリコリしててうまい…。
あの貝みたいなやつだよね?
おいしいです。
そして…ふぉあぐら…。
確かなんかアヒルの脂肪肝的な…やつですよね?
おじさん『…フォアグラです…ソースは横のそちらを…。』
優奈さんと玲奈さんはパクって食べて、
優奈『濃厚♪』
玲奈『ね?承くん?』
俺さっきから写真ばっかり撮ってる…。
これがフォアグラ…。
そんなにレバーって得意じゃ無いんだけど…。
パクリ。
うま!鳥の旨み?
焼き鳥の旨みをぎゅーって濃縮してバター加えたような?
これが…絶対自分では頼まないけど美味い!
優奈『良かった、好き嫌い別れるわよね。』
玲奈『そうそう、美味しいけどレバーダメな人も居るしね?』
『ご飯2杯いけます。』
※米もぐもぐ。
その後旬の焼き物でエビとイカが焼かれて出てきて…
本来ならこれだって十分話題性…しかし今日もうダメじゃ…!
カルチャーショック…!
20階の夜景綺麗だなー。
そして…
おじさん『黒毛和牛テンダーロイン50g、一つ100gです。』
さっきフランベしたんだぜ?洋酒かけて燃えさせる奴…
あんなのシェフ大泉しかやってるの見たことない…!
優奈『サーロインも美味しいけど私はこっちのが柔らかくて好き♪』
玲奈『美味しいよねっ♪私はどっちも♪』
承『なんせ優しいですもんね?』
玲奈さんはこっそりと、
玲奈『テンダーロインはフィレ肉なんだよ。
赤身と主体だけどすっごい柔らかくて美味しいし、カロリーもサーロインより低いからヘルシーだよ♪』
…そのこっそりが近くて俺の頬は熱くなる…!
あ!!お肉来たぁ!
玲奈『…今日の承くん…お肉に気が行き過ぎてる!』
玲奈さんは今日機嫌が悪い…?
…テンダーロインさんはSirの位は持って無いけど柔らかく美味い。
フィレって食べやすくて柔らかいけどこんなに旨かったっけ?
玲奈『すいません!ご飯お願いします!
…承くん見てたら…私も欲しくなっちゃった…!
承くんもう一杯いく?』
照れ顔玲奈さんの誘惑に頷く俺。
うんまぁ!肉米肉米無限に行ける!
その後のガーリックライスはその鉄板の脂を使い、ガーリックチップとお肉を鉄板でジュージュー焼いていく。
ヘラと鉄板が擦れる金属音がテンポ良くって調理の光景も見てて面白い。
『香ばしい!そして旨い!』
優奈『ちょっとおこげっぽいカリカリ部分が香ばしいのよね!』
玲奈『チャーハンとまた違うよね!』
この時点で米だけで3杯(大盛り)行ってる俺は…幸せ…!
最初は何食ってんのかわからないアウェー感あったけど…
薄暗い店内の雰囲気と照明が料理と夜景を楽しませる為のものであるとか、
薄暗い室内は他客に煩わされないようにって理由なのかな?って店のコンセプトを気付かされる。
…シェフ特製デザートは出来立てジェラートって…?
なんか専門の鉄板が持ち込まれて…
冷たい鉄板なの?!
目の前で牛乳、生クリーム、いちごが潰されて混ざられて、シャーベット風になっていき…ジェラート!!
優奈『冷たくて美味しい♪』
玲奈『ライブ感あるよね♪いちご甘すっぱい♡』
『…全然脂重くなかったけど…爽やかで食後間しゅごい…!』
ジェラート作る工程をムービー撮った俺はご満悦。
食後のカフェタイム…!
玲奈『はい!アイスコーヒー無糖でミルクだよねっ♪』
…覚えていたんだ…よく放課後の美術室でおやつタイムの時、俺は必ずソレを頼む…。
コーヒー苦手だった俺が言えなくて頼んでいたヤツ…。
優奈『玲奈詳しー!さすが嫁!』
玲奈『お姉ちゃん!冷やかさないで!』
お肉の満足感ありすぎて…ちょっとぼーっとする。
夜景綺麗。
玲奈さんも瞳をキラキラさせて夜景に見入っている。
…いつか大人になったら…ひとりで計画して…この娘をこういうところに…。
…ひとつ大人になった気がした16の夜だったよ。
☆ ☆ ☆
帰りは優奈さんの車で帰る。
家まで送っていただけるそうな…。
松ちゃん関連の報告をして、松ちゃんが新一さんと会えたこと、松ちゃんママに最近会っていること、松ちゃんが俺カレに馴染んでいること、こないだの釣りキャンプの話しをすると、
優奈『そこまで食い込んでるの?!』
玲奈『承くんすごいでしょ!』
…想定より俺が松ちゃんに食い込んでるのに驚く姉妹。
まぁそうだよね。いくらなんでも香椎家としては俺の力なんかアテにしていない。
俺がパパなら娘の友達がなんとかするって言ったってありがとうとは言うけど自分の力で破談にするべく動くだろう。
…でも、もちろん俺は俺で玲奈さんとの誓いを果たす為に動くだけ。
絶対に解放してみせる。
香椎家サイドの動きは都内の弁護士の先生と面談して決めたとのこと。
女性の良い先生だったそうで。
さっそく法に則り、婚約破棄を申し込む手続きに着手したと。
パパさんも慰謝料は言い値で払うって言い切ってまずは申し入れる段階。
優奈『…だから承くんが新二さんと親しくなってくれてクッションになってくれるだけで…大助かり。ね?玲奈。』
玲奈さんは頷き、
玲奈『…破談、即絶縁じゃなくて…。
承くんが新二くんの…それなら私だって婚約者や奥さんじゃ無いなら新二くんと繋がりあっても良いって思ってるもの。』
玲奈さんは譲れない。でも玲奈さんを解放即バイバイってつもりは無い。
なんとか上手くそこを伝えて行きたいって思う。
いつもと違う道で車を飛ばしてる優奈さん。
後部座席に俺と玲奈さん。玲奈さんは助手席に座らないんだな…。
見覚えのある通り…!
『あ、あの駅前タワマンが松ちゃん家なんですよ?
402号室。』
優奈『え?高層階じゃ無いの?』
『怖いし面倒だそうです。』
優奈『…そこだけはなんかわかる気がするわね。』
マンション手前の交差点の赤信号で停車中。
そぉっと玲奈さんに耳打ちするように顔を近づける。
赤信号に照り返しで玲奈さんの顔は赤い。
玲奈『…どうしたの?なに…かな…?』
『あの斜向かいのカフェであっちゃんがバイトしてるんだ…
制服格好いいんだよ…!俺通ってるからね!』
玲奈さんはトロンとした顔からキリっと目を怒らせて、
玲奈『今日の承くんひどい!』
『…ちょっと何言ってるかわからない…?』
女心と秋の空って言うもんね…まだ夏だけど。
今日は贅沢な1日だったな…玲奈さんに会えて美味しいものを食べられて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます