第489話 ママの認識

そして再度の松方邸離れ。


ママ『あらあら…また来てくれたのね?うれしいわ♪』


ママさんは今日も薄ぼんやり。

でも流石に3回目。お互いに硬さも抜けて少し冗談なんか言ったり…。


新二『…何か不自由無い?』


ママ『…。』


『不自由な事無いですか?』


ママ『…とくにないわねぇ…。』


童女のような仕草で首を傾げるママさん。

認識されない松ちゃん。

初回から執事さんに強いショックや直に触れるのは禁止されてる為、松ちゃんは悔しそう…いや悲しそうに俯く。


執事さんの目配せにそろそろお暇を切り出す。


『ご馳走さまでした!』

新二『ごちそうさまでした。』


ママ『ふふ♪最近あなたたちが訪ねてきてくれるの楽しみにしているのよ?』


松ちゃんと顔を見合わせる。

松ちゃんは嬉しそうに、


新二『また来るね!』


ママ『…。

しんいちとしんじはどこに行ってるのかしら?』


『…新二くんはもう社会人になって働いてますよ?』


ママ『…そうなの?』


ママはぼんやり。俺たちはお暇して出て来た。


☆ ☆ ☆

離れを出て。


執事『…だいぶ反応が出て来ましたが…まだ坊ちゃんと認識されては…。』


執事さんは首を振るけど松ちゃんは前向きで。


新二『もうじき!もうじきじゃね?

次回辺りママ声かけてくれるんじゃね?』


…俺はそう思えなくてって。

まず松ちゃんの声に言葉に全く反応が無い。

聞こえてるのに無視してるとは違う無反応。

俺が新二くんを大きくなった、社会人になったって段階的にママの記憶の姿と今の姿を繋げようとしてるけどほぼ反応が無いし。

無視してるとは思えないけど認識すらされてない。

俺は意を決して進言する。


『…松ちゃん、新一さんと話してみたら?

ママは多分新一と新二が揃わないとわかんないかもしれないよ?

ママさんが自分の子供に思い入れがあるのはわかる。だったら…。』


新二『…兄貴と…?

俺が兄貴と比べられて…どれだけしんどかったか…!

それに兄貴だってここ10いや15年は話して無いし…。』


狼狽える松ちゃんに執事さんは、


執事『…新一坊ちゃんは年1は奥様に密かに会いに来ています。

…まあ新二坊ちゃんと同じ反応ですが。』


来てるの?でも同じ…。

ふたり揃ったらどうかな?俺は外して親子3人でさ?


新二『…考えてはみる…でも兄貴と…。

兄貴はきっと俺を嫌ってる…憎んでいるのかも。』


松ちゃんは俯いて悲しい顔をした。

なんでこの家は…家族なのに隔意が強くて歩み寄れないのか…。

俺が家族を憎む事なんて…!

…望におかず強奪された時位…!


新二『…仕事行くわ。』


俺も持参したスーツに着替えて二人で会社へ出社する。


☆ ☆ ☆

会社に着くと社員さんたちに挨拶される。

…勿論松ちゃんが。


社長!社長!社長!

すごいよね。

それでも週の半分程度。

大体3時間程度軽い説明聞いて承認印を押す仕事。

後は怖いおばさんの専務さんに少し皮肉混じりで報告受けることだけ。


綺麗どころの秘書さんたちは美人揃いだけど…

なんか全く楽しくなさそうな松ちゃん。

それを聞くと、


新二『あ?楽しい訳無いだろ…多分仕事なんてそんなもんだ。

…世間的にもそう聞くし、俺なんか短い時間で単純作業で超高給取りだぜ?』


…それはそうかも知れない。

でも、身近な大人の景虎さんは大変ながらも楽しそうに働いている。

そんな話をしていると、


専務『社長、そんなバカな話をせずに承認の続きを。』


キッ!って睨まれる。

…秘書さんのひとりがチクったらしい、こっわ!

ここは専務さんの領域で監視されてるような居心地悪さが常に付き纏う。

まだ社会人では無い、けど…俺でもわかるやり甲斐の無さ。


新二『…俺カレ行くかー。』


仕事を終えると松ちゃんは車を飛ばす。

…最近松ちゃんは俺カレのヘビーユーザー(体重的にも)

景虎さん、奥さん、バイトスタッフたちにすっかり馴染んで居心地が良いんだって。

わかる!


食べ終わっても、


景虎『新二!食器下げてくれや?』


新二『…客を使うなよ…!』


満更でもない反応。

金を落とす上客って崇めるように接客する店は数あれど、客じゃねぇ身内だろ?ってアットホームな店の雰囲気がすっかり気に入ってる松ちゃん。

追加でぱへ(ひーちゃん風に言うと)を自分で受け取りに行くセルフサービス俺カレ。

忙しいね、今日は。


多分。松ちゃん的にはコレが本題だったのだろう。

すっごい真面目な顔して、俺に詰め寄るように聞いて来た。



新二『…兄弟ってなんだろうな?

…なぁ承…お前は兄じゃん?

…兄って…下に対してどうゆう感情持ってる?

お前はどう思ってる?』


言葉を飾ってもしょうがない。

松ちゃんが俺に価値を見出すとしたら…正直な意見でしょ。


『兄弟ってなんだろう?兄弟は兄弟でしょ?

下に対してどう思うか?

…自分より大事な存在で…絶対守りたい存在。』


松ちゃんは呆れ顔で、


新二『そうだった…こうゆう男だった…。』


『失礼な!初めからこうだよ。

…松ちゃんとこは年子だっけ?

俺と望みたいなもんでしょ?』


新二『余計わからなくなった!』


きっと兄弟の数だけ関係性は種類があるのだろう。

俺が教えられるのは立花家のことだけ。


『…俺は望と散々ケンカもしたし、散々泣かしもしたしとても良い兄とは言えない。

…でも良い兄でありたいって思ってる。

下の子を可愛くない兄なんて存在しない…!

勿論例外や確執はあるかもしれないよ、でも一回腹割って話してみたらどうかな?』


新二『…続けろよ。』


俺は口が上手くは無い、いつも勢いで突っ走っちゃう。

でも右にも左にも曲がれなくて後ろに下がれないなら…前に進むしか無いでしょ!

俺は絶対に松ちゃんの為になる事と信じて話し始めた…!

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