第491話 兄弟は語り合う

…そして、新一さんと松ちゃんが会う日が来た。

少しでもアウェー感を無くす為に場所は俺カレ。

俺は立ち会わないよ?だって他人だもんって言うと、


新二『弟だろ!それとなく近くに居てくれよ!』


『それ言ったら松ちゃんだって新一さんの弟でしょ。バイト中だから…気をつけとくけど。』


って。まぁ勤務中でフロア全体なんと無く見てるから…そう言うと松ちゃんはうんうん頷いて…

時刻は13:30少し遅めなお昼ご飯って時間。

松ちゃんは緊張のあまり12:30から来ててもうすでにハンバーグセットをライス大盛りで平らげている。

エアコン効いた室内なのに汗をかきかき。仕事済ませて来たのかスーツびっしょびしょ!

平らげたハンバーグセットを下げて、クリームソーダを注文して…


景虎『へらっしゅー!!』


新二『!!』


景虎さんには言ってある。

今日兄弟再会(?)の日なんだと、今日はからかい厳禁!

松ちゃんのリアクションから彼が新一さん…!

スラっとした180cmくらいの爽やかイケメン…松ちゃんが兄じゃない?って思うほど。

…新一さんが28、松ちゃんが27だけど…松ちゃんのが年上に見える…!


新一『こんにちわ、待ち合わせなんですが…?』


『松方さまですか?こちらへどうぞ!』


俺は新一さんを案内する。


緊張の顔合わせ。

イベントや食事会では顔合わせるけど一言も会話は無いままもう10年以上…。

松ちゃん…もし兄ちゃんとダメでもさ…俺が居る、弟分の俺が居るよ。

そう思ってたけど…




新一『…新二…話すの久しぶりだな。』


新一さんは優しく爽やかに微笑んで松ちゃんの向かいに座った。

少し嬉しそうに松ちゃんに笑いかけた。


新一『…忙しくってお昼まだでね…新二も何か食べるかい?

カレーの匂いで店内入ってからもうお腹が鳴ってるよ。』


恥ずかしそうに新一さんは笑った。


新二『…じゃあハンバーグカレー…。』


新一『お!良いな!僕もそれにしよう。

店員さん、オーダーお願いします!』


近くで伺ってた俺がすぐにオーダーを受けに向かう。

新一さんは声色も優しくて紳士。

明らかに歳下の俺にも丁寧にオーダーしてくれる。


新一『…新二…それだけで良いの?食いしん坊だったろ?』


新二『…大丈夫だよ。ガキじゃないんだから!』


新一『はは!では以上で。お願いします♪』


断然松ちゃんより第一印象が良い!

新一さんはイケメンの上に話し方、気遣い、物腰どれを取っても優しい温和な大人の男だった…でも実は裏が…とかあるんでしょ?


新一『…新二、新二の方から声かけて貰えるなんて思って無かったよ。

ありがとう、でもどうした?なんか困った事でもあったのか?』


杞憂だった。

新一さんマジ紳士!

久しぶりの弟(コミュ障子供部屋おじさん)を気遣いつつも会話を回し、松ちゃんが話しやすいように急かさずのんびり会話して…なんなら久しぶりの兄弟の会話を楽しんですらいる空気…。

何故?コンプレックスこそあれ拗れるような兄弟には見えない。


新二『…俺…最近ママに会ってて…。』


新一さんもピクって反応。

後で松ちゃんに聞いたのは執事さんにも聞いた、新一さんも年1位は会いに行くけど認識されて無いってこと。新一と新二は?って聞かれてること。

松ちゃんは勇気を出して提案した。


新二『…だから、兄貴。

一緒に…ママに会いに行かないか?

兄貴と俺と二人で。

…ふたりで会いに来たよって…。』


新一さんは一瞬呆然としていた。

でもすぐに大きく頷いて、


新一『…行こう、新二!

執事さんにタイミング見て貰って!

ふたりでママに!』


新一さんは少し俯いて、


新一『…僕はきっと新二に恨まれてると思ってた…。

僕と比べられて、家族が別れるキッカケになって…。』

※詳細は後日


新二『俺の方が!

…きっと俺ばかりパパに贔屓されて…能力も無いのに後継に…

きっと兄貴に恨まれてるって…!』


新一『…僕たちはもっと早く話すべきだったね…。』


…もう大丈夫。

兄弟の間に積もる話もあるだろう。

これだけで仲良し兄弟になるとは思わない、でもキッカケは出来たと思う。

…子供の頃とは違う。

どんな兄弟でも大人になれば自分の世界が出来て、自分の家族ができて疎遠とは言わなくても距離は空く。

…それでもたまに会えばあの時ああだったなんて話が出来れば数年のブランクなんて忘れてあの頃の兄弟のように戻れる…。

今日はそのキッカケを作れる手伝いを出来た事が少し誇らしい。

いつかこの松方兄弟が、

あの時まで全然話さなかったなぁとかあの時ハンバーグカレー美味かったとか思い出してくれたら良いなぁって思う。


ばん!って急に肩を組まれた。

景虎さん?景虎さんは窓際席で松ちゃんが嬉しそうに話し、新一さんが楽しそうに相槌打ってる兄弟の光景をみながら、


景虎『…ああ言う思い出はいつまでも忘れない。

きっとこの店で、ハンバーグカレー食べてなんて…事あるごとに思い出す。

お店やっててそうゆう場面に出くわしたり、あの時の思い出の…なんて言われるのもお店やってる醍醐味なんだぜ?』


『…そうっすね。』


景虎『新二の奴、顔くしゃくしゃにして!

初めて会った時と顔変わったよな?』


『そうっすね。』


その光景は微笑ましくって…俺は邪魔しないように気をつけて仕事をこなした。


☆ ☆ ☆

1時間も経った頃だろうか兄弟は食後の飲み物も飲み終わり、退店する。


新二『俺が払うよ!』


新一『たまには兄貴らしい事させろよ。』


微笑ましい兄弟の姿がそこにはあって。

俺はニマニマ。

俺のニマニマに松ちゃんは気付いて恥ずかしそう!


新一『お会計お願いします、一緒で。』


『はい!

ハンバーグセットひとつ、

クリームソーダひとつ、

ハンバーグカレーふたつ、

アイスコーヒーふたつで合計…』


新一『ハンバーグセット…?

僕が来る前に食べてたの?

新二!やっぱり食いしん坊のままじゃないか!』


新二『…!

兄貴!』


新一さんはあはは!って笑って松ちゃんは恥ずかしそう!

先出てるわ!って松ちゃんは飛び出した!

俺カレ勢からイジられると思ったのかも知れない。


新一さんはスマートにカードで支払いながら、


新一『君が承くん?』


『あっはい、立花承です。』


新一さんは目を細めて微笑んで、


新一『新二から今日何回も君の名前が出て来てね?

…まだ高校生だけど弟みたいな友だちって。

新二の事よろしくね?』


『…はい。』


新一さんは男から見ても魅力的な笑顔で、


『いつか君とも話してみたいな。』


そう言って松ちゃんが待つ外に去っていく。


松ちゃんを兄の様にって思い定める心に嘘は無い。

でもそれは香椎さんの為の延長線ではあるわけで…。

…いつか…香椎さんとのことで…この関係が終わる日が来るのだろうか?

香椎さんをうまく解放出来た時はきっとそのまま松ちゃんとの付き合いは続くだろう。

…それとも…。

なんとなく胸の中にざらつきを残しつつバイトをあがる。



☆ ☆ ☆

18:15。

ジャスト夕飯時に家に帰って来れた!

…もう食べ始めてる…!


ひー『にーちゃ!!』


ひーちゃんが台所から飛び出して腰の辺りに抱きついてくる!


『ひー♪』


…なんかさっきの兄弟の再会シーンを見て、俺はたまらずひーちゃんに頬擦り!

愛しい!弟愛しい!


望『…あ、おかえりー。』


家族が食卓に並ぶハンバーグをよそにちょうど帰って来た俺を労ってくれる中、妹はハンバーグしか見て無い。このくそガキ…!


母さんが慌ててご飯をよそってくれる!ハンバーグ!大好物!

俺仕様の大きなハンバーグ♪


バイトの話しを食卓でする。

松ちゃんがね!今日兄さんと数年ぶりに話せたんだよ!

話しながら大盛りご飯を食べ終わりおかわり!

それでね?


2杯目も残り三分の一。

その頃には家族は食べ終わってて。

ハンバーグの残り四分の一をご飯三分の一でかき込む!

コレが俺の黄金比率ジャスティス!!


『それでね!

…?』


…俺のハンバーグ…?


望『…しょせん、この世は弱肉強食…強ければ生き弱ければ死ぬ…!』

※むっしゃむっしゃ咀嚼中。


…このくそガキ!!

この恨みはらさでおくべきか!


母『望!ほら承、母さんのちょっとあげるから…!』


『…母さんは望にあますぎ!』


俺の抗議に母さんは笑いながら、


母『お兄ちゃんが1番甘いクセに♪』


って笑われた。


望『今日も母さんのハンバーグは美味いっ!特に兄ちゃんのくれたヤツ!』


くれて無いわ!

…ふーん、良いんだ?そんな態度取って…?


『…今日ケーキ買って来たんだよね…。』


うちは皆んな健啖家!

ケーキと聞いて色めきたつ!

…でも1番の食いしん坊が…!


望はえへへ♡って媚びっ媚びの笑顔で、


望『お兄ちゃん♡

あたしぃ…チョコレートケーキとショートケーキ食べたいよぉ♡』


『お前の分は無い。』


ぴしゃり!

望は慌てて、


望『被告人は空腹状態による心神喪失状態でした!』


『香椎さんにそれで無罪になるか聞いてみろ。』


望『…ひーちゃんたすけて…。』

※うるうる。


ひーちゃんはキラキラした瞳でショートケーキを見つめていたけど姉の懇願に仲裁に入る。


ひー『…にいちゃん…みんなでたべるとおいしいよ?

ねえちゃんもはんせいしてるからゆるしてあげて?』


『…のぞみ…。』


望が緊張感のある表情で固まる。


『よし!』


バッ!と音を立てて爺ちゃんに取られそうだったチョコレートケーキを確保してすぐに頬張る!


望『…うま!うまだよぉ!』


『良かったな。』


その笑顔に結局笑っちゃう俺は兄バカ。


☆ ☆ ☆

21:30就寝前、自室。


『…ってわけでさ。松ちゃんたち10年以上ぶりに会話したってわけ。』


望『…考えられないね…。』


寝る前のまったりタイム。

お互いスマホいじりながらそんな話しをする。

明日は仙道と会ってその後伊勢さんと紅緒さんとランチ…。

あっちゃんも来ないかな?宿題持ち寄ってさ?

青井が部活次第だな…。



『…仲良くても…大人になると疎遠になっちゃうんだよな。

なんか寂しいな。』


再会(?)を目撃したのに俺が思ったこと、怖かった事はそこだった。

口では『うちは違う!』『それは兄弟それぞれ思いあえば!』って言える。

でも…口ではなんとでも言える訳で。


俺が今日思った事は、

一緒に居てもいつかは別々に暮らすようになり、各々の暮らしが優先に。

それは決しておかしな事でも悲しむべき事でも無く…なんなんだこの胸のモヤモヤは。

そんなことをぼーっと思ってると、



どん!って背中に妹の感触。

うつ伏せでスマホイジる俺の背中に望が乗ってる!


望『うちは違うね?』


望はドヤ顔で俺の背中をギュッギュって指圧しながら、


望『うちは上から下にって兄ちゃんが教えてくれた伝統がある!

あたしは兄ちゃんにして貰ったことをひーちゃんに!ひーちゃんはきっと…兄ちゃんの子供?に返すんだよ!

きっとぐるぐる巡って…うちは大丈夫!』


なんの根拠も無い…だけど何故か妹の言葉が俺は嬉しい。

きっと俺がこの関係を大事にしたい、ってメッセージを望なりに受け取った返事なのだろう。


望『もう!兄ちゃんは妹弟大好きだなぁ♪

今日は一緒に寝てあげよっか?

ひーちゃん!!』


隣の両親部屋に大声!

ひーちゃんもう寝てるだろ?


がちゃ、


ひー『…にゃに?』


寝ぼけひーちゃん!


望『ごめん!起こしちゃった?』


ひー『…ぼくねえちゃあとにいちゃあのあいだでねるぅ…。』


慌てて布団を敷き直す!

ひーちゃんはすぐに寝ちゃって、望もすぐに寝落ちして。


ひー『…くぴぃ…くぴー。』

望『…むにゃむにゃ…えらべないよぉ…。』


ただただ愛しい。

二人オデコを撫でながら俺は思う。

自分より大事なモノが俺には三つある。

玲奈さんと妹と弟。

自分より大事なモノがある、それが俺には誇らしい。

そんなことを思った16の夜!

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